6-17 来るべき今日~怪獣~
「オオンオオオンアオオオン!!」
走りながらも後ろを確認する。奇妙な泣き声をあげて3つの首を『ベヒモス』に向けた『キマイラ』から容赦の無い魔法の嵐が放たれる。多種多様な魔法が空間を震わせ閃光を走らせ熱を生み出す。煙が晴れるとそこには浅いながらも全身からどす黒い体液を流す『ベヒモス』の姿。
「グルワアアアア!!」
後れを取った『ベヒモス』もまた同様の魔法で応酬する、こちらもまた騒々しく周囲を破壊し砂煙を上げるがそれが晴れると首を引っ込め疣だらけの背中を『ベヒモス』へと向けた『キマイラ』の姿があった。こちらも多少出血してはいるが大した怪我ではないようだ。
その様子を見た『ベヒモス』から背筋の凍る感覚、切り札である光線が『キマイラ』へと向かう。だが、『キマイラ』からもまた膨大なオーラを感じる。
直径5mの光線は、何と『キマイラ』を避けるかのようにグニャリと曲がりその先にあるクリスタルと地面を深々とえぐった。何が起こったのだろうか、見れば『キマイラ』の姿が歪んで見える。『ベヒモス』も面食らったかのように後ずさる。
・・・確かな事は分からないが、もしかしたら『キマイラ』の魔法は空間を歪めたのかも知れない。重力は空間の歪みであると聞いたことがある。もちろん『キマイラ』は巨獣ではあるがそんな程度の質量ではこのような現象は生じない。だが、とてつもなく重量があるものが空間を歪ませることができるのならば、この『キマイラ』の魔法はその最後の現象である歪みだけを生じさせたのだ。確かに全ての事象がエネルギーという形を取るとすればエネルギーから直接さまざまな現象を生じさせることもまた不可能ではないのかもしれない。なんとも恐ろしい、この『魔法』というシステムは!あまりにも自由度が高すぎる。
『キマイラ』の追撃、『ベヒモス』にその長い首を伸ばして肉を食いちぎろうと噛み付く。
「グ、グルワオオオオオオオオオ!!」
絶叫する『ベヒモス』、だが『キマイラ』も牙は刺さっているものの肉を食いちぎるまでには至っていない様子だ。『ベヒモス』は嚙み付かれたまま突進し体当たりをぶちかます、思わず嚙み付いていた口を開けてしまった『キマイラ』だが至近距離から多少の自分へのダメージさえ無視して魔法を放つ。
全般的な身体能力やオーラでは『ベヒモス』が、戦いの駆け引きや経験では『キマイラ』が勝っているか。その強大さゆえに苦戦したことの無い『ベヒモス』とある意味叩き上げのような、蟲毒のようなセカイを生き延びてきた『キマイラ』はその姿以外にも生き方さえ対照的な様子だ。
街の廃墟にまでたどり着く、だが足を止めずに進む。次の瞬間にどちらかの巨獣が命を落とし、目ざとく追ってくる可能性もあるのだ。すでに後ろを見ても巨獣の姿は建物の陰で見られないものの、その戦いの音と衝撃はこの空間全てを震わせていた。