6-12 来るべき今日~退却~
モンスターの襲撃は続く。時折逃げてくるヒトの姿もある、半分以上は途中でモンスターの餌食となっていたが。
徐々にモンスターの質が上がってきた様子だ、魔王獣とまではいかないもののそれなりの力を持った魔法を使うモンスターも少なくは無い。エルフの魔法や石弓では有効なダメージが与えられないようなレベル、そのような相手に対しては多少のオーラは消費しても魔法を使う。怪我をするよりかは随分マシだ。
「ゴエエエエエッギギギギ!?」
カバのようなモンスター、随分と久しぶりの『大口』との出会い。最初にこのセカイで魔法をけしかけてきたモンスターだった。その胴体に雷槍を突き立て、雷撃の魔法で一気に止めを刺す。地上の個体よりも遥かにサイズの大きいその巨体は大地に沈む。間髪入れず機関銃の魔法で橙色の宝玉をもつファングの亜種の群れを近づかれる前に一掃する。頭の上でもフィアが魔法を連発して牽制を続けている。石弓はともかく魔法による援護が随分と少なくなってきた、序盤に飛ばし過ぎたようだ。今は大方『ベヒモス』の為に温存しているという所だろう。もっともこの程度では『ベヒモス』に傷一つ付けられないだろう、だが挑発程度になればそれで事足りる。
「おじ様!」
「ああ・・・来たか」
地響きを上げすでに崩壊した街並みをさらに廃墟と変えながらプレッシャーが迫ってくる。スリングを取り出しポケットに紡錘形の金属弾をセットすると振り回し、投げつける。機関銃の魔法を発動、さらに大盾を構えて大爆発の魔法を放つ。ベヒモスと神殿の距離は大分開いている、先程は侵入地点と大分離れていることもあり熱波を届ける程度しか出来なかったが今度は直撃の筈だ。
盾を構えつつ足を踏ん張り、すぐに動き出せる状態を保持して正面を睨み待つ。
「どうだ?」
「ウ~ン、一瞬だけ止まったケド」
「来てるな」
砂埃の向こうに大きなシルエットが映る。まだ距離はあるが、接近するその巨体の全貌が見えてくる。
「・・・無傷、か。」
不意に、ぞわりとした感覚。盾を構えながら飛び退く、フィアも何かを察したようで鎧の中に潜り込んで来た。
爆風、轟音、熱波、衝撃。それも一発ではない、複数発撃たれたようだ、直撃はしていないがその余波だけでも大きく吹き飛ばされる。背中で地面に一文字を書きつつも『ベヒモス』の姿を確認する。巨大なサイのようなモンスター、大きな白い宝玉が炯々と輝きそれを囲むように等間隔に配置された周囲の色とりどりの宝玉、おそらくこの色とりどりの宝玉による魔法が撃ち込まれたのだろう。まだ相手はその大きな白い宝玉による魔法を見せてきてはいない、クールタイムが魔法には必要な以上奥の手をそうそう使いはしないと言ったところか・・・。
幸いにして吹き飛ばされた場所は突入地点の近く、体を打ちつけはしたものの経過は順調と言ったところか。だが先程の『ベヒモス』の魔法で援護射撃が止まってしまった、他の雑魚モンスターも一掃されたようなので悪い点ばかりではないが。
体を起こして立ち上がる、そして。
「がああああああっ!!」
ウォー・クライ。注意をひきつける。オーラが満ち体が軽くなる。
「グルワアアアアアア!!!」
『ベヒモス』も呼応し不機嫌そうに声をあげる、重低音で極めて大きなその雄叫びは空気を震わせこちらの叫びなど簡単に飲み込んでしまった。その圧倒的な存在に身が竦みそうになるが作戦を強く頭に思い描き体を動かす。一時的に向上した身体能力を存分に使い。
―――――全力で逃げ出した。




