6-7 破綻
クリスタルを掘る、掘る、ひたすら掘る。帰ってくる手ごたえは実に固い。『始原の大樹』近辺のクリスタルは透明性が高く極めて強固、下に向かって掘り進んでいるとその手ごたえは加速度的に厳しくなってくる。現在では掘るというよりも叩き付けて削るといった状態に近くなってきている。順調とは言い難い。
掘り出したクリスタルは大幅に増員された輜重隊によって後方へと運ばれていく。掘る、食事、休憩、これ以外の行動は殆どしていない。排泄物さえ仮設のトイレにある壷にすれば回収されて新しい壷が置かれる始末、食事も水も輸送されて届けられる。。地上組みの面々も上から『ベヒモス』や破壊された街並みを見て危機感と使命感に満ちているようだ。自らの信奉する神の為ならそれはやる気も出るのだろうか・・・知ったことではないがやる気が出るのであれば理由はどうでもいい。
「ふぅ・・・」
「おじ様お疲れカナ?」
「多少はな・・・揉むぞ」
「・・・ンモ~おじ様ったらエッチあべべべべべべ」
疲労によりだいぶ弱くなった握力だがそれが自然と癒されていくように感じる、実際に本当に気のせいなのだが・・・気持ちの問題だ。
『ベヒモス』が入る程度の大きさの横穴を掘ること自体には特に大きな問題は無かったが、落とし穴の進捗具合は芳しくない。真下を見れば、透明なクリスタル越しに地面さえ見えるというのに・・・数センチを刃先に食い込ませるのが精一杯だった。
穴の深さは直径20m、深さ10mと少しといった所か。横に広げるのはまだしも下に進めるのは最早容易なことではなくなってきていた。
さらに暫くの期間穴を掘る作業に徹する、だがどうにも状況は良くない。もはや鋼鉄の壁といっていいほどに足元のクリスタルは固くなり掘削どころか傷をつけるのがやっとといったところだ。
「・・・有しておりません。推定可能受付時間残り5183996。FR負荷増大・・・」
まだ。時間はある。だがこのままこの作業を行ったとしてもタイムリミットまでにあと1m、いや50cmも掘り進めることは出来まい。叩き付けたシャベルは僅かな欠片を得るだけで腕には痺れるほどの衝撃が走る。これが小さな穴を真下に掘るだけであればまだいいのだが落とし穴という膨大な体積を確保しなければならないのだ。
現状の穴のサイズでも、『ベヒモス』の体を沈めることは可能だろう。しかし想定よりも大分浅い穴となってしまっている。いくつか罠を仕掛けるにしても下手をすれば僅かな時間しか足止めすることは出来ない。当初のプランよりもかなり当てが外れたと言えよう。
「・・・まいったな」
思わずそう独りごちる。この穴掘りをギリギリまで続けても成功率はそこまで高いとは到底思えない。希望的観測は捨てるべきだ、現状に固執しても残された時間で得られる成果は微々たるもの。計画通りに事が進まないことなんぞよくある事だ。
―――考えろ、ありとあらゆる手段を使うのだ。