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伝説のシャベル  作者: KY
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5-41 エルフの首都『フーリル・ユーキー』


 翌朝、足音が聞こえて目を覚ます。朝といっても地下はクリスタルのせいで常に明るい、多少寝不足の感はあるもののここで生活しているヒトビトの生活リズムに合わせる必要があった。ノックの音がして用を尋ねると準備が出来たので『フーリル・ユーキー』まで案内する、といった内容だった。フィアをたたき起こして頭の上に乗せる、どうせすぐ寝るのだろうが。



 先頭を案内役のエルフが歩き、前後を獣人に挟まれて移動する。警戒されているようだがこちらも武装はしているのでお互い様だ。


「・・・妖精がトップらしいな、パーネとか言ったか。60年前からか、随分と高齢だろうな」


「ン~・・・それなりカナ?妖精は長生きだからネ!フィアも30年くらい生きてるしネ」


「ッ!?真逆年上だったのか!?・・・有り得ん・・・」


「ヘ・・・?おじ様、年下だったノ・・・」


 衝撃の事実だった。聞けば妖精は300年以上余裕で生きるらしい、その頃になると変わらない日常により自我が薄れ『始原の大樹』の根元に潜り込み徐々に一体化していくのだそうだ。ちなみにフィアはこちらの年齢を60歳くらいだと思っていたらしい、体が大きいのでその分長命だと思っていたようだ・・・まだ三十路前だ、もっとも変質を繰り返しているこの肉体、長生きするか早死にするかてんで分からないのだが。


「!うっふーん、甘えてもいいのヨン・・・あばばばばばばば」


 調子に乗っているフィアを黙らせると黙々と歩く。手の感触を楽しむ余裕も無い、それくらいに衝撃的な事実だった・・・だが、すぐに別にだからどうした、といった答えに行き着く。そもそも存在の根底が違うのだから比べても仕方が無かったのだ。





 『フーリル・ユーキー』に到着する。水郷と城壁に囲まれた堅牢そうな都市、首都というだけあって随分と大きいようだ。周辺には果樹園と思われる整備された木々が遠くまで整然と並んでいる。案内にしたがって門を潜り足を動かす。目的地は中央部に位置する議事堂のようだ、大きな古代ギリシャの神殿のような建物でありここからでもその姿が見える。大通りは石畳が敷かれて整備されており綺麗な家々がその脇に並んで建っている。周囲のエルフからは好奇の視線が注がれているが仕方が無い。獣人は門の付近にしか見かけなかった。


 しかし、裏路地に続く道の奥を見ると、スラムのような小汚く古そうな小屋が未舗装の場所に点在していた。そこにはこそこそと肩身の狭そうな獣人の姿が見える、幾らかの獣人は片耳を失っているようだった、そこまで激しいモンスターとの戦いがここであるようには思えないのだが。だが、それもふとした拍子に目に映った一瞬の光景であった。




 しばらく道を歩き目的の議事堂まで到着する。案内役のエルフはその正面入り口ではなく裏の方へと進んでいく、そちらにも丈夫そうだが粗雑な入り口があった。少しひっかかったのだが仕方が無いのでその入り口を潜り、中へと入る。灯りはあまり無く薄暗い、しばらく進むと獣人が左右を警護する階段があった。


「お疲れ様でした、私はこの先へは行けませんのでどうぞこの階段を上って行って下さい」


 無表情な案内役に言われて階段を上っていく、その先の大きく分厚い扉を開くと、眩しい光が差し込んできた。


 目を細め、開ける。耳にも喧騒という程ではないが騒がしいざわざわとした声が入ってくる。周囲は柵に囲まれておりその傍には槍を持った獣人の警備兵が数多く並びこちらの挙動を睨んでいる、そしてその兵士たちの後ろにはエルフの兵士だろう、腰に剣を差し先端に宝玉のついた杖を持っている。周囲を取り囲むように席に座って好奇の目で注目してくる豪華な服を着たエルフ達が座っており、正面は少し高い位置にあり一際豪華な服を着た老齢の男のエルフがこちらを見下ろしていた。さらにその奥、そこはさらに高くなっていて煌びやかなソファーの上に金色の髪の妖精が座っていた。その表情には嫌な笑いが浮かんでいた。今の自分の位置は議場の中央辺りのようで全方位にヒトビトが居て落ち着かない。



 カンカンッ!!


 ざわつく場を収めるためか、正面の老齢のエルフが木槌で音を鳴らした。にこやかな顔でこちらを見る。


「皆の者、静粛に。そしてようこそ巨人殿、そして妖精様。私は議長でありエルフ族の長、ファクシと申します」


「ストレンジャー・アウトロー、こっちがフィアだ。用件については伝わっていると思うが」


「ええ、ええ存じてますよ。しかし・・・今一度貴方の口から説明をしていただきたいと思いまして」


「・・・いいだろう」


 面倒ではあるが仕方が無いので最早手馴れた説明をする。周りのエルフ達が話を聞き声を漏らす、時折議長からの質問が入るが別段嘘をつく必要も無いので答えていく。にこやかな顔を崩さずに話を進めていく議長、一通りの説明と問答が終わるとざわつく場を収めるため、もう一度木槌を鳴らした。


「静粛に、静粛に。・・・さて、最後に確認させていただきたいのですが貴方がここまでいらっしゃるのを案内した獣人について教えていただける気は無いのですね?」


「ああ」


「成る程、成る程。いえ、確認は取れましたので・・・こちらの答えはすでに用意してあるとおりですよ」


「なら早く教えてもらおう、別段急いでいるわけではないが暇ではないのでな」


「ええ・・・ええ」


 そう言うと議長は立ち上がり、両手を天に掲げた。


「この者、追放者にして野蛮なる巨人族の末裔ストレンジャー・アウトロー。罪人である逃亡者の一味であり、楽園を与えられし選ばれた我等が創造神様より賜った至高の宝玉を奪わんとする悪漢。さらにはコルド砦の防人長より妖精様に対する無礼千万な行いまで報告されている、断じて許しがたい!よって死刑の処す・・・所ではあるが、慈悲深き我等は第一身分たる妖精様、第二身分たる我等エルフ、第三身分たる獣人の下、第四身分として美しく栄えある『フーリル・ユーキー』の永劫なる労働力とし命尽きるまでその野蛮たる怪力を持って至上なる存在に貢献する栄誉を与えるものとする!!さあ、囚われた妖精様をお助けし縄をかけよ!!!」


 その言葉を皮切りに、取り囲むように獣人の兵がが槍を向け、エルフの兵士が杖を向けた。



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