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伝説のシャベル  作者: KY
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5-39 怪物の嘆き

 緑に覆われた大地、牧歌的な風景、柵や壁で囲われたムラやマチ。これは記憶だ、蹂躙の記憶だ。建屋が破壊され、ヒトビトは傷つき倒れ、暗い色の体皮のモンスター達は殺し喰らい進む。だがそこには喜悦の感情よりも恐怖と不安の感情が強い。落ち着かない、慣れ親しんだ風景はそこには無く極彩色の景色が不気味にちらつく世界。周囲のモンスター達はその恐怖に立ち向かうかのように猛り、そして蹂躙を続ける。自分たちの居場所を作るかのように。日ごろは反目しあう捕食者と被捕食者さえも今は共に立ち向かっていた。


 先頭を進むのは巨大なモンスターの姿、それが4つ。視点が目まぐるしく変わる、これは一匹の記憶ではない、もっと複合的な何かだ。そう漠然と確信できる。


 見知らぬ敵地を踏破するように進撃する。その先の先、そこにぼんやりとだが極めて、極めて大きな影が見える。それは引き寄せられるかのように一点へと進んでいるようだった。いや、確かに何かを感じる、この違和感、この力、そこへと向かわなければいけない気が

するのだ―――。




 

 目が覚める。いや意識を取り戻す、自分を取り戻す。また、喰らっていた。無意識のうちにもワイバーンの屍に噛り付き、皮を破り骨を砕き肉に噛り付いていた。それでもまだ空腹感は満たされない、今は本能の赴くままに喰らうだけだ。良く締った淡白な肉質だ、空を飛ぶモンスターのせいか脂肪といえるものがあまり無いようだ。


 周囲にはモンスターや動物の姿は見られない。皆逃げるか遠巻きに様子を伺っているのみだ。生き残った僅かな『デビル』、『バット』はすでに一目散に逃げて行った。


 先程の夢を思い出す。あれはモンスターの記憶か、彼らもまた理不尽にこのセカイへと落とされた自分の仲間だったのか。順応するには、あまりに環境が異なっていたのだろう。彼らの世界、赤い空、黒い大地、暗色の生命、自分にしてみればその光景こそが気が狂いそうになるほど異常なのだが、逆の立場になってみればその恐慌もわかる気がした。

 

 

 食事を終えるとフィアが舞い降りてくる。


「キャハハッ!今回も大食いだネ!」


「前の奴よりかは少ないな」


「ウーム、相変わらずおじ様の体のドコにこれだけの肉が消えていくのカナー」


 拳を握る、軽く地面を跳ねる、シャベルを振るう。また今回も身体能力が大幅に強化されたようで体が軽い、今回の『ワイバーン』との戦いにおいても『テンタクル』戦にて強化された自身の肉体あっての短期決戦・勝利であっただろう。一通り確認が終わると次に気になったのは自身の姿。『ワイバーン』の血と体液でドロドロに汚れ気持ちが悪い、どこか水源で全身を洗いたいものだ。



「オーイッ!そろそろ出てきなヨー」


 そうフィアが少し離れた藪の中に声をかけるとニアニアがひょっこり顔を出す。その表情はあきらかにこちらを恐怖の対象として見ている・・・目の前でスプラッタショーを見せられればそれも当然か。逃げずに顔を出しただけ上等だろう。バックパックから布切れを取り出すと適当に顔や体を拭いニアニアに近づく。


「ひいっ・・・」


「ブーブー、失礼しちゃうネ!助けてくれたおじ様にお礼の一つもないのカナ~?」


「あっ」


 今回の経緯を思い返せば、戦う原因はニアニアにあった。もし『ワイバーン』に見つからなければ戦闘にもならなかった筈だ。


「礼は不要だ、契約を守ったに過ぎん」


 これもまた真実、約束がなければ見捨てて逃げていた公算が高い。出会って1日の命の価値など自分にとってその程度のものに過ぎない。交通事故で顔見知り程度の知人が死ぬ、ああ不幸だなとは思いつつも涙を流すことはなく日常を過ごす。それが普通だ。


「いえ!あ、ありがとうございました!!妖精さんの言う通りです、ご無礼をお許しください」


「構わん・・・それより水場に案内しろ」


「あ、はい。えっと・・・ああ、いえ風景がこんなに変わるなんて!確か、あっちの方向に小川があった筈・・・」


 そう言われて見れば薙ぎ倒された草木、燻る倒木、『ワイバーン』が暴れた痕跡、確かに景色は一変している。流石はヒューマン首都『ハロイド』を壊滅させた魔法だ。モンスターたちの分布や最高捕食者の消失によるパワーバランスの変化も生じてくるだろう。隠れムラの住人にとっても大変なことになり犠牲者も出ること可能性がある。


「覚えたり警戒するところを洗い直さないと!逃げ場の確保や・・・ああ、エルフが調子に乗って攻めてこなければいいけど!!」


「謝る気はないぞ、敵と戦っただけに過ぎん」


「あ!あの、えっと、勿論です。仕方のないこと、いえ私に責任があります。エルフも・・・普通の魔獣でもここでは十分な脅威です。そうそう攻めてくることは、多分無いです」


 かつてエルフの討伐対を壊滅させた『ワイバーン』、それがエルフ達の追撃を諦めさせ隠れムラの安全にも寄与していたのだろう。だが、知ったことではない。こちらから身を晒したとはいえ殺そうとしてきたのはあっちでありこちらはその喧嘩を買ったに過ぎないのだ。そもそもエルフと獣人の確執など知ったことではなかった。





 水場へと行く前に巨大な死骸を見る。その上顎から頭部にかけた頭蓋、大きな緑色の宝玉をもつそれは、少し大きいもののヘッドギアの上から被れば予想以上にフィットした。ヘッドギアに埋め込まれた今までの緑色の宝玉を抜き出し、『ワイバーン』の頭蓋を兜代わりに被り適当な革紐でずれないよう固定する。


 大きな緑色の宝玉にオーラを流して見る・・・発動。機関銃のような衝撃弾が発射され続ける、そしてこれは自分の意思で止める事ができなかった。首を振ればそちらの方を向いて飛んでいく。オーラの消費量は雷槍の雷撃より僅かに少ない程、そしてこの魔法の性質がわかった。衝撃弾を何度も魔法を発現させ撃ち出しているのではなく、一度発現させれば一定時間衝撃弾を撃ち続けるという最初から最後の一発までが一つの魔法になっている。故に途中で撃つのを止める事が出来なかったのだ。そして最初の一発目が撃ちだされた時点でクールタイムを迎え、最後の方になってクールタイムが解除される、オーラに余裕があればずっとこの機関銃を撃ちつづけることができるだろう。一発の威力は今までヘッドギアに埋め込まれていた単発の衝撃弾を放つ魔法と同程度だが手数で稼ぐタイプで戦闘の幅が広がりそうだ。


 この結果に満足すると、何か恐ろしいものを見るような目で見てくるニアニアを急かし案内をさせた。天井から流れ落ちる滝を水源とした小川があったのでそこで全身を洗っていく。肉体と精神がすっきりした所で、一変した風景に戸惑うニアニアによる『フーリル。ユーキー』への道案内が再開されたのであった。



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