5-37 竜落とし
戦いとは最初からクライマックスである。ルールが決められているものや命のやり取りの無い遊戯ならば兎も角、大切なのは如何に機を見て勝利するかだ。その勝利条件は必ずしも相手に致命傷を負わせることではない。逃げる、退ける、和解する、目的を達せればそれでいい。
『ワイバーン』が機関銃のごとく不可視の衝撃弾を乱射しつつ上空から降下してくる、それに追従するかのように巨大な『バット』である『デビル』も、小型のバットがさらにその後ろに続き急降下してくる。その姿はそれ全体で一つの巨大なモンスターにも見えてくる。
大盾を構えて身を隠しつつ重心を低くしジリジリと移動し続ける。動かなければ攻撃のすべてを受けることになるし変な体制で攻撃を受ければバランスを大きく崩しかねない。
大盾に何十発もの直撃、衝撃が腕を襲い盾が弾かれそうになるのを踏ん張り耐える。身を隠すよう上方に掲げられた大盾の僅かな隙間からも体にも数発の直撃弾、体勢を崩せば一気に持っていかれてしまう。だが『テンタクル』の皮が用いられた鎧はその強固さと対衝撃性を遺憾なく発揮し攻撃を防いでいた。
降下しつつ至近距離まで接近した『ワイバーン』がその顎を大きく開く。構えていた盾をギリギリで外し、抱きかかえるようにしつつ跳躍し地面を転がる。速度は速いもののその分直線的な動きであり回避はそう難しくは無かった。
『ワイバーン』は羽を動かし急降下したベクトルを上昇に変えて再び遥か上空へと舞い上っていく。それを追う『バット』、『デビル』。だが数匹は追わずにこちらへと向かってくる。『バット』は無視してもいい、攻撃手段が殆ど無いからだ。だが『デビル』は多少警戒する必要がある。とはいえ迫ってくる敵の宝玉の色は赤色、魔法を使ってはこないようだ。空中を飛び回り鬱陶しいが今はまだ、魔法を使いたくなかったので骨製のナイフを投げ付けて牽制する―――存外に身体能力に加え知覚能力も向上しているのか、予想以上にナイフが的に突き刺さった。だが、今はそれどころでは無い。
『ワイバーン』がそろそろ最高高度に達するようだ、そこで身を捻り、再び機関銃のように衝撃弾を撒き散らしつつヒットアンドアウェイでこちらを仕留める気でいるのだろう。その為の上昇。
都合がいい―――これだけの距離があれば。
大盾を真上に構える。その橙色の巨大な宝玉にオーラを篭める。最初に『ワイバーン』を見たとき、その狩りのパターンも観察できていた、繰り返すヒットアンドアウェイ、抵抗する敵がいなくなった後弱った個体や死肉を喰らう。そのパターンを待っていた。その為に相手に警戒をさせないよう今まで魔法を使っていなかった。そして絶好の機会、大爆発の魔法が発動する。この魔法は接近戦にはてんで向いていない、遠くの一点を起点とした大爆発と熱波を撒き散らすものだ。
『ワイバーン』の現在の高度では若干距離は短いが、ギリギリ射程範囲内―――――爆炎、轟音、衝撃、熱波。
轟音は耳を通し頭を揺らす。チリチリと肌が焼けるような熱を感じる。砂埃が舞う。上から押さえつけられるような圧力。この距離でこの威力、ならばと視線を上に向け睨む。
パラパラと血と肉、モンスターの死骸が降り注いでくる。空を飛んでいたモンスターの群れは一掃された。そして、巨大な黒い影、『ワイバーン』の落ちて来る姿が見えた。




