5-33 エルフと獣人の生活
隠れムラを歩く。好奇の視線が注がれ少々不快ではあるが仕方が無い。こちらもまた観察をしているのだ、人口比率は獣人9にエルフが1といったところか。時折敵意を持った視線があるが、これはフィアに向けられているようだった。ミケミケを連れて来たせいか比較的好意的な顔も見て取れる。
一人の獣人が、槍を持って突っ込んでくるようだ。中々に速いが、モンスターに比べれば遅く、魔王獣に比べれば蟻のような存在だ。しかしながら戦いを始めるというのであれば相応の覚悟をしなければならない。シャベルの取っ手を握る、堅過ぎず、緩過ぎず。最終的に何人か生かし情報を吐かせればいい、手間になるが仕掛けてくる以上は仕方が無い。
そのような事を考えていたが、その獣人は途中で別のムラビトに止められ羽交い絞めにされていた。
「家の若い者が、申し訳ございませぬ」
気がついた長老が慌てて非礼を詫びる、先程の獣人はかつて『フーリル・ユーキー』から逃げてきて保護された獣人の一人であり、かつては酷い扱いを受けていたらしい。だが、それはこちらには関係の無い事だと言うと長老もその通りです、と言ってばつの悪い顔をする。
まあ、こちらとしても争うことは本意ではない、少し騒がしくする、と長老に声をかけ7スターリボルバーを天に向け構え、射程距離の短い宝玉から順にオーラを込め、シリンダーを回し次の宝玉にオーラを流すことで連続的に頭上に爆発を引き起こす。注目が集まったところで最後に雷槍を高々と掲げ、閃光と共に雷撃を放つ。
「何事っ!?」「うわああああ」「耳が、耳が」「目が、目がああああぁ」
ムラビトたちは耳や目を押さえ少なくない人数が地面にへたり込み驚愕と恐怖の目でこちらを見ている。長老も放心状態にあるようで固まっていたが、肩に手を掛けると正気を取り戻した。
「・・・命拾いしたな。」
「キャハハハハッ!!おじ様、敵には容赦がないからネ!おお、コワイコワイ!」
「・・・は、はい。そうですな。さ、流石は巨人族のお方・・・恐れ入りました。さあ、こちらです・・・」
とはいえ、流石はムラの長か。青ざめた表情を浮かべつつもそれをなんとか押さえ込み案内を続けるのだった。
建物に入ると中央にある囲炉裏を囲むようすでに数人の人物が座っていた。一見すれば若く見える者もいるが、その表情や仕草から大部分が大分人生経験をつんだ者たちであることがわかる。そして外の連中と比べれば好意的であった。
「おお・・・妖精様、それに巨人族・・・」
「よくぞいらした」
「先程はおもしろい物を見せていただきました」
「さあさあ、こちらへお座りください」
促されて上座へと座る。簡単な自己紹介が始まる、ここに集まっていたのは長老や隠れムラの幹部といった面々のようだ。早速、話し合いをはじめることとする。
長老含めた数人は『フーリル・ユーキー』が目覚めた当初から生き永らえてきたらしくミケミケが語っていた内容を良く補完していた。その話の中で興味を覚えたのがエルフ達の生活についてだった。
基本的に果物を食べて生活している、畑はないが果樹園は豊富に存在している。耕作は小規模なものしかかつては行っていなかったが重労働を獣人に行わせることによりある程度の穀物を入手している。
政治形態は合議制、地区ごとに代表者が選出され話し合いが行われる。議長は『長』と呼ばれる、ただし『長老』と呼ばれる存在は別におりこれは現在最も年齢が高い人物が該当し限定的ではあるが強い政治的権利も持っている。しかしながらその年齢の為か歴代の長老がその強権を発動した例は極めて少ないらしい。
戦力として多くのエルフが戦士としての一通りの教育を受ける、エルフであれば魔法を数発は撃てる者が多い。男女問わずにオドが多いエルフが選出され指揮官として教育を受ける。モンスターの襲撃が絶えないためか人口における戦士の占める割合はかなり高い。体格の良い獣人が肉の壁として前面に配置される、これは魔法を撃つ時間を稼ぐと共に万一撤退する際には囮にもなる。粗末な武器と盾が与えられ最前線に立っており死傷者も多い。
他には歌や踊りをエルフ達は好み綺麗に整備された広場や大通りは歌声と笑顔が絶えない。一方で獣人は汚れ仕事、力仕事の一切を引き受け住む場所も制限されており肩身の狭い生活をしている。
徐々に獣人の自由と権利が失われる中でそれに反発する獣人と少数のエルフが袂を分け犠牲を出しながらもこの空間を発見、以後は『フーリル。ユーキー』から逃げ出してきた獣人や事情があり追い出されたエルフなどを保護し現在のコミュニティが作られたらしい。
―――成程、確かに獣人には住みづらい場所なのかもしれないが・・・だからといって肩入れをする気はない。聞けばエルフもただ逃げるだけではなく戦っており、そこにニンゲン臭さが感じられ少々不快であるのも否めないが―――自分たちがより良く生きるための努力、それがどのような方向であれ為された結果なのだとすれば仕方が無い事だろう。




