5-32 隠れ里
「こっちです・・・この奥に入り口があります」
到着したのは、空間の端、劣化したクリスタルの反り立つ壁。生命力あふれる草木はこの境界までぎっちりと生えており足元を隠している。ミケミケはしゃがみ込むととある一点を指した。―――成る程、そこには匍匐前進で何とか通れるほどの細いトンネルができている。
足を怪我していても這うことは出来る、ミケミケが先にトンネルへと入っていく。こちらも額のヘッドギアに仕込まれた緑の宝玉、右の篭手に仕込まれた紫色の宝玉を確かめて後に続く。この体勢では万一の際できる行動は限られている、満足に腕も振るえないのであれば頼るべきは魔法の力だ。
しばらく進むとやや開けた空間に出る、中腰になれば頭をぶつけない程度の大きさはあった。その先に見えるのは扉、いや門といっても遜色無い程にしっかりと補強されている。ミケミケが、声をかけようとして―――その前に釘を刺す。
「変な真似をすれば潰す」
「分かっていますよ・・・魔獣を返り討ちにするようなヒトと戦いたくありません。勿論、私たちも私たちを守るためには戦いますが」
「それは当然だ」
ミケミケは小さく頷くと門についているドアノックハンドルを強弱を付けつつ数回鳴らす。最後に。
「ミケミケです、戻ってきました!客人も居ますが騒がないでください!!」
少し時間が経った後、門がゆっくりと開く。客人、まあ色々な意味合いがこめられた言葉だ。この先では警戒状態で待ち構える集団が居るのだろう。かといって、こちらのことを何も伝えずに門を開けさせればそちらの方が煩雑な事態になりかねないのも確かだった。
「ミケミケ!生きていたか!・・・っな、なんだあのデカイ奴は!?」
「魔獣か!?・・・妖精だと!?くそっ!!」
「貴様!ミケミケを離せ!!」
門の先にはそれなりに広い空間があった、ムラ程度の大きさはあるか。武器を構えた獣人の集団が見える、そしてその集団はこちらをみて目を見開き驚いている。相変わらず、失礼な奴らだ、このセカイのヒトというのは。だが、次にフィアが目に入ったようで敵愾心がその表情に見て取れる。構えられた武器をこちらに向けた時点で、決裂だ。大楯を引っ掛けてあるバックパックから外し装備をしようと―――。
「静まれバカ共がっ!!!」
集団の後ろから皺くちゃな獣人が一喝し姿を現す。
「ちょ、長老!し、しかし」
「しかしもかかしも無いわっ!!!・・・・済みませぬ客人方、非礼をお詫びします。ワシはここの長、ジコジコと申します。巨人族の方と妖精様にお目にかかれ光栄です・・・おい!貴様らとっとと武器を下ろさんかっ!!!」
その剣幕に戸惑いながらも獣人の集団は武器を下ろす。
「ふう・・・まったく申し訳ありませぬ。どうぞ奥へ」
「ストレンジャー・アウトロー、こいつがフィアだ。折角だが、ここで話を聞こう。どうにも良い雰囲気ではないようだ」
「そうですな・・・ワシら年寄りにとって見れば魔獣の危険を知らせに来ていただいた巨人様、そして妖精様は尊ぶべき存在です。しかし嘆かわしいことに、若い者にとって見れば巨人族のことも知らず、事情があり妖精様に偏見を持っているものも多いのです」
「事情は聞いた。人質などにするつもりは無い、怪我をしているようだからつれてきてやった」
「おお、感謝します。この子の母親も喜ぶでしょう。して、それだけではありますまい、何用でお越しになられた?」
「お前のようなヒトを探していた。色々話が聞きたい。そして幾つかのお前の疑問にも答えられるだろう・・・ここが今何処にあるか、とかな」
「・・・おお、おお!まさか、まさか貴方はこの、この壁の向こうから!!」
「壁、か。知るものとすれば笑わせてくれる表現だが・・・だいぶあっちも落ち着いたか。」
ミケミケが事情を説明しているようで怪訝な視線はまだ感じるものの敵意は大分薄れているようだ。長老の案内に応じ、奥に見える矢や大きな建物まで足を進めた。