5-30 美しき野人
「そうか。で?」
「いや、そのだから妖精が我が物顔で・・・」
「それはその妖精とやらの自由だ。こいつは関係無いな」
「いや、でも・・・そうですね、すみません」
その心理は分からなくは無い。支配されていたのであれば反感を持つのは当然であるしその憎むべき対象に関連付けられるものがあれば深い理由も無く敵視してしまうだろう。だが、それはまやかしだ。自分にとって大切なのは、敵か味方かに過ぎない。聖人だろうと極悪人だろうと関係は無い、どちらもそう変わるまい。見方の違いで幾らでも変わる程度のものであるし、どちらも誰でも殴れば死ぬ。
「ンー、その妖精の名前って分かるカナ?」
「確か、パーネとか言ったような・・・」
「あー、あーあーアレだネ!」
「知っているのか?」
「話したことは無いケド、美形のエルフについていったって聞いたことがあるヨ・・・キャハハッ!勿論フィアにはおじ様が一番だけどネ!」
「そうか、それはさておき」
「反応うっすいヨ!?」
「ミケミケとやら、とりあえずお前の本拠地まで案内してもらおうか」
情報は多いほうがいい、それに話してみたところどうにも目の前の女は若く感じられた。このセカイのヒトは皺でもよっていない限りサイズの小ささも相まり一様に若く見える。やはり情報を得るならもっと年をとったともすれば時の楔から開放された当初を知る人物と会ってみたいものだ。
「・・・助けていただいたのに申し訳ないのですが、それはできかねます」
道理ではある。目の前の人物が信用足るかなんぞすぐに分かるものでもない。助けたといって裏に一物あることなど疑ってかかるのは当然のことだ。そういった点では目の前の女の評価が若干上がる、しかし、これは協力の『願い』に見えるがそうではない。
「これは『頼み』では無く善意の『提案』だ。こいつの、フィアのレーダーがあれば少々手間はかかるがヒトの集団の場所を知ることは難しくは無い。だがその手間を省くついでに助けてやろうと言っている。時間はやらん。選べ」
「うっ・・・案内、します。させていただきます」
「いい子だ」
「おじ様~フィアは?」
「アホだ」
「ガーンッ!!」
足を引きずるミケミケがあまりに遅いので小脇に抱えながら移動することにする。この空間には細い滝が何本も天井から滴り落ちている。それを目印として森林の中でも現在地点を見失わずに済むらしい。怪我をしていたのは果物を集めるために木に登っていたところ蛇もどきのモンスターに襲われあわてて逃げた際地面に撃ちつけ足を痛めたとの事だ。それでも興奮状態の為なのかしばらくは痛みを堪えることができ何箇所か確保してある避難場所にまでたどり着き、入り口を塞いだところで気を失ったらしい。その後目を覚ましたのだが余りの足の痛みに動くことが出来ず衰弱していたところをこちらが発見したようだ。
ミケミケにこの密林に近い森林の歩き方を聞く。すると耳と鼻を活用し藪の中や木々を飛び移り移動するらしい。さらに危険なモンスターの縄張りを把握しておき近づかないようにしているとの事だった。今回はモンスターの殲滅が目的ではないのでその縄張りに入らないようミケミケの言葉に従い移動していく。
小脇に抱えたミケミケを観察してみる。学園や助けた中にいた獣人に比べて大分体が締まっている。筋肉もしっかりついており体は小さいながらもどこか造形美を感じさせた。着ている衣類も継ぎはぎが目立つものの補強されており動きやすいよう袖や裾を絞られている長袖に長ズボン、獣の皮であろう足袋のような履物をしている。
感心する。そこには野性の中で生きてきたという実証がある。身体能力、体格に恵まれた自分よりも遥かに険しい状況で生き延びているその姿に敬意を覚えた。