5-29 強者と弱者
話は予想以上に長いものとなったために内容をまとめてみる。
まず、エルフの首都である『フーリル・ユーキー』は健在、ただしこの獣人の女が属するコミュニティは『フーリル・ユーキー』では無くむしろ敵対関係にあるらしい。敵、というよりも戦力差を考えれば獲物に近い弱い立場にあるとの事だ。
遡ることおおよそ60年前らしい、らしいというのはこの獣人の女が生まれる前の話であり彼女もまた口伝として聞いた話であるからだ。『フーリル・ユーキー』に住むエルフと獣人が気がつけば周囲を光る壁に覆われた広い空間に閉じ込められていた。様々な脱出方法や原因の究明が試みられたがいずれも失敗、次第にこのまま生き抜いていく方向へとシフトしていった。
幸いにも広大な森林に囲まれていた『フーリル・ユーキー』はその自然の恵み、そして天井より滴り落ちる何本もの細い滝のお陰で潤沢とは言えないものの十分な食糧と資源を手に入れることができた。
ただし、問題もありそれはモンスターの存在であった。防壁に覆われた『フーリル・ユーキー』に侵入することは無かったものの都の外での活動においては頭を悩まされ、魔法という強大な破壊力をもつエルフと前線で何とか食い止める獣人といった役割分担が行われることとなった。
モンスターを駆逐するための作戦も行われたらしいのだが失敗に終わる、それはこの周囲の空間の立地にあった。
この区域には大きな空間が2つあるらしい。その内小さなほうは『フーリル・ユーキー』が存在する場所、もう一つの広いほうの空間が現在自分たちがいる場所。二つの場所同士は何本かの細いクリスタルのトンネルで繋がっていて行き来ができるようになっている。
『フーリル・ユーキー』の戦力でいくらモンスターを叩いてもトンネルを通り新しいモンスターが次々と侵入してくる。業を煮やしてトンネルを通り大戦力での殲滅を図ったようではあるが、大敗し大きな損害を出して逃げ出したらしい。現在では主要なトンネルは砂や石で埋め立てられてはいるものの全てのトンネルの所在が判っているわけでもないので頻度は大幅に減ったものの散発的にモンスターとの戦いは続いているとのことだ。
さて、次に本命のなぜ危険な方の空間にこの獣人の女、ミケミケが居たかについてだ。
簡単に言えば、現在の『フーリル・ユーキー』における獣人の扱いは、エルフの『奴隷』であるらしい。
元々獣人も多く暮らしていたとはいえ多数はエルフ、そして流入してきた獣人の難民。当初は争いのなかった時代の風潮を継承しており敵対することは無かったようだがモンスターとの戦いにおいて魔法を使えるエルフの存在がより重要なものとなると基本的によそ者であった獣人をエルフが軽視するようになった。エルフの評議会において少しずつ、少しずつ獣人に不利なルールが定められていき今では『奴隷』と変わらない扱いになっている。
勿論、そのような現状を良しとする者ばかりでは無い。獣人の幾つかの集団は体制に反対するエルフの協力者と共に『フーリルユーキー』を脱出し、手が出しにくい此処の空間まで逃げ延びたようだ。今でも細い通路を何とか潜り抜け亡命者が後を絶たないらしい。
―――そこまでは理解できた。だが何故フィア、いや妖精を目の敵にするのかが分からなかったので聞く。すると返ってきた答えはさらに意外なものであった。
「・・・エルフ達に崇められている妖精がいます。そして、そいつは獣人を虐げ好き勝手に振舞っているんです!」




