5-28 怪我を負う獣人
とりあえず水筒を取り出し顔に水をかける。すると獣人の女がうっすらと目を開け、そして目が合った。
「・・・・あ?え・・・うわああああ!!!」
恒例行事だ。この世界のヒトに比べれば、確かに自分は色々とパーツが大きい。それは体に然り、そして顔に然り。奇形のドワーフであるキグルミよりかは幾分マシであろうが目の前に巨大な顔があれば驚くだろう。良い気分ではないが理屈はわかるので仕方が無い。
獣人の女が後ずさりをしようとするがすぐに顔をゆがめて足を押さえる。見れば出血の量はさほどではないがだいぶ腫れが酷い、骨でも折ったのか、それとも外傷による化膿か。後者であれば案外危険であると思う、抗生物質のような便利なものは無いので精々酒をぶっ掛けるくらいしか出来ない。創傷部のアルコールによる消毒は刺激性がある上組織の傷害も伴うのだが、それを差し置いてもやる時にはやらねばならないだろう。
「こちらの言っていることはわかるか?」
「オーイ!生きてるカーイ?」
「え・・・!?あ、うん・・・ってよ、妖精!?」
その表情に急に敵意が宿るのを感じる。目の前の女は腰に手を―――おそらく武器を抜こうとしている。その手をすばやく掴み、軽く力を込める。
「いぎっ!?痛い痛いっ!!」
「・・・砕かれたくなければ大人しくしろ。後、武器を向けたら、殺す」
「ひゃ・・・」
涙目になりながら首をコクコクと動かす様子を見て手をはなす。色々と聞くべき話がありそうだ、特にフィアに向けた殺意に値するほどの敵意。基本今まで妖精は崇拝の対象に近いものだった筈だ、それにモンスター犇く森林で活動していた理由、情報は仕入れるだけ仕入れておきたい。だが、まずはとりあえず。
「食え」
果物と水を出し目の前に差し出してやる。ごくりと喉を鳴らし瑞々しい果物に噛り付き顔を汚しながらもかなりの速さで完食、もう一つ渡してやるとそれもまたすぐに食べ切り最後に水を勢いよく煽った。衣食足りて礼節を知る、礼節や理性なんぞ飢餓状態では完全に失われる。余裕がなければ思考もまた纏まらないだろう。
少し落ち着いた様子の女、衰弱は怪我というよりも腹が減っていたためであったようだ。
「俺はストレンジャー・アウトロー、こっちがフィアだ」
「あ、ど、どうも。ミケミケです。助けていただきありがとうございます」
「礼ならば情報を貰おう・・・クリスタル――、壁の向こうから来たばかりなのでな」
「はあ?え、冗談ですよね?そんな事・・・」
「信じるかどうかはそっちの勝手だ。情報さえもらえればいい。だが、今まで俺のような存在を見たことがあるか?」
「・・・い、いえ、あなたのような大きな方は初めてです・・・とりあえず信じます、そちらの妖精も私が知っているのとは違うようですし」
とりあえず、何故ここにいたのか、他の生存者はいるのか、どのように生活をしているのか等を質問していく。そして得られた解答は随分と予想を超えるものであった。