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伝説のシャベル  作者: KY
145/203

5-17 怒れし心



 グチュッ「ギチチチチッ!!!」


 ―――着弾、命中。湿っぽい音と共に悲鳴が聞こえる。皮を突き破りそのグロテスクな肉体からどす黒い体液を撒き散らす。闇雲にsドリルワームの触手が振るわれ地面が抉られる。叩き付けられたドリルワームの結合がとかれアーススターとなり周囲に散乱、だが叩き付けられた衝撃で多くのアーススターは死に体のようだ。それでも千切れて短くなったドリルワームや生き残ったアーススターが迫る。


「倒す必要は無い、近寄らせるな!」

「りょ~かいおじ様っ!任せてちょーだいネ!」



 それを妨害するのが、いつも頭の上にいる妖精。キャハハハと甲高い声で笑いながら宝玉の付けられた小さな魔法の杖を使い迎撃する。衝撃弾が多い、杖を何本かのローテーションで回しクールタイムを埋めつつ乱射。別に敵を倒す必要性は無い、近づけさせなければいい。さらに近づいた敵には爆発の魔法、電流の魔法で牽制。疲れてきたら左手からオーラを吸って補充し再び砲台となる。戦車の主砲と歩兵を近寄らせないための機関銃のような錯覚を覚える。ならば主砲の役目はより早く、より正確に威力有る弾を叩きつける事だ。



 箱から次々と砲弾を取り出し投擲、『テンタクル』は着弾するたびに叫び、喚きつつジリジリとこちらに近づこうとしてくるが・・・遅い。感じるプレッシャーとその実力が比例していないように感じる。フィアの弾幕を超えてくる敵がいれば後方の通路に飛び込み急ぎ別の場所の入り口から顔を出し備えてある箱から砲弾を取り出し投擲、『テンタクル』はその触手であり移動手段でも有るドリルワームの触手を振り回し、それは恐ろしい重量と力を兼ねて地面を深々と抉るが射程の外だ。飛び散り、個々のアーススターとなり接近する敵はうざったいものだがこちらの移動速度は敵よりも早い。時にシャベルに持ち替え敵を蹴散らしつつ攻撃を加え続ける。


 砲弾は中々の数揃えたとはいえ無限ではない。表皮の破れたところへ衝撃弾を放つ、響く悲鳴がその効果を示している。結構な量の体液を全身から流しているようだ。


 そうしている内に、『テンタクル』はじわじわと後退する素振りを見せてくる。これは、良くない。大分攻撃を当ててはいるがあくまでそのダメージは表面を削っているにすぎない。致命傷には程遠い、せめてもう少し深手を与えたい。水中におけるモンスターの止血機構は知らないが、大きく破れた傷のまま水中に戻れば体液の流出が起こるかもしれない。いや、そもそも水中に戻してなるものか。


 武器を持ち替え多少のリスクを承知で突撃、『テンタクル』の反応は鈍い。その移動手段となっている太いドリルワームの触手を狙う。雷槍を突き出し、オーラを流す。


「ギチッ!ギチチチチッ!!」


 閃光。放たれた雷撃はドリルワームを舐め、最小単位のアーススターにまでバラバラにする。さらに『テンタクル』まで達しダメージを与えたようだ。フィアが爆発の魔法を『テンタクル』へと放ち、生臭い嫌なにおいが叫び声という騒音と共に広がる。クールタイムの過ぎた雷槍を再び構え電流を放つ。2本目も無力化する。威力の有る電流はまとめてドリルワーム、そしてそれを構成するアーススターを無力化できるため便利だ。


「キャハハハッ!結構簡単に終わりそうダネ!!」


「・・・」


 一つ、推測がある。


 この敵の弱さについてだ。おそらくだが当初はこのような醜悪な姿ではなかったのだろうと思う。底部を見れば、ヒトデ先生やアーススターにも似た構造であることが分かる。かつては一目でヒトデの様な姿だと分かっただろう。


 だが、この立地、そしてその生活を考えてみる。有る意味天敵となる他のモンスターも存在しないクリスタル内の安全な地底湖、次々と食料を見つけ運んでくる奴隷であるアーススターにドリルワーム、それがかなりの長期間続いたとすれば。



 それはまあ、太るだろう。そして永い間の怠惰なる生活はその牙をも鈍らにしていく。その結果がコレか。持てるポテンシャルはおそらく非常に高い、しかしそれを活かすどころか損なってしまっている。人間だって体重が200kgもあればまともに運動することすら困難となってくる。『テンタクル』も最早自分だけでは動けず奴隷であるドリルワーム達に引きずってもらわなければ動けないようだ。


 怒りのようなものを己の内面より感じた。自分はモンスターを憎んではいない、むしろその野生は好ましくさえある。だがそれ故に、目の前の存在からはどこか、人間臭いものを感じそれが何とも癪に障った。






 魔法の使用によりオーラをそれなりに消費、身体能力は一時的にではあるが平時より2~3割低下している。だがこの程度ならば折込済みであり時間経過と共に回復していくので大きな問題は無いと判断。肉薄し傷口に雷槍を突き立て抉り、肉が刃を噛む前に引き抜き雷撃。体を揺らし触手であるドリルワームを滅茶苦茶に振り回す『テンタクル』から盾を構えて身を守りつつ距離をとり雷槍を素早くラックに戻し7スターリボルバーを引き抜くと爆発の魔法を止めとばかりに叩き込む。



 軽い虚脱感を覚えながらも、さらに攻撃を叩き込もうとした所で『テンタクル』が奇妙な行動をとり始めた―――悲鳴を上げつつもなんと、自らの触手で自分の体を削っている。


「・・・ワーオ、おかしくなっちゃったのカナ」


「いや、違う」


「おじ様?」


 ぞわりとした感覚が体を包む。おかしくなったのではない、敢えて言うのであれば今までがおかしかったのだ。魔王獣、魔獣を率いる巨獣、その中の王。今まで目の前にいたのはただの肉塊だった、だが、ようやく本来の意思を取り戻したようだ。



 自傷行為により削られた肉、体液を垂れ流しにしつつもその奥から蒼く巨大な宝玉が姿を現し。



 憎悪を込めた目線でこちらを睨んだ気がした。 


 

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