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伝説のシャベル  作者: KY
136/203

5-8 赤の契約者


「ワオ!ルヴィ!」


「知り合いか?」


「ン~、顔見知りくらいだけどネ。契約して『始原の大樹』から離れていたハズ」


「そうか・・・助けるなら早くしたほうがよさそうだ」


 数匹のアーススターがクリスタルを削ろうと紡錘状になって回転していた。劣化したクリスタルと異なりそれなりの強度もあるので今日明日でどうこうなる訳でも無さそうだが、それでも僅かな粉が舞うのが見える。さらに周囲のいくつかの場所に存在するクリスタルの空洞。まあ、喰われたのだろう。


 飯を喰らい、クリスタルを削って疲れたらまた飯を喰う、そして削りきれば新しい飯にありつく。とはいえ、それだけではいずれ食料が尽きてしまう、時が止まったままの獲物は増えることは無い。と、すれば。このアーススターが最近出現しまだ食糧が尽きていないだけか、もしくはナックのような生物が生きていけるだけの環境を持つスペースがどこかに存在するのだろう。


 とりあえず、シャベルで地面に叩き落としたアーススターを潰して安全を確保、フィアのレーダーでも周囲を確認。発掘作業に入ることとする。そう幾許もかからないだろう。





「ひあっ!!」

「うわあっ!!」


 恒例の悲鳴だ。どうにもここの世界の住人はこちらをみると驚いて叫ぶ奇妙な習性があるらしい。さらに周囲の様子を見て困惑しているようだ。しかし、一つ評価できる点がある。それはエルフの女がいつでも動けるよう咄嗟に身構えたところだ。そして腰に下げた剣を抜こうとして―――。


「・・・抜くな、抜いたら殺さなければいかん」


 ただ、そう言っただけであったが女エルフが汗を流しじりじりと後ずさる。牙を向けられれば牙を持って迎え撃つ、ヒトもモンスターも変わらないルールだ。


「キャハハッ!ルヴィ、お久だネ!!」


「え・・・えっと、どなたかな?」


「ルヴィ?知り合いなのか?」


「えっと、こんな妖精の知り合い居たかな?申し訳ないけどどちらさまで・・・?」


 ルヴィと呼ばれた赤い妖精が困惑した表情を浮かべている、女エルフもフィアの姿を見て警戒を緩めたようだった。


「ブーブーひっどいナーもう!フィアだヨ!!久しぶりだけどさア・・・」


「・・・は?えっ?嘘だ!フィアってあのちんちくりんのフィア!?こんなにスタイルがいい筈無い!お肌も髪もツルツルのテカテカだし!」


「エエッ!?ホントに酷くないカナ!?ヒガシの9本目の大枝の49本目の小枝に住んでいたフィアだヨ!もう失礼しちゃうナア!!」


「嘘だよ嘘だよ!そんなナイスバディなお姉さんがフィアの筈無いよ!」


 

 確かに、フィアは少しばかしナックにて大きくなったが・・・相変わらずの薄さであるし、小さな存在だ。いや、視点を変える必要がある。この身長が30cmそこそこの妖精達にしてみれば、僅か数センチ大きくなったことが人間にしてみれば10cm以上大きくなったと感じるのかもしれないし、触り心地が向上したことからもスタイルが良くなったと言えるのかもしれない、妖精基準では。


 さわぐ妖精2匹は放って置くとして、困惑している女エルフと向き合う。


「・・・私はミレイ、見ての通り旅のエルフだ。良く状況は読み込めないが、貴方に助けてもらったということ、か?」


「ストレンジャー・アウトロー、只の異邦人だ。ああ、名前で呼ばれることは少ないな。出会った奴らからは巨人と呼ばれるが」


「確かに、貴方は大きい・・・だが私の知る巨人とは少し違うようだ」


「ほう、巨人族と会ったことがあるのか?」


「ああ、悲劇の始まりのあの日・・・傷ついた巨人が魔獣の危機を訴え辿り着いたムラに私も偶々いたんだ。あのときの巨人は、なんというかもっとのっぺりとしていたというか、髪も無く、奇妙に小奇麗で、何と言うか貴方みたいな生々しさと言ったものが無かった。ただ固い口調で倒れたまま危険な生物が近づいている、と繰り返すだけだった」


「ふん・・・ならばその巨人族の姿がもっと広まっていてもいいと思うが?」


「・・・それは、殆どの者が逃げ出さずにそのままムラと運命を共にしたから」


「成る程」


 巨人族というものは単純に自分みたいにこのセカイに堕ちてきた『人間』というものでは無かったようだ。単純にキグルミ程ではないが全体的に大きかったのか、それとも明らかに奇妙な外見なのか。ただ、それを知ったところで何も変わるわけではないが。



「チョットおじ様!ルヴィったら信じてくれないんダヨ!!」


「だって、そんな急にでかくなるわけないじゃないか!」


 まあ、確かに急にヒトの身長が伸びることなど成長期以外にはそうそう無いだろう。


「いや、本当に急に大きくなったからな・・・確かに気味の悪い奴だ」 


「ガーンッ!おじ様ヒドッ!!」


 よよよ、と泣きながらふらふら近づいて、そのまま尻尾を左手の薬指に巻きつけるとドサクサに紛れオーラを吸い、食事を始めたので両頬を指で挟み激しく揉んでやる。


「あばばばっむえむえむえー」



「やはり貴方も契約者なのだな。かなりオドを吸われているようだが大丈夫か?」


「契約?ああ・・・受け入れたことは確かだが寄生されているだけだ。まあ、この程度なら問題ない」


「そうか、私もそれなりにオドの容量が多いと自負しているが貴方は膨大な量のオドを持っているようだな」


「ぷはあっ!キャハハッおじ様のはスゴイんだヨ!お肌もツルツル!魅惑のボディーに磨きがかかっちゃうネ!」


 食事が終わり挟まれた指から身をよじって抜け出したフィアがひらひら舞いながら笑う。


「・・・この笑い方、本当にフィアなんだな。いいなぁ、栄養がいいと大きくなるのかな?」



「ところで、済まないがそろそろ私たちにこの状況を説明してくれないか?尋常ではないことは、もう分かってはいるが」


「いいだろう、最初に言っておく。信じ難い事ばかりだろうが、全て真実だ」

「そうダヨー、おじ様の言う事、よ~く聞いてよネ!!」



 二人に今のこのセカイの現状を話す。地上の殆どがクリスタルに覆われていること、僅かな陸地が地上にある事、クリスタルの特性、閉ざされた時間、少ない生存者に現在の生活等々。女エルフと赤妖精は途中で何かを言いかかることも多かったが、それを飲み込んでこちらの話を全て聞いてくれた。信じられないことも多いのだろうが自身の今の状況を省みれば嘘だと言い張ることも難しいと思ったのであろう。一通り話が終わると、二人は暫し沈黙した。

 


 

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