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伝説のシャベル  作者: KY
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4章異聞の8 清風の如く


 魔獣の死体を集め、剥ぎ取れる素材は無駄にせず回収、肉は燻製にする分を除いて大喰らいの巨人がゆっくりと平らげた。どうにもあのサーベルウルフは中々の敵であったそうで腹が減ったとの事、強敵と空腹の因果関係は分からないけれども「はぁ・・・」と生返事を返しておくに留めた。聞いても説明してくれる気があるかも怪しいし、それで何かが変わる訳でもなかった。


 ファングの毛皮の状態は良かったものの、サーベルウルフの方は皮が焼け焦げてあまり状態は良いとはいえなかった。巨人もこの問題点には気が付いたようだけれども今回の主旨を考えれば仕方が無いとも言えた。


 ああ、しかし、今回は巨人が丁度居るタイミングで討伐が行えてよかった。私たちだけではたとえ倒せてもかなりの犠牲者が出た可能性が高い。そのことを伝えると巨人は低く笑う―――それは私に向けた笑みでは無かったと思う。もっと自嘲に似て非なる何かの感情だったかのように感じられた。




 鍛冶場まで戻るとさっそく反省と改良点について話し合われた。槍の出来は悪くは無かったものの、軽い牙の刃の部分に比べ金属製の柄が重く重心が寄ってしまっていたらしく、先端部に力が入り難く真っ直ぐに刺しにくかったらしい。さらに、妖精様の魔法の杖を入れておくホルスターの試作品やらシャベルを引っ掛けておけるバックパックの改造、巨人のその他の武具の改良等についての話し合いが夜遅くまで続いた。


 

 結局のところどうなったかろいえば、鍛冶場はかなり拡張された。巨人の要求を速やかに叶えるにはドワーフ2人では数が足りなかった、そこで見学に来ていた『ナック』からのドワーフや他の希望者にも難しくない部分の作業が割り振られその一員にはあの奇妙なドワーフも居た。


 それでも作製、調整等でそれなりの日数はかかる。その間、巨人には幾つかの仕事を恐る恐るお願いしたが予想以上にスムーズに要求に答えてくれた。巨人は理知的でもある、頼んだ内容が理に叶っており礼を失しなければ一般の生徒やムラビトよりも文句を言うことも無く精力的に働いた。厄介なモンスターの討伐、居住空間の拡張、シェルターの敷設など巨人は私たちが数十人かかっても手間取る仕事をあっさりと終えていった。このような一面が有り、さらに私の価値というものも見出してもらっているためにどうにも私は巨人が嫌いになれないのだった。非常に自己中心的でありながら、その暴力も含めた行動には芯が通り刃の煌きの様な、いわゆる機能美といったモノを私達に魅せていた。



 

 装備の一式が完成したという知らせを受け鍛冶場へと向かう。ドワーフ達は目の下に隈を作りふらふらになりながらもどこか満足げな表情だった。ただ、若いながらも中心的な役割を果たしていたドワーフだけがブツブツと据わった目をしながら不満気な表情を浮かべていた。すでに、巨人は装備を試着し終えていたようだった。その姿を見て、息を呑んだ。



 鎧や防具は金属で縁取りや補強が為され、以前の乱雑さといったものが消えている。簡易ながらも装飾が施された防具の数々、左手に持っている大盾には頑丈そうな取っ手や外縁部の縁取りが魔獣の頭蓋骨から立派な盾へと見た目を昇華させている。不恰好な皮の帽子のようであった兜も鋭角でシャープな形となっていた。背負うバックパックも補修、清掃が行われ様々なポケットやラックがついたより便利そうな代物に仕上がっている。右手に持つ黒光りする大槍を構えたその姿は今までに見たどのような戦士よりも力強く、どのような騎士よりも勇ましく見えた。


 巨人は槍の素振りを行ったり、武器をシャベルや7つの宝玉の付いた奇妙な杖に素早く持ち替える練習をしている。しゃがんだり、走ったり、跳んだり。その動きは実際の戦いを想定したかのようなどこかキレのあるものだった。


 最後に、満足気に頷くと巨人は武器を納めた。



 まだまだ若いドワーフとしては自分自身に及第点をあげられる出来ではないらしいし確かに多少の凹凸は見て取れる、しかしながら巨人は無骨で多少不恰好な点は認めつつも頑強さに重点を置いた一連の加工を大きく評価していた。そして偉そうにこれからも精進するように伝えると、若いドワーフは今日初めて笑顔を見せた。職人気質といったものなのか、扱いにくそうであるけれどもそれを心強く思った。




 一通りの調整が終わると巨人は早速荷物をまとめ始めた。燻した魔獣の肉や採取した果物などの食糧もバックパックに詰めていく。もはやここには用は無いとばかりの様子、翌朝を待つこと無くまた地下へ向かおうというのだろうか?


「もう行かれるのですか?少し休んでからでも・・・」


「だらだらしていても仕方が無い」

「そーだヨ!ここに居てもヒマだしネ!!」


「そう、ですか」


 巨人に付き従う一行もいつの間にか荷物をまとめて集まってきていた。まるで巨人の行動を分かっていたかのように、いや事実そうなのだろう。巨人の行動は、シンプルで虚飾が無いものだから。


「ではな。精々上手くやれ」


「こちらはお任せください。・・・御武運を」


 すでに背を向け歩き出した巨人は軽く片手を上げ、颯爽と去っていった。




「―――さて」


 私もまた、早速働くとしよう。巨人への対応で滞っている業務が山のようにあるのだ。奇しくも差し迫った危機は巨人が片手間に片付けてくれたけれども、やるべきことはまだまだあるのだ。また、遠からず巨人と会う日も来るだろう。その日を、怖がりながら、ほんの少しだけ楽しみに待つこととしよう。




次から新章に入ります。

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