4章異聞の6 巨槍
鍛冶場―――といっても掘っ立て小屋にしか見えないけれども、水場の近くに急いで用意された建物が見えてくる。それと共に金物同士が立てる甲高い音、煙突から立ち上る熱気が空気を揺らめかせている。
建物の中にいるのは2人の若いドワーフ、兄弟で鍛冶仕事に勤しんでいる。ドアを開けるとこちらに気がついて弟の方が駆け寄ってきた。
「巨人様!お久しぶりです!」
「ああ。鍛冶のほうはもう出来るのか?」
「満足の行く出来ではありませんが・・・ところで後ろの方々は?」
「『ナック』のドワーフ達だ、是非とも見学したいらしい」
「ええ?僕たちもお見せできるほどの腕ではないのですが・・・」
「不恰好でも丈夫ならかまわん。早速話に移りたい」
「わかりました、どうぞ中へ・・・と言いたい所ですがこれだけの人数は入れませんので外で話すことにしましょうか」
切り株をテーブル代わりにしてノートに内容をまとめていく。大きな牙を槍として加工する事と幾つかの要望の他は案外漠然としたものだった。良く言えば兄弟を信じる、悪く言えば投げっぱなしと言えた。防具や道具をより堅固に便利にして欲しい、方法はまかせるといった内容だった。
「う~ん、とりあえず槍のほうからやっていきたいと思います。歯根の部分にこの黄色い宝玉を付けてあとは兎に角頑丈な柄を取り付ければいいんですね?」
「ああ、頼む。どれくらいかかる?」
「5日は見ておいて欲しいですね、インゴットでもあればもう少し楽になるんですが・・・」
「ん?ちょっと待て・・・これで足りるか?ナックから持ってきたものだが」
「これは!?もっと早く言ってくださいよ!っ。あ、すいません。つい興奮してしまって」
「かまわん、その分いい物を作れ」
「できるだけやります。頑丈な物、ですよね?」
「そうだ」
更にその後の話し合いで、服や背嚢の補修や補強に裁縫の上手な女子生徒を動員することになった。元より裁縫は必須な授業だった、私たちは私たちの家庭の衣類や敷物を繕い、時には作成することが常であったからだ。それでも、魔獣の皮は固く針で穴を空けるにしてもかなりの労力を要したのでその分を生徒の数で補うことになった。ちなみに、私は参加しなかった―――できなかった。どうにも裁縫のセンスが全く無いらしい。それを聞いた妖精様が大笑いをしていた。
3日で槍の試作品ができたようなので私も見学しに行く。
大きい。私たちの背丈よりも遥かに。柄も兎に角太く無骨な出来だ。けれども逆に言えば頑丈そうであった。
巨人は無言で槍を掴むと振り回したり、突いたりの素振りをする。
「・・・試して見ないと何とも言えんか」
「あ、巨人様。でしたらお願いがあるのですが・・・」
αチームがつい先日、そこそこの大きさで水源のある島を見つけることに成功した。けれども、その周囲にはシェルターは無く、その上普通より大きなサーベルウルフがファングを捕食している姿が見えたそうだ。しばらく監視を続けてもそのサーベルウルフが動く気配は無く、島を縄張りにして水を飲みに立ち寄る小動物や小型モンスターを狩っているようだった。水源のある島は確保しておきたい、けれどもただでさえサーベルウルフを倒すことは困難なのに大きな個体ともなれば犠牲者が出るどころか班が危ない。そうしてやきもきしながらも監視を続けている状況。
「ふむ、要はそのデカイ牙付きを倒せ、と」
「ええ。勿論、あくまでもお願いです。貴方に何かを強制させようとする気はありません」
「分かっているならいい。乗ってやる。案内しろ」
「え?はい、お願いします」
目的の島付近に到着、巨人一行と私を見つけたαチームの班が駆け寄ってきて現状を報告する。状況が一変、はぐれのツインホーンが食糧と水を求め島に入ったらしい。それを聞いた巨人が口元を獰猛に歪ませると島に向けて歩き出す。その背中を私たちは慌てて追いかけることとなった。