4章異聞の1 地上にて
『希望島』、それは名の通り私達の希望であり光差す場所―――
私、セレス・アンリークはこの集団の指導者だ。先は見えず、煩雑、しかし自らが望んだことである。
巨人からはクイーンという何とも微妙な渾名で呼ばれている。その巨人も島を去ったためにこれからは本当に自分達だけの力で生きていくことになる。巨人は乱暴で、理知的。機能美を好み愚鈍を嫌う。畏怖と恐怖と感謝を持って私達を支配し掻き乱したが、道を示していった。少なくとも巨人が居なければ今の私達が無いことは明白、その点には感謝してもしきれない。だが非が有ったとはいえ生徒を殺し死体やモンスターに臆するところを見せないその異質さは一般の生徒達には相容れない者も多いようだった。
今後私達は私達で自給自足を目指さなくてはならない、食糧と安全だ。残された食糧・水を思えば時間も期限も有限、巨人との打ち合わせ通りに早々に動くこととなった。
やる気があり身体能力に優れた生徒でαチームを編成、希望島周辺の探索を行う。ただし、ある程度の情報は巨人から教わっている為に全くの手探りでは無いのが救いだった。周囲の結晶砂漠の海を探索して島を見つければそこにある資源を確認、また巨人が使用していたというシェルターも見つけ安全を確保する。その上で必要であれば食べられる植物の種子を植えていく。
いずれは幾つかの島にまたがり食糧を集めて周らなくてはならない日も来るのかもしれない。
以前ファングに襲われた際逃げ出した生徒達がいた、その集団及びあまり身体能力に優れない集団をβチームとして希望島の開発、現在の住居である大きな地下空間の整備に当たらせる。食料となる植物を集め、栽培を始める。余計な木々を取り除き島を住み易いよう開発する。これも計画的にやっていかないと資源を枯渇させかねないので注意していく必要が有った。
これから始まるであろう前途多難な日々に覚悟を決めて行動を開始したのだが、数日で多少状況が変わることとなった。
それは巨人との協定により学園に残していた獣人の生徒が駆け込んできた。顔は真剣であったけれど、悲壮感は見られない。
「巨人様と妖精様が、ムラを見つけて生存者と食料庫を見つけました!!運ぶための人数を寄こしてくれと言ってます!!」
―――正直、拍子抜けだった。
「・・・」
「会長、どうかしましたか?」
「リリエル・・・いえ、随分とあっさり見つかるものだな、と。」
「悪いことではないのでは?」
「そうなのだけれどね、もっとこう大変なことになると意気込んでいたから」
「お気持ちは分かりますが・・・何にせよ、いずれまた忙しくなりますよ。学園へは私が行きましょうか?」
「貴方が?いえ、そうね。巨人様と失礼無く話せるヒトもそうはいないか・・・寂しくなるけど、頼むわね」
一般の生徒達は巨人を恐れている、一部には巨人を熱狂的に支持する生徒も存在するけれども。せっかく見つけた食料を約束どおりにくれるというのであればこっちも相応の礼と態度がとれる人物を送る外無い。それに親友と離れるのは寂しいが、それ以上に信頼が置けるため重要な仕事でも安心だった。
当初から、巨人が探索上で見つけたヒトや食糧を生活の基盤としていくプランAが主な予定であったことは間違いない。自分達のみで自給自足を完結させるプランBは極めて困難であることは分かってはいた、それでも友好的とは言えても決して100%信頼できない存在に生殺与奪を任せる訳には行かなかったのでプランBを進めることは必至ではあった。それでも、食糧の供給が十分に為されるのであればより安全にプランを進めていくことが可能となるため2つのプランは関係していない訳ではなかった。
「気をつけてね。」
「ええ、それではまた」
選抜された10人程の生徒と共にリリエルを向かわせた。定期的に連絡をすることと、何かあればすぐに連絡するように言い、分かれた。
その数日後、リリエルからの連絡によりクーデター未遂事件とその顛末。直接手を下した事。食糧の運搬が始まったため学園から地上まで運送する人員の補充を要請する連絡が届いた。リリエルに感謝と労いの言葉を伝えるよう連絡員に頼むと、何か急に肩に重石がのしかかったような気がして椅子に座り込んだ。これから生き抜く上での覚悟、その重さを再認識させられる、リリエルはそれに正面からぶつかったのだ。少しの間、目を閉じ、開く。いつまでも座ってはいられなかった。