4-23 装備を求めて
さて、どうするか。採鉱治金のノウハウ、鍛冶及び金属製品の製作についての技能もありそうだが。こういった類の品をオーダーメイドで作れるだけの腕があるのか。
その事について親方に尋ねるが、答えはイエスでもありノーでもあった。つまり、やってみなければわからないといった所か。だが、詳しく現在の鍛冶仕事について聞けばやや難しそうだ。どうにも長い間に必要な製品というものが随分と限られてしまっており特定規格の商品以外の製作となると精々が修繕を行うか、もはや破損が多少大きければ溶かし直してしまうのが現状らしい。限られた燃料、資源の中で失伝していった技術もまた多いだろう。外敵、脅威、未知、欲望―――これらは命を脅かすものでは有るが文化の起爆剤ともなる。不可抗力とはいえ永い間の平和は様々な衰退を生んだのだろう、その平和も血が濃くなりすぎる種族的な寿命やクリスタルの壁一枚が崩れ去っただけでゴブリンに蹂躙されていたであろう薄氷のものであったが・・・。
何にせよ、これは少々難しそうだ。ここの代表として親方もそうそう簡単に出来ませんとはいえないのだろうが。
「あー、ちょっといいかいダンナ?」
「何だ?」
「えっと、まず耳の辺りを弄るの止めてくれないかな?」
「何故だ?」
包帯教師の獣耳をわしわしと触るのも最近のマイブームとなっている。フィアのプニプニ感も極上のものであることは認める、だがそれとはまたベクトルが異なるのだ。
「嫌じゃないけど、少し恥ずかしいし・・・それに妖精様がなんかすごい顔でこっちを睨んでいてね・・・」
頭の上のフィアの表情はよく見えないので摘んで目の前に持ってくる。わざとらしいまでの笑顔だ、そのまま頭の上に戻そうとして直にフェイントで目の前に持ってくる。『くわっ』という擬音をその表情で表したかのように只でさえ大きな目をさらに見開き歯を見せて威嚇していた。そのまま無言で頭の上に戻した。
「気にするな」
「・・・ああ、もういいや。話を戻すけど、以前ダンナが助けたドワーフの少年達ならどうかな?今頃地上か学園だろうし少し手間だけど」
そう言われればそのような存在も居た。まだ若く経験も不足していそうだが、それでも朽ちたアナグラの壁には持てる技術を伝えたと書いてあった筈だ。過度な期待はしていない、元より一級品を求めているわけではない。多少なり不恰好でも耐久性があればそれでいいのだ。それに、少しばかし地上の様子も気になっていた所だ。食糧や物資を運んで来てくれる部隊が居る以上順調であるとは思うのだが。
ドワーフの親方にその話をしたところ、精製された金属のインゴットについて無償で提供してくれることとなった、その代わりではあるが鍛冶職人及び外の世界へ行かせる者を一緒に連れて行ってほしいと聞いた。自分達の知らない技術を求める姿勢には好感が持てたためこれを承諾、5日ほど体を休め傷をある程度癒した後に久方ぶりに上へと向かうこととなった。
出発の日、いつも通りの後続組4人に加え10人程のドワーフが後ろに続く。掘ってきた穴をそのまま上へ向かうだけ、道に迷うこともなく只歩くだけだ。
『ナック』を出発してすぐに後ろをついて来る影に気がつく、というか隠れているつもりなのかすら分からないほどだった。キグルミが困ったような表情を浮かべて付いて来ていた。
「・・・一緒に来たいか?」
コメツキバッタのように必死に頷くキグルミ、その頭の大きさも相まってその姿は異様である。ただ、多少なり力は有るしその存在自体が見ていて面白いものでもある。
「勝手にしろ」
たとえこの先このキグルミが死んでも責任は持てない、それを聴いた上でも尚付いてくるキグルミ。ここまで懐かれる理由も考えにくいのだが綱引きで負けたことが何か影響しているのだろうか?
まあ、いい。どの選択もその本人の自由だ、そのさきの結果も。
奇妙な供を加えて地上を目指す、体の療養もかねてゆっくりと進む予定だ。だが後続組及びドワーフ集団にしてみれば必死で進む速度となるのかもしれない。それでもペースを変えずに進んでいった。