4-21 在りし日の巨躯
腰を上げると右手、右足の状態を確認する。怪我をした状態で無理をしたせいなのか本調子とはとても言い難いが、痛みを我慢すれば動くことは出来る。フィアに周囲の警戒を密にするように言い聞かせ探索を行う。ゴブリン達は地下都市の入り口付近で生活していた、おそらくそこまで凶悪なモンスターは生息していないだろう。
島中が爆発の魔法による熱と衝撃でかなり悲惨なことになっている。幾つかのモンスターとも遭遇。丸くて毛の長い小柄なファングの亜種や耳のないウサギに似たサイズの小さなモンスターと会う。ファングの亜種も耳無しウサギも未だ混乱の極みにあり、さらにこちらの姿を見ると一目散に逃げていった。爆発の魔法により息絶えたと思われる死体も回収して毛皮を剥ぎ肉を喰らう、ゴブリンロードの肉では腹6分目といったところであり物足りなさを感じていたために丁度良かった。肉は柔らかくそれなりに美味であった。
何度か体を労わる為に休憩を挟みつつも探索を続けていく。歩いているうちに火も下火となってきており少しばかし安心する。空間を囲う結晶は高密度でなければ非常に空気を通しやすい性質があるようだが火事により仮に一酸化炭素中毒や酸欠で旅を終えるのは何ともまあ格好がつかないものだ。
「・・・何と」
「オー、おっきいネ!!」
歩いていると、巨大な漆黒の躯と出会った。ハロイドで戦ったヘルハウンドよりもさらに大きい、恐らくかつての魔王獣の1匹の朽ちた姿。骨は一部風化し、欠けてしまい年月を感じさせる。しかし、黒い骨で出来た骨格しか残されていないもののその威容は凄まじく生前の力強さを感じさせる。
骨は長い年月のうちに朽ち輝きを失い、素材とするにはだいぶ脆くなってしまっていそうだ。しかし、その頭部から生える大きな2本の牙は未だ漆を塗ったかのように輝きその力を示している。おそらく牙付きの系統である魔王獣であったのだろう。
片方の牙は湾曲し先端が僅かに欠けてしまっているがもう片方は真っ直ぐに近く先端も鋭い。掴んで力を込めひっぱると牙はその頭蓋骨から抜き取られた。歯根と思われる部分が細くなっており持つには丁度良い。これはまさに槍、スピアというよりはランスの類のようだ。長さは2m弱、これだけの牙を持つ魔王獣の力の強大さが良く分かる。
その頭蓋骨の中心にはぽっかりと穴が空いており宝玉が存在しなかった。その穴の大きさを見ているとふと思いつきゴブリンロードが使っていた巨大な黄色の宝玉をバックパックから取り出すと頭部の穴に入れる―――ぴったりと合う。
この強力な電流の魔法を使うことの出来る宝玉は魔王獣の感覚器であり、ゴブリンロードがどのような経緯かは知らないが抜き取るなり何なりして入手したものだったのだろう。一応、『ライジュウ』という名前を付けた。かつて強力な牙と雷撃を放つ強大なモンスターであったに違いない。
「おじ様、次の宝玉を捜しに行くノ?」
「ああ、だが直ぐじゃない」
「いいけド、どうしてカナ?」
「・・・体の調子が万全ではない、少し休養が必要なようだ」
体を貫いた電気は存外に深い部分にダメージを与えたようで、その痛みと今も残る痺れは治るのに少々時間がかかりそうだ。無理にでもこの痛む体を動かそうともすれば無意識のうちに傷を負った右半身をかばいながら動くこととなり無理な状態で行う動作の数々は結局のところ体全部に余計な負担を与える事となる、多少の休息の後万全の状態でアタックした方がいいだろう。
それに。
「折角鍛冶屋がいる。装備の作成を依頼したい」
道具類も素人の作ったモノではそろそろ厳しくなってきた、今は雌伏の時。体を癒し装備を整え、しばしの休息をとる事としよう。




