4-17 破壊、怒りの鉄槌
後悔している。それは地下都市における無用心さか?晒した醜態か?確かにそれらもまた、1つであることを否定しない。
だが、それらの全てを差し置いてでも後悔しているのは―――他人のレールに乗って来た事だ。
何をやっていたのか、わざわざかつてのドワーフが通った道から狭くて動きにくいことが分かりきっている地下都市へと潜入。今思えば何ともまあ馬鹿げた事か!そんな詰まらない事など無視し、クリスタルを掘り抜いて上から侵入してやれば良かったのだ。
邪魔をする全てぶち抜いてでも、自分の道を切り開こうとした志をよくも分からぬ『流れ』や『雰囲気』で無視するからこのような事になったのだ。つまり、手を抜いたのだ。怠慢さがこのような事態を招いた、猛省せねばならない。
現在地は辺縁部、そう逃げ出してきた場所から遠くは無い。だが近くも無い絶妙な場所。クリスタルの壁の間際、そこに左手で不慣れながらも蛸壺、一人用の塹壕を掘る。
「フィア、奴らは?」
「ンー、そろそろ出口付近まで来そうだヨ・・・凄い大群!!大丈夫カナおじ様?」
「どちらの意味でだ?」
「どっちもダヨ」
「余計な世話だ・・・それに」
逃げようとしないフィアの様子から迷惑な信頼感というものを感じる。体は酷使し痛みと疲労でつらい、敵の大群は接近中、絶体絶命のピンチというものか。このまま敵の大群と戦えば体力的にも右手が使えない戦闘力で切り抜けることも困難。ドワーフの側に逃げようにも利き手ではないシャベルで穴を空けるのには少々時間がかかる、逃げ回ってもここは奴らのホームグラウンド。
「キャハハハ、そうだネ!で、どうするのカナおじ様?」
「こうする」
塹壕に腰を落とし、大盾をぶれぬ様しっかりと方向を定め構える。オーラを流し込む、かなりの量が消費される。だが、これで事は成った。
地下都市直上で、大爆発。魔王獣の大爆発の魔法、それは石材で出来た堅牢な都『ハロイド』の城壁を吹き飛ばし街を廃墟、いや更地にさえ変える凶悪無比な一撃。爆風に熱波がここまで届く、身を隠す場所が無ければ自分でさえダメージを食らってしまいそうな衝撃。さらに僅かに射線を変えてもう一撃、そして止めの一撃。かなりの量のオーラが持っていかれる、凄まじく体が重い。だが元々はオーラなど存在しない場所で生きていた、だから立っていられる。
爆煙を土埃が晴れたその場所、そこには地下都市への入り口などは最早存在せず、草一本も残らないただの荒地。その周辺も木々や植物は根から吹き飛ばされ、燃え、生息していたモンスターの死体や傷を負い逃げ惑う姿が見える。
「どうだ?」
「ウヒャー、おじ様えげつないネ!・・・まだ生きているようだけど動いてないネ、あ、死んだヨ。ワオ、どんどん死んでいくネ!」
そもそもだ。わざわざ地下都市にまで入って戦闘する必要も無かったのだ。崩落に気をつけなければならないほど劣化が進んでいるのであれば地下都市ごと潰してしまえばいい。目的の物は後でシャベルで掘り当てればいいのだ、クリスタルより遥かに軽く柔らかい土なんて横からならともかく上から掘っていくのは容易な事だ。潰され、その重みと酸欠により死んでいけ。場所によってはしばらくは息が出来るのかもしれない、しかし身動きが取れなければあとは餓死していくだけ。しかし、おそらくはそうにも成らないだろう。大規模な崩落はその先でもまた崩落を呼び、おそらく地下都市は全て埋まってしまっただろう。爆発地点の地面が陥没しているのもただ衝撃によるクレーターのせいだけではあるまい。
「ンン!?おじ様、1匹だけ動いてる・・・地上まで出てくるヨ!!」
「そうか」
体の調子は万全ではない、だが未だ熱の冷めぬ土を踏み歩き出す。おそらく、這い出てくるのは別格の敵であった『ゴブリンロード』。丁度いい、今も体を蝕むこのひどい痛みの礼をしなければいけなかったところだ。
さて、この『ナック』での戦いに幕を下ろしに行こう。




