4-7 生命球
掘っていると少しずつ何かの音と振動が伝わってくるようだった。何事かと思ったが、それは近くの脇を上下に貫く滝のほうから鳴っている。音が大分大きくなってきたので小さな穴を滝の通る空間に開けて様子を見てみる。音が轟音となり悪い視界だが下を何とか覗くとかなりの水煙が上がって音を立てているのが見える、それなりの空間も形成されているようだ。滝が一時的に地底湖となり水が貯まっているらしい。もっとも少し滝から離れた位置で周囲を確認したときはまだまだ底が見えないほど下へと道が続いていたのでここが終点というわけでは無いことが分かった。
原因も分かったので小休止をとる。この前のドワーフの住処から金属製の水筒を入手、素人が作った木製のものよりも遥かに使い勝手がいい。鍋やフライパンに金網、針金等々それなりに役に立ちそうなものが補充できた。ただし金属といってもこのセカイの普通のヒトならともかく自分にとってそこまで丈夫ではない、握りつぶすことも噛み切ることさえできるだろう。身体能力の向上は生き抜く上で非情にありがたいことは間違いないのだが日常生活には気を使う必要がある、少し前も貴重なペットボトルの容器を潰しそうになってしまった。掴むというよりも支えるといった形で物を扱わねばならない、ただしフィアは柔らかく素晴らしい弾力を持っているために容赦無く掴み弄れて便利だ。
さてペットボトルやシャベル、その他の地球の物品に関しては包帯教師と元王女が興味を持ったようで色々と聞いてきた。別に隠すことでもないのでかつては違う世界に生きていたこと、気がついたらこのセカイにいたことを話す―――そして、もはやそれらは過去の話であることも。
このセカイの神話だと巨人族が別のセカイに旅立ったともとれる内容なので元王女などはその末裔が再び創造神様の導きで招かれたのだと興奮した様子であった。それを冷ややかな目で見る。自分は進化論を信じている、祖先は猿でありこのセカイの創造神ではない。しかも招かれたという点もまず無い、それならばメッセージの一つくらい渡してしかるべきだったろうに。
ただ、このセカイのヒトビトが地球の人間に似た性質を持っているという点は大きな疑問であり、そして興味を駆られる一点ではある。知的生命体が2本足で立ち頭部と両腕を持つ必要性は全く無い、その姿が無数の手足を持っていてもいいし甲殻類のように堅固な表皮を持っていてもいい。軟体生物でもいいし極論有機物でなくてもいいぐらいなのだ。地球の生物でさえ決まった塩基で構成された情報の癖に千差万別の姿形を持っている、真偽は定かではないがリンの代わりに砒素をDNAに取り込む細菌が見つかったとの話すらあった。宇宙どころか世界が違うのにこんな地球に類似した形態で文明が生じている、そして自分が生存可能な環境に有ることは極めて異質であると思う。まあ、それ故に地底を目指し真実を確かめに行くのだ。
先程フィアのレーダーが宝具の反応と、そしてかなりの数の生命反応を察した。モンスター及びにヒト、そしてそれらは両方とも動いているという状態らしい。だがヒトと思われる反応が異常な速度で減っていたりはしないらしい、この点が少々考えさせられる所だ。襲われていないのであれば引き篭もっているのだろうか。だが―――行って見なければ何も分かるまい。このセカイは予想もつかない事ばかり見せてくれるのだから。
フィアの尻尾の角度も水平に近い。周囲の視界は余り良好ではない、いや劣化した箇所が多いようで極めて不良だが尾が示す方向へと堀り進む。
視界が、開けた。劣化の酷いクリスタルの領域を抜け、眼前に見えるのは巨大な球体型の靄。内部の様子までは分からない。この巨大な空間の中に何が潜んでいるのか、それを確かめるために進む。フィアが捕らえたヒトの反応がする方からまずは侵入を試みるとする。
おそらく、ここがドワーフの首都『ナック』。宝具が眠る場所、願わくは此処が面白き場所でありますように。