4-6 棺の中の生存者
「きゃあああ!」「うえ~ん!」「うわあああああ!!」「ひいい!!」「おかーさーん!!」
さて、これらは棺桶から出てこちらを見た後の第一声を集めたものだ。助けてやったというのに全く酷い反応だが。
「おじ様おじ様」
「ん?」
満面の笑みのフィアが手にしていたのは鏡、先程の部屋から持ち出してきたのだろう。映るのは乱雑にきられた髪に鋭い目。無精髭が生え、骨や皮製の武装を全身に施された背の高い男の姿。
成る程、納得した。
とりあえずニタニタ笑っていた両頬を摘み手を震わせる。相変わらずの素晴らしい触感だ。あばばばば、と奇声を上げるフィアにさらに子供達の恐怖が増したようで壮絶な顔をしている。年長者と思われる子供が小さな子供を背に隠すようにしている。敵対しなければ害するつもりは無いのだが。理由はともあれ武器を向けられれば年齢性別問わずに潰さねば成らないが。
さて暴いた、いや開放した棺は20個程度。その内5つは傍目に見ても古ぼけており、また別の5つは見た目は新しかったのだが遅かったようだ。中には白骨化、ミイラ化した死体が横たわっていた。棺に内側には引っかいたような傷跡も見える、餓死か酸欠かは分からないが随分苦しんで逝った事だろう。一つの棺に1人という訳でもなく何人かを纏めて押し込んであったようで死体の数は20と少しはあった。運が無かったようだ。
残りの10個の棺は機能していたようでクリスタルを取り除き蓋を開ければ直ぐに何人も子供が起き上がってきた。失礼にもこちらを見て今は大層怯えているが。だがフィアの存在を見つけると表情は怯えよりも戸惑いにシフトしていった。
「・・・話が出来る奴はいるか」
「は、はい。あの・・・貴方がたが僕達を助けてくれたんですよね?」
「他に誰がいるのカナ~」
「す、すいません」
学園の生徒で言えば初等部と中等部の境程度の年齢の少年が進み出る。助けた中では1番年長のようだ。
「フィア、黙ってろ。事情は分かるな」
「・・・はい、これで全員、なんですね」
首肯すると泣きそうな顔になる少年であったがどうにか堪えたようだ。
「それでどうする」
「・・・助けていただいた上でまたお願いしてすいませんが、どうか助けてください!お願いします、何でもしますから」
「ん?今何でもするって言ったよネ~、フフーン何をしてもらおうかあうぉうぉうぉうぉ」
調子に乗っているフィアの頬や腹を指でつつき黙らせつつ今後のことについて話す。だが騒々しい、比較的年齢の高い子供達が事情を説明するとまだ幼い子供達が泣き叫び始めたのだ。それを見て説明していた子供までもが泣き叫ぶ、さらに運の無かった棺の中にある死体を見て叫んだり泣いたり部屋の中で音が反響し大変に煩い。空になっている棺の近くまで進むと力を込めシャベルを叩き付ける。その一撃は棺を粉砕し床を陥没させ衝撃で部屋を揺らした。埃が舞い散る中「五月蝿い黙れ」の一言でようやく静かになる。
「続きといくか」
「無茶苦茶だ・・・」
外の世界はもっと無茶苦茶だ。モンスターには泣いても喚いても言葉が通じない。それにこのクリスタルに覆われたセカイというだけで大変に狂っている。適応しなければ死ぬだけだ。
それでもまだ泣いている子供達を引き連れ外へ出る。年長の少年は棺に入る前にもこの光景を見たことがあるのだろう、空の見えない天井を見上げ厳しい顔をしている。後続3人衆と合流、妖精や巨人ではないまだ見慣れたヒトの姿にどこか安堵しているようにも見えた。滝近くの本道とも言える場所まで戻ると以前学園まで向かわせた兵士が戻ってきており疲れた様子で座っていた。その近くには食糧や消耗品が積んである。
「お疲れ様です王、いえミーナ様、巨人様方・・・おお生存者ですか!喜ばしいことです!」
「ああ・・・ん、痩せたか?」
「え?」
この後しばらくの間互いの意思疎通が上手くいっていなかったがようやく解決した。地獄絵図の丘で別れた兵士が弟、今いるのが姉らしい。同じ装備と背格好なので紛らわしい。だが、自分以外はとっくに気がついていたらしい。むしろ何を言っているのかといった目で見られていた。仕方がないだろうに、余り興味が無かったのだから。流石に覚えたので姉のほうを兵士A、弟を兵士Bと呼ぶことにした、このネーミングも不満そうだったが名前を覚えるのも興味がないため仕方がない。助けたドワーフの子供達は随分腹が減っていたようで食糧を貪っていた。
どうやら兵士Bは急いで学園まで戻ったため疲労で動けなくなったらしく変わりに兵士Aが来たらしい。話はナイトに伝わったらしく食糧等をこちらへ運ぶ定期便のついでに幹部を付け調査団として地獄絵図の丘まで見に行かせたらしい。現在も物資や荷物をここに運んだ後、調査に行っているとの事。時間的にはそろそろ戻ってくるのだそうだが。
噂をすれば何とやら、兵士Aに報告するために調査団が戻ってきた。こちらの姿を見かけると緊張した様子で一列に並び敬礼をしてきた。別にとって食う気は飢餓状態じゃない限り無いというのにお堅い事だ。代表者と見られるドワーフが前に出てくる、会議やらムラ等からの物資の運搬で見たことがある、まあ名前は覚えてもいない。報告としては運搬された物資の説明と、しばらくの間は地獄絵図の丘の事は放置するよう報告する心積もりである、ということを聞いた。地獄絵図の丘には一応監視役を付けておき時間が動き出したり異常があればまたこちらにヒトを寄こすらしい。
「兄さん!!」
「!まさかドコンか!?」
どうにも助けた少年とこの幹部ドワーフは兄弟であったらしい。さらに生存者の中でも何人かは顔が分かるらしく喜びの顔を浮かべていた、ただしムラの顛末を聞くと父母や知人を思ったのか、目に涙を浮かべた。それを乱暴に袖で拭うと笑顔を作りまた再開を祝った。親戚知人と再び生きて会える可能性は極めて低い、そう考えれば一人でも兄弟と会えれば幸運な方であることを知っていたのだろう。
幹部ドワーフが何度も何度も頭を下げ感謝の言葉を言ってくる、それ自体は不快ではないが話が進まない。ようやく落ち着いた様子となったのでこれからのことを話す。生存者は学園まで連れて行くことに決定、申し訳なさそうな顔をしながらも運んだ食糧は学園までの旅糧に回したいと聞いたので許可を出す。普通の食糧の備蓄も肉の備蓄もまだそれなりにあった。学園に急いで一人を戻らせ埋め合わせの分を至急運ぶように取り計らうと約束してきた。
ふと、刻んであった文字の中に『技術と知識を教えた』とあったのでその事について尋ねる。まだ見習い段階であるが少年は多少の金属製品を製作する鍛冶があるらしい。幹部ドワーフも多少の心得はあるとか。金属製品を作らせることがあるかもしれないので技術の研鑽に努めるように言う。力強い返事が返ってきた。
尚、ドワーフの名前は男は3文字、女は4文字で最後の文字は『ン』で終わることがルールらしい。こういう分かりやすいのは嫌いではないが何人もいれば逆に混同しそうだ。
最後に首都である『ナック』とムラの位置関係を聞くとそこまで離れてはいなかったようだ。フィアのレーダーでも大分目的地まで近づいている様子。また面白いものが見れればいいのだが。上を目指す集団と分かれて再び下へと穴を掘ることにした。




