4-4 アイス・コフィン
フィアの探知範囲ギリギリ、結構な距離を進んだ先にあった靄に突入した。それなりの規模のドワーフのアナグラであったようだ。一見したところ今まで見てきた廃墟と変わりは無い。時間が止まっているのであればもっと保存状態が良くてもいい筈であるが、そうでないという事は島全体の時間が止まっていたわけではないということか。
「フィア、どうだ?」
「ン~、やっぱり幾つかの反応があるヨ!でも動いてはいないようだけどネ・・・」
可能性とすれば偶々住居である洞窟の一部にクリスタルが入り込んだのだろうか。それならば少人数であれば生きている事もあるのだろうが。
「む?」
周囲を見回していると気になるものがあった。それは今自分達が掘り抜き入ってきた穴とは別のクリスタルに掘られたトンネルだ。歩いて近寄ってみると高さ1m程度の穴が長さ30m程に渡り掘られている、この島のドワーフ達が脱出するために挑み穴を掘ったのだろうか。
素直に感嘆する。
今の自分にとってはこの程度掘るのは造作も無い事だ。だが最初にこのセカイに落ちてきたとき、シャベルを劣化したクリスタルの地表に叩き付けても僅かしか削ることは出来なかったのだ。さらにこのセカイの小柄なヒトが為そうとするにはこれだけの穴を掘るのにどれだけの労力を費やしたことだろうか。多くのドワーフが全身全霊の一撃を叩き込んでも僅かにしか削れぬクリスタルをよくも30mとはいえ、いや30mも掘れたものだ。その姿勢に賞賛を送りたい気分だ、たとえ受け取るものがすでにいなくとも。
ロッカーや包帯教師も感心しているようだ、元王女だけはこれがどれほど大変なものなのかを分かっていないようだったが。それも試しにクリスタルを掘るように促せばすぐに会得がいったようだ。
安全の為後続組を入り口前に残し、少し上機嫌なまま腰を曲げ屈みつつ島の地に掘りぬかれた住居内部へと入っていく。内部は経年劣化が見られるものの争ったりした形跡は無い。いや、むしろ整いすぎている程にも感じる。様々な物が綺麗に整理整頓されていたように見える。疑問と好奇心を胸にさらに先を目指す。
生命反応が近くなってきたらしい。フィアの尻尾が示す方向へと進む。だがその部屋の入り口には岩で出来た戸が道を塞いでいる。勝手に崩落したものではなく加工された扁平なものだ。シャベルを叩きつければ粉々に砕け道を開けた。
「これは・・・!?」
「ワオ!」
部屋の中は明るかった。中の様子もしっかりと見ることが出来る。だがそれに驚いたのではない、その光景に驚きを隠せなかったのだ。
クリスタルに包まれた、いくつもの石製と思われる棺がそこにはあった。クリスタルは部屋を照らし異様な空間を形作っている。
「・・・生きている反応は、この中にあるヨ」
全ての棺の中に生命反応が感知できたわけではないが、それでも結構な数の棺の中に時が止まったままの生存者が感知されたらしい。仄かに輝くクリスタルに包まれた棺、幻想的な光景。その部屋の壁には綺麗な文字が刻まれている事に気がつく。その冒頭にはこう書かれていた。
『ようこそ客人よ。我々はかつて穏やかなる繁栄の中にてここに居たドワーフの一氏族也。ここに何が起こり、そして何を残したのかを語ろう―――』