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04-1 家と山の仕事

12/27 04話1-3をまとめました。


ようやくタイトルのもう一人の気配が。

俺が多賀家にきて2年と7か月。


5月の大型連休が終わったころ、ママは実家へと帰って行った。

別にパパと仲が悪くなったわけではなく、お腹が大きくなったので出産の準備をするために大津のおばあちゃんの家に行ったから。

ちなみにおばあちゃんもおじいちゃんも俺が喋れるのは知っている。

初孫だ!とか言ってはしゃいでいたのがなんか怖かった。


半月後には俺の弟か妹が生まれるらしいんだけど…俺は犬だから病院に入れないからもし生まれてもお留守番だそうだ。つまんね…


午前中、パパの車で大津のママと久々に会って夕方にこっちに帰ってきた。

おばあちゃんの家に行ったらいつもは夜、夕飯を食べてから帰るのに早めに帰ってきたのは、パパが近所の会合にでないといけないからだ。会合っていっても飲み食いするだけなんだけど。


今度の会合には小さい子供が何人かついてくるみたいで、その子達の相手をするために俺も行くことになった。

近所の人たちには俺が喋ることは知られていない。ん?あ、隣のおっちゃんに喋ったの見られたことあったっけ。

だから、完全に犬を演じないといけない…ってなんかおかしいことになってるような気もするけど。


パパ達が向こうで騒いでいる中、俺は子供たちの輪の中に入って…遊ばれてる。

愛玩用の犬と間違ってると思うぐらいに体をやたら触られる。

最初は良かったけど、段々エスカレートして耳や尻尾を引っ張ったりしだしたので勘弁してよと思いながらパパの方へ逃げる。

それでも追っかけてきて、三人に囲まれて…

人間の子供に本気を出せるわけもなく、一番年少の子に捕まってぬいぐるみのように抱かれて…拘束された。


まあ子供だから飽きるのも早くて、離された時には他の子たちは違う遊びをしていた。

その中に高校生ぐらいの男の子が中心になって他の子供たちとトランプで遊んでいる。

俊夫君だっけ?彼もちびたちとの遊び相手するようにここに呼ばれたようだ。

もうみんなそれに夢中だったので俺の役目は終わったな…と思ったとき


外から犬の鳴き声が聞こえた?


と思ったら、ちょうど開いてた窓から外に出てみると見たことのある犬が駐車場で行ったり来たりを繰り返していた。

そいつは俺を見るなりこっちへ近寄って来た。


”ブラウン、主、困ってる、手助け、頼む”

”ギン!どうやってここがわかった?それより町に出てくんなって言ったろ?車に轢かれたらどうすんだよ。なんかあるんだったら遠吠えしろって言ったろ?”

”ブラウン、山から匂い、追ってきた。遠吠え、した。返事ない、仕方ない”


野良の若手、灰色と黒の毛並みのギンが俺にクロからの伝言を持ってきた。

遠吠えしたのか…あまりに周りが騒がしくて聞こえなかった。

それよりまたかよ…こんな時に。しかたないなぁ…

室内に戻って宴会中の輪に入って、パパの背中に飛び乗るように這い上がった。


「パパ、山に行かなきゃいけない用事が出来たみたい。」


できるだけ他の人に喋っていることを悟られないように耳元で囁いた。

パパも俺の山の仕事を大まかでわかっているので大きくうなずく。

了承を得たので窓からするっと抜け出してギンと一緒に山に向かった。

男の子がそれに気づいて出て行った窓から顔を出してバイバイしていた。


クロが山の主になって2年。

だいぶ力の使い方も上手くなったなったんだけど、波があって調子がよすぎると使いすぎて力が出ないとかいう状態になったりする。

それが今回呼ばれた原因だった。

山の主が守るべき場所に結界が張ってあってそれに力を入れて維持するのが仕事なんだけど、今クロは力を出し切ってそれができない状態になっている。

そうなったときのために竜王せんせいが作ったバックアップの機械があってそれを起動させればいいんだけど…

ちなみにバックアップは俺が日向ぼっこしているときに俺の中にあるらしい小さな力を少しづつため込んだものが入ってる。


起動させるのにボタン一つじゃ簡単に発動するからって、合言葉を設定してある。

犬語だと登録設定が難しいからってクロも一応日本語を喋れるので数字4桁を言ってボタンを押すというシステムにしてあるんだけど…

結界を張る力を使い果たしたクロは、うまく日本語が喋れなかったので起動しなかったということで合言葉を喋ってほしいと呼ばれたわけで…


完全に失敗作品になってしまっている。

明日、竜王せんせいに対策を練ってもらおう。



機械を無事起動させて一息入れるために、草の上にべたっと座り込んだ。結界を張るのに電源が必要なので小型の発電機が作動する音が付近に響く。

 電気がついて表示窓のレベルゲージが作動のところまで振り切っているのでうまく動いているんだろう。

 力の充電も丸2日はもつぐらいある。それぐらいあればクロの力も完全に回復するだろう。


 で、力を使い果たしたクロは結界の外でべたっと座り込んでいる。

 完全にへたっているのか舌を出しながら浅くて早い呼吸で回復を早めようとしている。


 ”すまん。満月で調子に、次から気をつける。”


 ここ2年、ずっとこの山から離れられないクロは俺が山にいるときはほとんど一緒に過ごしている。

 力を使いこなすまでに半年、力を調整するのに1年、山の祠に保存してあった山の主の仕事とかいうふざけたタイトルの巻物…だいたい山の動物の話なのに日本語で書かれている時点でどうしろというのかわからないものを俺が読みながら、クロに教えていくという訳のわからない方法でようやくものになって機械に頼らなくてもよくなったというのに…


 機械が作動したからなのか、俺の顔を見て安心したのかわからないがクロは結界の横で眠ってしまった。

 俺も一休みしたので野良たちに挨拶して何も気にせずに家に帰ったら、パパはべろんべろんに酔っぱらっていたらしく、玄関で倒れるようにして寝っ転がっていた。



 次の日、朝の散歩がパパが酔いつぶれていたから中止になったので、予定を変えて久しぶりに朝から山の方へ一人で散歩に行った。

 天気も良くてすがすがしい朝…のはずだったのに、一歩山に向かう獣道に足を踏み入れたら結界に嫌な予感が脳裏に走った。

 結界になにか黒いものが囲んでいく嫌な絵が頭に浮かんだのであわててクロの眠っているはずの場所までダッシュで向かった。


 「あ!昨日の犬。なんで1匹でこんなとこにいるの?」


 山のふもとで昨日の会合で会った男の子、光喜くんが俺を見て声をかける。

 いつもなら結界の場所に行くのに人間を連れて行かないように、遠回りしたり、見つかったら行くのをやめたりしていたけど、そんなことを気にしている余裕がなかった。

 俺の後を光喜君がついてこようとしたとき、もう一人の男の子、昨日トランプを持ってきていた俊夫くんが止めようとしていたのでスピードを上げて二人からすぐに離れるように駈けていった。


 結界についたらクロは昨日のまんま結界の横でダウンしていた。


 なんともないじゃん。


 相変わらずクロはダウンして寝ているけど、なにもなく普通だ。

 予感は当たらなかった、気のせいでよかったと思った瞬間、クロの横の結界の中から黒い煙のようなものが少しづつ湧き出しているように見えた。

 それは少しづつ結界の中を黒く濁していくが結界に阻まれ外には出ない…はずだった。

 結界ギリギリのところで寝ているクロの横で、中の霞がたまって真っ暗になっていく。

 それは結界の容量をいっぱいになったのか、風船がパンパンになったように膨れ上がっている。

 結界も硝子のように固ければ割れてしまう可能性があるので、ゴムのように柔軟を持たせた仕組みになっていた。

 強い内圧を多少の遊びを持たすことで、急激な膨張収縮の力を拡散する。

 その構造のおかげで、結界が何回か膨張したとき、クロの足の先が結界の中に入り込んでしまった。



 ”あ…”


 俺がクロの後ろ脚に気づいて声を上げようとしたとたん、その黒い霞は結界の中に入っていしまったクロの脚先に絡まり、体ごと一気に結界の中に引きずり込むと、犬の体を包み込んだ。


 霞がクロの体の形にそってまとまっていく。

 その中心に捕まったクロは霞の中で宙に浮いて、綿あめの棒をくるくるとまわしてからめ取るように体に巻きついて黒い影に変わる。

 中のにいるクロの毛が逆立ち、残った霞が一つ一つの被毛に絡まり体の周りの影と同化する。


 四脚が下に引っ張られるように不自然に伸びると影になったクロの形を一回り大きなものに変化させる。

 そして体をゆっくりと震わせると、四脚に力が入って、尻尾がゆっくりと上にあがる。

 そして大きく息を吸い込むようなあくびをしたかと思うとゆっくりと目を開く。

 その眼は真っ赤にそまっていた。


 ”ヨウヤク邪魔ナ存在ヲ吸収デキタ。”


 影の変化に目を奪われていた俺はクロがそれに飲み込まれ別人になったことに気がついた。

 クロが黒いものに…なんて冗談言ってる場合じゃない。

 クロの野良の獣くさい匂いが無臭に近いものに変わっている。匂いがするからなかに本体はあるんだろう。

 片言が特徴の犬語が消え、外国人が喋る片言の日本語のような発音のおかしい獣語?に変わった。


 ”なんだお前!クロを返せ!”

 ”モウスグ俺ノ新シイ体ガヤッテクル。ソウスレバコンナクズナ体、帰シテヤル”


 なに訳の分らんこと言ってるんだ?それにクロの体がクズだって!

 その言葉にむかついたので、クロだとわかっているけど、違うものが入ったそいつに向かって体当たりを仕掛けた…

 でも結界の中に閉じ込められている影は逆に結界に守られる形になって俺の体当たりが弾き飛ばされた。


 転がって止まったところで誰かの腕に抱かれるように持ち上げられた。


 「ブラウン?大丈夫?」


 光喜くんに俺は抱きかかえられていた。

 なんで?さっきついてこれないように振り切ったはずなのに。こんな山奥の人が来づらい場所になんで?

 そう思ったけれどよく考えてみるとこんな静かな山の中に簡易発電機の音が付近に響いている。何してるのか気になって見に来る人もいるわな…

 この場所に人を寄せ付ける機械を導入した検竜王せんせいが悪いってそんなこと今言ってもしょうがない。

 それよりここにあんまり長居させちゃいけない。


 ”お願いだから帰ってくれないか?”


 光喜くんにはわんわんとしか聞こえてない言葉としぐさで伝える。

 日本語喋ったらすぐなんだろうけどあとでややこしくなるからなぁ。


 「どうしたの?急に…あ!あそこに黒い犬がいる!」


 光喜くんが影に包まれたクロを見つけた。

 それを見て近づこうとするので仕方なく唸りながら暴れて帰れ!と言っているんだが…

 昨日の俺を見た光喜くんのイメージは大人しくて賢こくて怖くないと思い込んでいるのか、全く効果がない。


 ”ヨウヤク来タカ…マダ少シ若イガ、育テレバ俺ノ憑依先ニハ十分ダ”


 影が結界の中の一点に黒いものを集中させると、そこから糸のような影の分身が抜け出してきた。

 結界が役に立ってない…のか人工の力なんで弱い部分が出来たのかは知らない。けどそこから抜け出て飛び出たものの狙いは光喜くん!

 やばいと思って糸の進路をふさごうと体を大きく立ち上げて


…体のどこかにあたってくれ!…


なんて最近見たアニメのマネをしたわけじゃないけれど光喜くんを守ろうと糸の飛び出した角度にタイミングよく立ち上がった…はずだったのにそれは体をするっとすり抜けて後ろにいる光喜くんの額に刺さった。


 とたんに俺を抱いている手が冷たくなっていく。そして体が硬直したのか力が抜けて俺を落とした。

 顔色が青白くなり瞳がギュッと小さく縮まった。


 「ああアアアアァァァ」


 俺を吹っ飛ばして頭を抱えて苦しそうに叫びだした。そして4回ほど頭を大きく振ったと思ったら動きが止まった。


『ヨク来タ、我ガ肉体。オ前ノ名ハ?』

「僕…は、瀬田…光喜、9歳…」

『コーキー、コッチヘ来イ』


 獣語?と日本語を使い分けながら命令する影のその言葉に従うようにゆっくり結界の方へ歩いて行く。

 何が起こったかわからないけど、なにかよくないことが起こる。だから何が何でも止めないと…

 俺はふらふらっとすり足で前に進む光喜くんに体当たりを何回かしてみたけど止めることができないばかりか、なぜかびくともしない。俺は、犬の中じゃ力が強いんだぜ。

 そして光喜くんは俺が邪魔だとばかりに首輪を掴んで横に放り投げられた。

 結界の前まで来た光喜くんはまるで仕組みがわかっているかのように発電機のスイッチを簡単に切っていた。当然、機械で結界を張っていたんだから電源が切られれば結界は簡単に消える。


 エッ!そんな簡単に止まるの。それじゃ意味ないじゃん。切るのにもパスワードとかで守られて…なかったな、そう言えば…

 竜王せんせい、もっとしっかり考えてよ。


 「光喜、やっと見つけた。」


 そんな中、俺の後ろから俊夫くんの声が聞こえた。そう言えばさっき光喜くんと一緒に山のふもとにいたよな。

 どうやらはぐれた光喜くんを探していたみたいだった。

 そうだ、なんとか俊夫くんに光喜くんを止めてもらえないかな。


「トッシー?」


 光喜くんは俊夫くんの声に気がついたのか足を止めて振り向いた。


 助かった…


 そう思ったけど時すでに遅しで光喜くんは黒い影の手の届くところに移動してしまっていた。


2日おきの投稿ができるように頑張ります。

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