10-17
”やまぶき、何故我の邪魔をする!”
ブルンブルン…
我根を切断した機動式鋸が地面に放り投げられ空回りをしている中、やまぶきが我の意識がある場所を知っているのか狼を抱いたまま睨みかえしてきおった。
一度殴っておきたかったが切れ方が荒かったのか表面が痺れて動かせない。
我に反抗するつもりなのか?
”やまぶき!何故我の邪魔をした”
「邪魔デスカ…ボクは邪魔したつもりはないのデスガ。」
”ではその狼を我に渡せ”
「嫌デス」
”何故だ?我には従うのではないのか”
「ボクはブラウンさんに仕えるものです。いまのあなたは樹木の意思に飲み込まれた違うものだから従いまセン」
言いおったな、やまぶきめが。しかし痺れがひどい、まさかあやつ…
”やまぶきよ、何か仕込んで来おったな!”
「あなたの根を切断したチェーンソーにたっぷりと除草剤を塗ってきましたカラ。」
"除草剤じゃと!我周りの植物を枯らすつもりか!”
「あなたの暴走を止めるためです!流石せんせいデス、樹木が動かない間に…」
やまぶきは我切り取られた根を狼から剥ぎ取り抱きかかえおった。その間も我の根は痺れて動かせぬ。
「虎姫さん!意識ありマスカ?」
「うぅぅぅぅ…儂は…ギン…カイ…」
「虎姫さん!しっかりしてくだサイ!アナタは今は虎姫さんですカラ!」
「うぅ…儂は…」名を…何故知って…」
「虎姫さん!」
「うっ…だれだ…お前は、儂の名を…何故…」
「せんせい…竜王さんの知り合い…といえばわかりまセンカ?」
「おお…奴の知り合いか…」
「ソウデス、やまぶきと言いマス。竜王せんせいにはお世話になりっぱなしで…」
「そうか、お前が…やまぶき君か…あいつからよく…聞いている…」
「良かった、知っていてくれたのデスネ」
「ああ、君が…この山の…主…なんだ…」
「ボクは主では…」
「ところで…なんだ…こう…やまぶきの…匂いが…なんだ…」
「ボクの匂いですカ?」
「儂にとって…いい匂い…大切な匂い…の…ような…」
「ちょっと虎姫サン!大丈夫ですカ!」
「儂がその昔…よく嗅いだ匂い…俺が…大好きだった匂い…」
我がが注入した魔が大人しくなっていきおる。何故じゃ…
そして鼻から吸い込んだやまぶきの気がゆっくりと狼の中へ入って…
我の魔を書き換えていきおる…
わかれていた魂の間をそれが取り巻いて境界をなくしておる…
「儂は…俺は…この森を…荒らして…反省して…」
「虎姫サン!」
「罰…俺は…罰として…大好きだった…この森を…」
「徹クン!?」
「この森を…守る…昔の俺に…」
二つだった一つの魂はやまぶきの気によって安定していきおる。
あとは名を刻んでやれば新たな者へと変貌できるのじゃが…
「さあ…俺に先ほどの名を…君から…」
「でも…そんなことをすレバ、あなたが!」
「大丈夫…君…あなたは…竜王…せんせい…の…」
「しっかりして下サイ!」
「無理…あなたの…匂いが…俺を…包んで…」
「な、何でスカ!これは!」
”名前を言うのじゃ”
しまった、思わず念じてしまった。
これでは狼はやまぶきのものになってしまうのじゃが…
なんだ?我は…何故こんなことに…おかしい…何故我は狼を支配しようとしておる…
まるで…




