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10-5 好奇心

 ”ね、ね、ね、居た、見た、狼、居た!”

 

 尻尾をぶんぶんと振って多少興奮気味のシロップは狼の方へやってきた。

 いや、俺この間見たって言っただろうに。

 それよりお前、見たことのない奴にどうして平気に近づけるんだ?そんなに興味あるのか?

 

 「こいつか?お前が言ってた俺を探してた犬ってのは?」

 『探してるんじゃなくて、興味があるだけ!こっちは迷惑してんだから。』

 「何怒ってんだ?それよりそろそろ、追っかけっこしようや。」

 『だからなんで俺が付き合わなきゃいけないんだ。能力差がありすぎて勝負にも何にもなんないし。』

 「だから、いいもん持ってきたんや。」


 そう言って胸に下がってる巾着袋から何かを取り出した。なんか赤い色の柔らかそうな球みたいな…

 薄く透き通っててゼリーみたいな色いあいの丸っこい軟球?それのどこがいいもんなんだ?

 

 「お前、考え方が人間臭いんや。犬なら犬らしく、単純に遊ぼうとか考えられんのか? これはな、生き物の隠れたの本能をな、引き出してくれる不思議な球なんや。」

 『なんだよそれ?それに俺に引き出せる能力なんてないぜ。』

 「嘘言うなや、お前の中にはなんか黒いもんがしまってあるふうに俺には見えるんやけど。」

 『まさか…』

 「俺がこの姿になったのもこれを拾ったからって祖父ちゃんが言ってたし、じゃあお前とこれで遊んだら中のものが出てくるんやないかって思って…」

 

 おいおい、冗談でしょ。

 それってあの球を投げて取ってこいっていうことなんじゃないの。

 確かによく飼い主が投げた球を拾って遊んでいる犬ってよく見るけど、なんで俺がそんな事で付き合わないといけないの?

 バカバカしいから俺は狼に背を向けた。


 『俺、帰る!』

 「なんで?普通の動物だったら負けっぱなしは悔しいやんか。な、な、俺もまだ体に慣れてんし、な、付き合ってや。こんな体で人がいるとこでたら騒ぎになるし、な。たのむわ。」


 そんなこと知らん!


 ”なに、それ、きれい、みせて?”


 近くにいたシロップが興味を持ったのか狼男に近寄っていく。

 

  ”おい!シロップ。いい加減にしろよ。そろそろかなちゃんとこに帰らないと、心配してるってのに遊んでんじゃないよ。"


 俺の言葉を無視してあっちへ近づいていく。

 うぁ!何で知らない奴にそんなに簡単に近づけるだ?

 あ、そんなに簡単に覗くなって。何されるか分かんないぞ。


 「そうかそうか、そんなに気になんのか?どうもお前が帰らなきゃあいつも帰らんみたいやし、ちょっとシロップもつきあってや。」


 あいつとあいつの持ったたまに興味しんしんのシロップの頭ををなでながら、しゃがんで目の前に持っていく。


 「シロップ、これをよく見てみろ。よーくやぞ。」

 ”見る?これ?どーする?”

 

 シロップも単純な言葉なら少しは分るみたいで、匂いを嗅いだ後狼男が言ったとおりにじっと玉を見はじめた。

  ふわっふわっと身体と尻尾を動かしながら楽しそうにしているけど、何が楽しいんだ。

 そしてその球を大きく高く投げ上げた。見た目軽そうな球が背の高い木の上ぐらいまで上がっていきそうな勢いで真上に上がって闇に埋もれて見えなくなった。

 それをしっかり目で追って上を向いているシロップに向かって狼男が言った

 

 「さあ、シロップ。拾ってこい。落とすなよ!」


 狼男が命令すると、匂いを嗅ぎながら球が落ちてきそうな所に移動する。

 で、俺がやっと見えたと思ったときには落下地点で球を口を開けて取る、のは無理なので一度頭に当ててバウンドさせて、それが勢いなく落下するところを口でキャッチした。

 半透明でつやがある癖にくわえるとスポンジのように柔らかいのかギュッと収縮して口の中に収まった。

 

 ”はわわ、ほれ、はひ”


 手が使えないから口に詰まって取れないようでうまく吠えられないようだ。

 

 ”ほら、興味あるからって何でもかんでも近寄っていくからそうなるんだって…”


 中の球が取れないからもがいている間抜けなシロップの姿に、やれやれと思いながら助けてやろうと近寄って行こうと思ったとき、シロップの体に異変が起こった。

 




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