09-7 2対1でも
「ちょっといつの間に…どうしたのデスカ?ナゼこの狼の相手をブラウンさんがしているのデスカ?」
俺が狼男と相手しているのを見てあわててやまぶきがこっちにやってきた。なんだよ、警戒してるんじゃなかったのか?
その声に一瞬尻尾を止めて…なんかがっかりしたような、そんな目でやまぶきを見てる。
やまぶきはあわてて獣人になって俺を拾いながら後ろへと距離をとって狼男の方に向きなおした。
以外に変化するのって早いんだなって初めて見たときは思った。
やまぶきの獣人化は基本はそのまま立ち上がって動きやすいように部分的に変化するだけだから、変化の少ない脚は早いから立ち上がって走れるようになるけれど、指や口周りの変化が大きい部分は俺を抱いている今も少しづつ変化していっている。
特に腕と指がしっかりと使えるようになるには1分ぐらいはかかる。
まあ、今は脚力と俺を抱きかかえれるように前足がフリーになればそれで何とかなるんだろうけど。
「やっと来たんか?なにしとってん?」
「って、いつの間にここに現れたのデスカ!それよりブラウンさんは無事なんデスカ!」
『ああ、俺は大丈夫だけど…』
「よかった、全く気付かなくて…クロ様にあいつが現れたって聞いてギンと手分けして探していたのデスガどこにいるのかわからナクテ…遅くなってごめんナサイ…」
いや…そんなに大げさに心配してもらわなくても、追っかけっこしてるだけだし。
やまぶきは警戒してるのか被毛を逆立てて狼男をにらみながらうなりだした。
いや、そんな大したことじゃないんだけどなぁ…
そういえば前回はすごく体力を消耗してたし、体もボロボロに近い状態だったからとんでもないことでもやらかすつもりなのか?
「何心配してんねん。そんな怖い顔せんでも俺は別に遊んでるだけやし邪魔せんとけよ!それよりお前も鬼ごっこ混ざらへんか?」
「へ!?鬼ごっこ?」
「お前等が鬼で、俺を捕まえた…タッチしたらお前等の勝ちでええよ。」
狼男が首にかけた2つの巾着の中かから鉱石を取り出して、俺達に見せた。
一緒にやまぶきの両腕に力が入ったのか俺をギュッと強く拘束する。
『やまぶき!痛いって!興奮するのは分るけど俺を巻き込むなよ。』
その声でしまったとばかりに俺を手放したから、そのまま地面に…うまく着地できた。まだうまく動けそうだ…じゃなくって痛いんだって!
大地とかと違って、力も強いんだから。
「ごめんナサイ」
『うー、もう…いいからあいつを捕まえようぜ!鉱石を取り戻したいんだろう?』
「ハイ、でもどうシマスか?」
『うーん…あいつの動きにどれぐらいついていけそうだ?』
「この間は…速さはボクと同じぐらいかちょっと遅いぐらいに感じマシタ。動きは見えるのデスガ、急な横移動についていけなかったデスね。』
横移動…かぁ、それが事前にわかったらいい勝負出来るのか?
俺には動きは見えてたから…まあ手加減してるかもしれんけど。
「脚力が強いようナノデ、あの急発進と急旋回には苦戦シマス。あとスタミナが結構あるようなので長引くと辛いデス。」
『急旋回の前兆があればいけそうなのか?』
「尻尾が素直なんで尻尾が大きく動ケバ向きが変わるのデスガ、それを気にしすぎレバ、動きが豪快ナンデ視線がそっちに持っていかれてしまって…見失うことが何回かありまシタ。それに、尻尾が動いてから旋回するまでのタイミングと方向がバラバラでやりにくいと思いマシタ。」
尻尾ねぇ、確かにわかりやすくて動きを読むのにはいいんだろうけどあんだけ豪快に旋回しますよって振られてしまうとついそっちが目に入って一瞬見失っちゃうってのは分らんでもないけど…
『なぁ、耳を気にしてみたら?』
「耳?デスカ?」
『ああ、良く見てみろよ、尻尾よりももっと素直に動くぜ。それも旋回する勢いが強いほど大きくぴくって動くぜ。』
「そう、なんデスカ?」
『ああ、俺の視線があいつよりだいぶ低いから、下から見上げるように見てるから両方いっぺんに見えるんだ。何回も見てると尻尾より耳のが確実なのがわかったから目では追えるんだけど…体が急旋回についてけなかったから困ってたんだ。だからそれを踏まえて、二人で挟み込んだら何とかなるんじゃないか?』
「そうデスカ、耳デスカ…気をつけて見てみマス。それではボクが動きまわりますカラ、ブラウンさんはあいつを少しづつ攪乱してください。そんなの得意ですヨネ?うまく挟み込んで捕まえて見せマス。」
という事で、2対1で追っかけっこが始まったんだけど…
思った以上に身体能力が高い狼男に全く触れないまま3時間がたっていた。そろそろ眠たくなってきた。
耳の癖は見事に動きを予測させるのには十分だったのに、2人になってから急ブレーキを使うようになって、あいつに余計に遊ばれるようになった。
挟み込んでどっちかに旋回しないといけないように誘導したはずなのに、急に停まってジャンプで避けたら思いっきりやまぶきと正面衝突してからもうボロボロ。
目で、頭では分るんだけど、体が急には止まらない。
それを体で思い知ってからはどうも動きが悪くなった。
これなら単純に追っかけっこしてた方が良かった。
そして、俺が段々とバテ始めたころ…
「あ!そろそろ帰らんと、じいちゃんが…、わりぃ。俺、帰るわ!」
そう言って巾着から鉱石を取り出して大きく空の上に投げ上げた。
「それ、返すわ。盗ったけど俺が持っててもしゃーないし。また今度来るから、それまでにもうちょっと楽しめるようにしとけよ。」
それを見てやまぶきがあわてて鉱石を受け止めに行く間に、狼男はこの場から去って行った。
なんだよ!じーちゃんがって。小学生が帰らないと親に怒られるみたいな帰り方しやがって。
ん?じいちゃんって…誰だ?
次回更新は 3月18日1時の予定です
よろしくお願いします。




