09-6 準備運動
急に鬼ごっこをすることになったのはいいけど、全く触れもしない。
俺が体が小さいからもあるんだけど、あの狼男がジャンプしただけで俺の身長の高さは軽く飛ぶし、俺よりも速く走るし、軽いステップで俺の渾身のフェイントを避ける。全く話にならないってのはどうしたもんか。
さあ、これは本格的に闇の力が発動してくれないとどうにもならなさそうな感じなんだけど、どうもそんな雰囲気じゃないような気がしてる。
どっちかというとあいつは俺と遊んでいるような感じで全く緊張感がない。まるでウォーミングアップするかのようみたいに、わざと俺を動かして自分の体がどこまで動けるかを確認しているように片足になってみたり、目をつむってみたり。
たまに耳や鼻をぴくっと動かしたりなんかして自分の感覚をフルに使って…そうなると少しぎこちない動きになるから、なんかリハビリでもしてるのかもしれない。
やまぶきのときももこんな感じでやられたのかなぁ。
さっきから…もともとだけどあいつに遊ばれている。
あいつが逃げて俺との距離が広がると待っているし、これだけ気がたくさん生えている場所なのに森の中には隠れずに広い場所の、俺が思いっきり駆けまわれる足場のいいところを選んで逃げまわって…誘導してくる。
なんか段々鉱石うんぬんなんてどうでもよくなってきた。特にここで何か問題を起こそうとかそんな感じじゃないし…それに、最近俺も徹が公園に来なくなってから身体を思いっきり動かしてなかったからちょうどいい機会じゃないか?
久しぶりに思いっきり動いて息切れしそうだけど、単純に全力で追いかけっこなんか大地と一緒にいるときは出来ないから、それはそれで楽しいし。
気分は乗ってきたけど、やっぱり身体能力の差が大きくて目ではなんとか追えるようになってきたけど体がついてこない。
三年前ならタッチぐらいはできたのかなぁ…なんて思っていると体がうずうずしてきた。
体をもっと動かしたい。そろそろ1時間ほど動き回っているけど思ったより動けているのと、しんどさが吹き飛んだみたい。
これだけ動いても大丈夫なら、俺自身どんだけ動き回れるか試したくなった。
少し眠たいけど、だいぶ体が温まったし、それに、なんとなく、なんとなくなんだけど、動きのパターンがわかってきたような…
動きも…耳や鼻がさえてきたのもあるけど段々慣れてきたのか眼だけで頼らなくてもわかるようになってきたし、明かりを消してもどのへんにいるかがわかる。
単純な追っかけっこに夢中になっている間にいつの間にかやまぶきの気配を感じれるようになったみたいだ。どうもこっちにやってくるようだ。
いつもならとっくにこっちにやってくるはずなんだけど…
「ん?こないだの奴がこっちに近づいてくるみたいやな。」
狼男もやまぶきの気配に気づいたようだ。もっと前から気づいていたのかもしれないけど。
『なあ、お前を捕まえるのに俺が本当に何してもいいのか?』
「ああ、ええよ。別にそこにいる奴と協力しても。別に俺は楽しめたらそれでええし。」
尻尾を大きく振りながら俺に合わせて足を止めて返事をしやがった。
余裕だな…はぁ。
まあ、捕まえられるかどうかわからないけれどやってみるか。




