03-1 山の主 クロ
12/12 内容修正と短かったので前後の話をまとめてみました。
俺が多賀家にきてそろそろ1年半。
一応登録上は2歳になった。
去年の今頃、ママとの散歩のほかに約束さえ守ればある程度自由に外に出かけれられるようになった。
まずは帰ってくる時間を守ることで、だいたい夜の5~6時ごろ。日が沈むころに設定している。
次に自由に出られる範囲は家から山側だけ。町のほうへ行くのは商店街にお使いか、竜王せんせいのとこにママがどうしてもついていけないときだけ。
一応交通ルールとか信号の意味とか看板に書いてあるものを読むためにひらがなとかローマ字を覚えさせられたりお金の計算するのに算数とかを必死で覚えた。漢字は難しくてあまり覚えられなかったけど。
町に出かける時は噛まないことをアピールするために口にマスクして出かけている。
そして当然日本語を喋っちゃだめ。
最後に大きな喧嘩や騒動をおこさないことこと。
だいぶ体つきが大きくなったついでに結構力も強くなったので山に行くと他の野良たちとの小競り合いみたいなのに巻き込まれる。飼い犬が山に登って来るのが気に入らないらしい。
俺はその辺の野良になんか負けたことはない。野良たちもそのことは知ってるから、本気で威嚇するか少し暴れてやると相手が逃げていくんだけど、去年一回だけ相手をぼこぼこにしてママに本気で怒られた時があった。
しばらく外出禁止になった後この項目が追加されて、必死に反省して無事に外出できるようになった。
それで今日も山(ママが言うにはなだらかな丘になるそうだ)の奥、森のように木が茂った所に少しだけ太陽の当たる日向ぼっこにはちょうどいい場所がある。そこが俺のお気に入りの場所で、昼間はそこで寝ていたりほかの小動物と遊んだりしている。
俺は飼い犬だから首輪をしている。そんな奴が山にいるのが珍しいからなのか、ちょくちょくと野生の動物が俺の前にやってきては威嚇しあったり、じゃれついてきたりするので付近にいる動物はほぼ知っている仲(仲がいいというわけじゃない)になった。
ちなみに他の動物と話せるわけもないので気に入られるかどうかなんて雰囲気とか鳴き声で判断するしかないので難しい。
今日も前足と後ろ足を伸ばして腹を地面にぺたっとつけて芝の上でぼーっと過ごそうとしたとき、いつもとは違う足音が俺のほうに近づいてくる。
大型犬っぽい足音は、今までの経験上俺に喧嘩を売りに来る血の気の多そうな雰囲気だったので、めんどくさいと思いながら体をおこして、近づいてくる動物に対して威嚇できるように尻尾を上に大きく上げてやった。
俺より一回り大きな体の黒い犬はやっぱりこっちへ向かってきて、俺のテリトリーの少し前で止まった。
『なんだよ!お前は』
威嚇前に攻撃の意思があるかどうか日本語で問いかける。犬に言葉がわかるわけないけどそれを聞いた動物たちが攻撃する意思があるなら俺の喋り声で威嚇を始めるから。
でもこの犬はそんなつもりがないのか特に何もてこようとしない。
何もしないならうっとおしいから俺からほかの場所に移動しようとしたとき黒い犬が話しかけてきた。
『人間の言葉が話せるのか?話が早い。この山から出て、くれないか?』
ん?この犬今日本語喋った!?
目の前の黒い犬がちょっとおかしい日本語で俺に向かって言い放った。
出て行けって言われても俺はここが気に入ってるし、別に迷惑かけてるわけじゃないし。
それより動物は喋れないのはずなんだけどなんで目の前の黒い犬は喋ってんだ?
そりゃ喋れたら無駄に威圧しあわなくても思ったことを伝えられるからいいけど…
『お前、山のバランス、崩している。』
『は?何のバランスだよ。俺はなんかしたのか?』
『お前、飼い犬、なのに住んでいるものを威嚇し、排除している。』
『そんなの向こうから威嚇してるんじゃないか!飼い犬に負けたからって文句を言うのか?』
向こうから威嚇して来るから仕方なくしただけなのに、なんでそんないちゃもんみたいなこと言われなきゃならいんだ?
なんだよこいつ、偉そうに喋りやがって。
『お前、存在が皆を苛立たせる。去年俺の仲間、半殺しにした、よく思っていない奴、多い。』
ああ、そういうことか。仲間だったんだったら怒るかな…。
腹は立つけど変にいざこざ起こさないほうがいいよね。
この黒い犬も争いたくはないようだし…
せっかくいい場所だったのになぁ。
『わかったよ、どっかに行くよ。おれも揉め事を起こしたくないからな。』
『そうか…、そうしてくれる、助かる。飼い犬、傷つけると人間がうるさい。』
黒い犬が申し訳なさそうに俺を見ている。喋り方と仕草が人間とちょっと違うから変に違和感を感じる。
そして後ろを向いてその場所から立ち去ろうと住宅街に抜ける林のほうへ歩き出した時、林の陰から俺より脂の乗った体つきの野良犬が5・6匹、俺のほうに近づいてくる。
こっちのほうは今にも暴れだしそうな雰囲気で唸ってる。雰囲気が違う、まずいかもこれ。
”親分、こいつ、逃がす、何故?”
”飼い犬、手を出すのはいかん。人間、報復しにくる。”
やっぱり黒い犬がリーダーか。
さすがに子分は日本語喋れんわな。犬の言葉なんて片言みたいなもんだから意思の疎通が難しいよな。
で、子分たちが反発してるとこみると俺はかなり悪く思われてるみたいだな。
”仲間、こいつ、殺した、こいつ、許せん”
”それにこいつ、強い、お前たちに勝てん。”
俺をはさんでリーダーと子分たちが言い合ってる。
この隙に逃げてやろうと思ったけれどどんどん野良が増えてきていつの間にか囲まれてしまったので下手に動けなくなった。
”こっち、12人、数で、勝てる”
”馬鹿!お前等は。死にたいのか。”
いや、俺は12匹も相手にできるほど強くないから…ってそういくことじゃなくて、俺が傷ついたりしたら野犬狩りなんて行われるからってことか。
そう思ったら人間って怖いな。この世界で最強だからな。
”我慢、できない、行く、殺る”
前の一匹が我慢できなくなって俺に向かって一直線に向かってきた。それに遅れて一匹、また一匹走り始める。
ちょっと待ってよ、全部が俺に向かってきたらぼこぼこじゃ済まない、殺される!
急いで振り返って、野良の数が少ない黒い犬がいるほうに走った。
ちょっと親分さん?俺は言われたとおりに去ろうとしたのにどういうこと?
”お前等、やめろ!”
黒い犬が叫んだけどほかの野良は言うことを聞かなかった。
そりゃそうでしょう。これだけ暴れだしたらいくらリーダーでも止められんでしょうに。
聞かない命令を叫ぶ黒い犬とすれ違って、目の前には右に2匹と左に1匹。先に左のが来るから右に誘導してやって…野良たちは連携がとれていなそうなので接触してくれるのを期待したんだけどぶつかりそうになった右の犬はジャンプして左の犬を避けてすぐに反転して俺の後ろに回って逃げ場が無くなった。
そして前の犬をかわしたところに後ろの右の犬が時間差で突っ込んできた。
相手の体が少し小さいので勢いに任せて体当たりをしてやると思ったとおり吹き飛んで地面に倒れこんだ。その代り俺の体も悲鳴を上げる。
これぐらいなら4匹ぐらいは相手できそうだけどその4倍もいる。
本気で逃げ道を作らないとやばい。
そう思っていたら後ろから2匹、最初に走り出した気の荒い奴がきやがった。後ろのもう一匹は少し前で俺に噛みついてきた。なんとか避けたらもう次が来る。
こっちも何とか避けたら、いつの間にか6匹に囲まれた。
まずい…逃げ場がない。
『すまん、余計なことに巻き込んでしまって。』
!?
いつの間にか俺の後ろに黒い犬がいる。でも喋り方がなんか違った気がするんだけど。
『この山の主として全ての責任を負う。力を貸してくれ』
その言葉と共につむじ風が周りを襲うと周りの犬たちは強い風に押されて動けない、むしろ飛ばされているのもいるようだ。でも俺も動けないし目の前が見えない。
それがしばらく続いて風が収まったとき、前足の両脇を誰かにがっちり捕まえられて抱きかかえられた。
誰か来たのか?とか思って目線を上げると、さっきの黒い犬が俺を抱きかかえている?
え?顔は犬なのに体は犬の毛が生えた人間の子供みたいなのになって2本の足で立っている。
『なんだ?お前だれだよ。』
『俺はさっきの黒い犬、ここの山の主のクロと言う。』