09-5 鬼ごっこ
誰だよ!尻尾を持ち上げるなんて…って、思って体をジタバタさせてもがきながら抵抗してみた。
結構地面すれすれで逆さ吊りになっているから鼻の頭がす暴れると擦れる。
そんな暴れる俺をもう片方の手で顎の下に手を入れて上半身を上に持ち上げられた。
ちらっと見えた青っぽい灰色の毛並み、2本足で立っている動物…一瞬熊かと思ったけれど、こんなとこに熊はいないし…よく考えたら尻尾なんて持てるわけない。
「お前も、犬のくせに喋れるんか?」
え?喋った?ところで「も」ってどういうことだ?
抱きかかえられた手の感触が、人間の感じににている…ということは、こいつがやまぶきが行ってた奴なのか?
とりあえず敵?なんだよな…俺を拘束したのに何にもしてこないけど。
でもこの状況は良くないので、腕に噛みついて逃げてやろうとしたら、簡単に口を押さえられて…動けない。
『放せよ!俺に何しようってんだ?』
「ん?別に。それよりお前もこの前の奴と同じに獣人になれるんか?」
『こないだの奴?』
「そうそう、黄土色っぽい犬でなんか語尾をはっきり言う変な奴。」
ああ、やまぶきのことか。
確か一晩中追いかけて散々だったって話だったよな…
『お前か?やまぶきが言ってた狼の獣人ってのは?また鉱石を奪いに来たんカ?』
「鉱石?奪う?うーん…別にあんなもんいらんのやけど。」
癖なのか喋りながら俺の顔を上に向けて、何故か片手で頭を撫でてくる。
相変わらず身体は拘束されているけど、特に俺に攻撃してこようという感じじゃない。
逆に片手が離れたことで首回りがある程度自由に動くようになったので、顔を見るために首をあげたら…
一応耳は頭の上にぴょこっと立っていて、鼻も黒くて顔も毛におおわれているんだけど、犬のように口と鼻がそんなに前に出てなくって、瞳も人間のような黒い瞳に白眼がはっきり分かる、人間の子供のような体つきと面影をはっきり残した中途半端な奴。
何で狼なんだと言われたら…雰囲気かなぁ。鼻筋がまっすぐしてるし…
「なぁなぁ、お前も獣人になれんのか?」
『なれるわけないだろ!普通。』
「何でや?喋ってるやん。それにお前の中になんか変な力を感じるんやけど?」
『いや…そういう問題じゃないんだけど。一応俺は普通の犬だって。』
「そうか?中の力を解放したらなれんじゃないのか?」
なんだ?何だこいつは?
俺の眠ってる闇の力が見えるのか?
力を引き出そうとしてるのか?
でもその割に緊張感もないし、なんか普通にもふもふ気持ちいいみたいな撫で方してくるんだけど…こいつの方が被毛柔らかそうなのに。
『そんなもん解放しても俺は犬のまんまだよ!それより放してくれ。』
「ん?お前の毛の肌ざわり気持ちええんやけどなぁ…しゃーない、逃げないなら放してやるけど?」
そう言うと俺が返事をする前に、地面に俺を置いて拘束をやめてくれた。
なんなんだ?
『あ、あの…俺、返事してないんだけど…』
「ん?ああ、撫でてるといに気持ち良さそうにしてたから逃げそうもないないなぁと思った。」
なんだよ、それ。
確かに背中から頭にかけての被毛の流れと逆に撫でてくれるのが気持ちいからそういうふうに見えたのかもしれんけど…
「なぁなぁ。俺と鬼ごっこしないか?」
なんだ?急に話が飛んだぞ。
なんでそういう流れになるんだ?
「お前が勝ったら前取った鉱石を帰したる。」
『何だそれ!なんで取った本人からそんな話になるんだよ!』
「そうしんと鬼ごっこしようとも思わんやろ?」
『それはそうだけど、それもそんなに簡単に…じゃあこの間は何で鉱石を盗んでいったんだよ。』
「うーん、あの犬が大事そうにしてたからかなぁ…そうだ!お前もあれ、大事なんか?」
『え?そりゃ…大事といえばそうだけど…』
「じゃあ、決まり!」
『ほへ?!』
「日が昇るまでに捕まえられたら返してやるよ!」
そう言って俺から少し離れて手を振っている。
「何してもいいから捕まえたら…タッチできたらお前の勝ちやで。」
『なんだよそれ?』
なんか馬鹿にされたようで腹がたつけれど…触ったら返してもらえるなら追っかけてやってもいいかな?




