09-1 ドキドキの10年目
俺はついに登録上はもうすぐ大台の10歳になってしまう…でも高齢になった割に体は全然衰えてないのが不思議なんだ。
毛艶もよくて、せんせいには普通に20位までは生きられるんじゃないの?とか言われている。
確かに俺より年上のクロも、俺の知ってる頃から全然変わっていないし、獣人と関係してる俺達はほかの犬と違うのかもしれない。
そして大地たちは春に小学校に入学した。
一回学校に行ったことがあるけど、そのときに担任の先生をちらっと見たんだけど、なんか嗅いだ事のある匂いがかすかに残ってる…気になるからそれとなくママに聞いたら、俊夫くんの幼馴染なそうな。
ずっと昔、初めて俊夫くんと会った自治会の飲み会にも一緒にいたそうで昔、結構近所に住んでたらしい。
大地がマイコ先生って言うから気付かなかったけど近江舞って言う名前でやっと気がついた。
あとでなんで舞なのにマイコ先生なんだって聞いてみたら、湖の対岸にそう言う駅があるらしい。なんか名前の付け方の基準がよくわからん。
そんなことより…俊夫くんの匂いが先生からしたってことは、年齢から言って幼馴染ってことより絶対彼女なんだ。
気になる…。
そんなことはおいといて、今はもうすぐ梅雨になるぐらいの季節。
主浩さんが行方不明になって1年。
手がかりはまったくつかめないままだった。獣人のクロがこっちに来た時に捜索して欲しいと頼んだけど、手がかりすらつかないようだ。
発信器も反応しないようだし…
クロの受信機を持たせられたらいいんだけど、ここには魂だけでやって来て、クロに取り憑いている状態なので物は持って帰れない。
こんな状態なので、事情を知ってる徹には行方不明になっているということは言っていない。
遥、奏太には主浩さんはそのままブラジルに戻って帰ってこれないということになっている。
徹は2年生になった時、剣道道場をしているお爺さんにの所へ預けられることになった。
お爺さんの虎姫さんの希望だそうだ。
徹がお腹の中にいた頃に行方不明になった徹の本当のお父さんが帰ってこないために跡取りが欲しいという意向でそうなったらしい。
何でこの時期に?と思ったんだけど詳しいことは部外者の俺には分からなかったし、聞けなかった。
と言うこともあって朝晩稽古をすることになって、公園にあまり来れなくなった。
そのついでと言うことで大地もつられて行くようになったんだが、本格的にやるわけじゃないから週に2度通っている。
道着だけ持っていけば防具は貸してくれるので行きやすかったのもあるんだろうけど…
ママ達の大地の育て方は、遊びは半放置主義…今はやりたいことを少しづつやらせてみて高学年になったらある程度絞って、みたいに思っている。
ほぼ出かけるときは俺と一緒なので、俺の意見も聞きながら、たまに話し合ったりしてる。
とりあえず今のところ、興味がありそうなスポーツをテレビで観戦させて、真似してみようってとこから始めてみようということになった。
ただ、今のうちから無理に体力をつけさせるようなことはさせたくないらしい。
まあ、毎日いろんなとこを俺と駆けまわってるからいずれ体力はついてくるだろうけど。
そんなこんなで俺の周りは最近平和だなぁ…なんて思って過ごしていたら忘れた頃にトラブルに巻き込まれるなんて…
今日はパパに引き連れられて、隣の家に来てる。近所のパパさん達が三か月に一度、集まる飲み会に参加している。
いつも10から15人ぐらいいて、誰かが必ず子供を連れてくるから、その相手をするため…という建前で俺もそこに参加している。
今日も近所の子が二人参加しているからその相手をしてる。
もう九年程…初めて俊夫くん達と出会った会からずっと参加してる。
うまく子供達の相手をしているから親たちも安心して任せてくれる。
初めは大人しくて人懐っこい演技をしてたつもりだったんだけど、大地が生まれてから妙に子供の扱いがうまくなったらしく、犬なのに信頼されている。
引っ越してきて初めて参加する人にびっくりされることもある。
でも俺にも目的があって、別に単純に子供の相手をしに来ているわけじゃない。
それは…
「おい、ぶー太郎!お前も飲め!」
この声で俺の尻尾がぴくっと跳ねる。
隣のおっちゃんが子供の相手をしにくるついでに俺に焼酎を持ってきてくれた。
この焼酎、今この辺ではどこにもなくってお取り寄せしても在庫がないから抽選で当たらないと買えないものらしい。
それをおっちゃんはコネかなんかで取り寄せてこの飲み会で必ず持ってきてくれる。
俺がこの焼酎が好きなのを知っていて…
そこの深いお皿に1/3程注いだストレートの焼酎。
それを飲むとき、おっちゃんは子供の相手をしてくれる。
もともと子供好きのおっちゃんは、俺が飲めると知る前からよく子供達のとこに来ては相手してくれていた。
で、俺が飲めるとわかってからはこんな感じでいろいろな種類のお酒を持ってきて俺にかまってくれる。
いろんなものを持ってきてくれて、俺が一番口にあうお酒がこの焼酎だった。
それからそんな手に入らないお酒なのに毎回用意してくれる。
尻尾振ってよろこぶのを見て楽しんでいる。
俺もおっちゃんにとっては子供のカウントに入るんだろう、きっと。
『ありがとう、おっちゃん。』
「あんまり早く飲むなよ。酔いが回りすぎて喋っちまったら大変だからな。」
小声でおっちゃんにお礼をする。
おっちゃんも俺が喋ると知ってる少ない人間のひとりだ
俺が酔っぱらってふらふらになった時にパパと間違えて喋ってしまってから、お酒つながりで仲良くなった。
パパがあんまり飲めないので似たような味の日本酒しか用意してないなので、ここに来たらいろんなのが飲めて密かに楽しみにしている。
で、終わり際になって…飲みすぎたぁ…
今日は動けなぃのら
おっちゃんがいつもより濃いの作ってくれるっからぁ…
俺が動けなくなったらぁ…パパにつえてかえってもらおぅ…
---ブラウンさん!ブラウンさん!---
ん?なんかやまぶきか、俺になにかをゆってるみたいだけろ…
今日はもうらめ…
明日にしれよ…
朝…起きたらいつもの毛布の中で目が覚めた。
すこーしだけ頭が痛いような気もするし、体がなんかだるい。
久しぶりに二日酔い…かな?
あんまり記憶なかったけれどちゃんと喋らずにいられたのかが少々不安だったけどいつもどおり家に帰ってここで寝てるってことは大丈夫だったみたいだね…たぶん。
ちょっとパパには迷惑かけたようだけど、パパが来いって言ったんだからね…と心の中で言い訳をしてみる。
そう言えば、記憶がなくなる前にやまぶきの声が聞えたんだけどなんかあったのかな。
まあ…いいか。それよりもうすぐ散歩の時間だから大地を起こして準備しないと。
「うぁ!ブラウンの毛すごいことになってるよ。」
え!?あ、ああ…
尻尾から背中にかけてくせっ毛のように流れが変わってる。
尻尾もなんか毛をむしられたような跡があるし、ああ…
俺が酔って動けなくなった間にぬいぐるみみたいに俺を扱ったな!
「そんなの寝てるのが悪いんだから。」
くそ!油断してた!相手にしてたのは大地より年下の子だった…
これからは…注意しようか、うん。
そんな事で大地に背中の乱れた被毛をブラシングしてもらってある程度なおして、散歩に出かけた。
外に出ると、俺とすれ違う同種の犬たちはみんな眠たそうに散歩している。
足取りが重かったり、ふらふらしてたり、たまに眠って動かなくなってて飼い主が一生懸命引っ張ってたのもいた。
おれとよく吠える犬もなんだか眠そうだ。
”なんでみんな眠そうなんだ?”
”なんで?、昨日、すごい、遠吠え、聞いた。そのせい、まわりの、犬、興奮、した。遠吠え、遅くまで、聞こえた、だから、寝れない。みんな、そう、ブラウン、知らない?”
”え?俺?酔っぱらって寝てた”
”ブラウン、他の、犬、違う、不思議”
なんか褒められてるのか馬鹿にされてるのかよくわからなかったけど、遠吠えって…なんかこれがやまぶきが呼んだ原因なのかな?
「ねぇかなちゃん?眠そうだね。」
「昨日この子が遠吠えするからうるさくてね、怒ってもやめないし、他の犬も一時間ぐらいやめなかったとこもあるし。それよりあんなに賑やかだったのによく大地くん寝られたね。そうかブラウンくんは大人しいからね、大丈夫だったんだ。」
「いや…ね、昨日近所の会合でお酒飲みすぎて酔っぱらっちゃってさ、ぐっすり寝てたみたいなんだ。」
「お酒…ねぇ、普通犬はのめないんだけどねぇ。ほんと変わってるよね。
」
「ハハハハハ…」
うーん、まあ変わってるって言われたらそうだけど両方に言われるとなんか凹むや…
”それより、その遠吠えってどこから聞えたの?”
”ええっと、山、聞こえた。犬、ちょっと、違う?遠吠え。たぶん、かなちゃん、聞き取れない、声、なんか、うずうず、した。みんな、吠える、我慢、出来ない、吠えた。駄目なの、解ってる、のに。
なんだ?それって結構大変なことじゃないのか。
まずい、これはやまぶきに久々に怒られる…かな?




