08-8 返却
ボクに…兎達を操れと…言うのデスカ?
---ソウダ---
…誰の声デスカ?
そうですか、これが俺の中の闇の声なんデスネ。
ボクに闇の力を貸してくれるとでもいうのデスカ?
---ヨクワカッテイル---
そうですか…では、少しだけ使わせてもらいマス。無理に使うとボクには使いこなせそうになさそうデスカラ…
あの兎…闇の中にボクの幻術が吸収されてイマス。どうもまだあの中で消滅せずに残っている様なんですケド…
うまくつながって、兎の心が読めるということは…こっちの心も伝えるように出来るということですヨネ…
あれを介してボクの闇に変換した力を思考の中に混ぜて送り込んだらどうなるのデスカネ…
---オマエノチカラシダイデナントデモナル---
力を大きく使えば消すことも可能なような気もシマスガ…
今のボクの意識では扱う力が大きすぎて俺の中に吸収されてしまう恐れが大きいデスネ…
どこまでがボクに扱えるのデショウか…
目的は…ボクの身体を返してもらうこと…
無理せずに力を使おうと思えば…邪魔な闇の兎に退場してもらえばよさそうな、それぐらいなら闇の影響も少なくてすみそうデスネ。
((駄目!全然だめだ。さっきの吸収したものが邪魔して…私の力が安定しない…段々ぶれていく…))
どうやら思った効果とは違ったふうに幻術が効き始めたようデス。
それでは…もう少しぶらして感覚をおかしくして見ましょうか…
俺の中の闇を調整しながら兎に送り込んで…
---モットツカエ、オマエハ使イ方ヲ知ッテイル---
うっ!勝手にボクの力に余計な闇を入れてキマス。
そんなにボクを支配したいのデスカ?
---命令ダ、ヤマブキ!---
命令…
どうして…この体は…この力は…あの時のブラウンさんの…
この大量の闇の力ハ…何なんデスカ
---俺ノ闇ヲ吸収シロ---
闇の声…ブラウン様の命令…
どんどんと闇の力が強制的に入ってキマス。ボクの力では制御できない程の黒いものが身体を、精神を包んでイキマス…
---ソシテ俺ノ力ヲ、引キ出シ、やまぶきノ、モノ二、シロ---
無理デスって、そんなに取り込んでも…
ボクには無駄な力…デス。
そんなに力がなくテモ…
………
あの闇ならボクでも…
それよりボクの身体に入ったギギの方が…使えソウ…
そう…あれをモノにできたら…ボクの知識が広がる…
一瞬そう考えると、あふれ出そうになった闇と、ボクの尻尾で暴れそうな闇がボクの身体の中で大人しく収縮…圧縮していく。
---ソウか、知識ガ欲シイカ---
知識…そう、向こうの世界の知識…闇の知識が欲しい…
あの兎の持つ知識…ソレガ欲しい…
((な、何だ…この力は…私の闇と違う力が入ってくル…))
アナタにはボクの力を闇の力に変換させてもらいマシタ。
これでボクの闇はアナタの中に入り放題にナリマシタ。
…意外と簡単なのデスネ。だいぶ弱っているというか…
力が大きく感じたノハ電球が寿命を迎える前に急に明かるくなるのと同じ理屈デスネ。
「兎さん…あなたの気持ちはぶれていきます…」
((なんだ!この声!誰?))
「ボクはアナタの前にいるやまぶきといいマス。」
((さっきの犬か!、私に何をした))
「ボクは何もしていません。あなたが勝手にボクの幻術の塊を吸い込んだだけデス。それにボクの闇を注入しているだけです。」
((注入…?))
「アナタの闇はもう風前の灯、ボクがあと一息吹けば消えていく存在なのです」
((うっ、それは…))
「ダカラ…あなたが消える前にアナタの…闇の知識を吸い取るためにアナタにボクのものを流し込みました。ダカラアナタはボクの支配下にアリマス。」
((私があんたの支配下に?そんなことは絶対に…))
ボクが放った視界がぶれるようになる幻術と無理やり取り込まれた闇とが融合して、俺の得意な心身操作の力に変わってイマス。
兎の中のボクの闇は、彼の小さくなっていく闇を捕まえて…
「こっちに来い!!」
そう命令しシマシタ。
---私に何かが入ってくる!---
---主!どうしました!---
さっきまで見えなかった兎が、急に手の中からギギの手を振りほどいくようにしてボクの前に寄ってくる。
---な…なんでだ!勝手に私の体が…--
「ダカラ言いましたヨネ?ボクの支配下にアルト。アナタの身体はボクの術を吸収してしまいマシタ。」
---吸収?あんな小さな力ごときで私が…---
「そうです、その些細な力が接着剤にナッテ、俺の闇をアナタに送り込んだのデス。今はまだ自我を保っているようデスガ、体はアナタのよりも強い闇を取りこんでボクのある程度思いどおり動くモノになっているヨウデス。」
---それで…それで私を…私をどうしようと…---
ゆっくりとボクの闇が兎の…闇の記憶を触るように撫でると、闇の者の暗黙のルールみたいなものが浮かび上がってくる。
まるで遊びのような感覚で闇が生き残っていく方法が頭の中にいろいろと植えつけられる。
ボクが欲しかったのは知識だけで、それをボク自身が闇になってここでやるつもりはないのデスガ…
他のボクが欲しい知識は…どこにもなさそうデスネ…いらないものはギギにでも移してあるのでショウカ…
「闇の…暗黙のルール…に…のっとって、あなたの心を吸収する…」
---やっぱりか…---
どうやら覚悟を決めてはいるようデスネ。
でも…なにか変なんデス。取り込んだ闇の知識は、ボクの心に入っていくとナゼかボクの心の一つをくすぐるように引き上げていきマス。
これで…実験がしてみたい…
闇の知識と力を使ってこの兎を違うものに変えてみたい…
俺様がやっていたヨウニ…偶然じゃなく、意識的に…
ボクの闇で押さえてやったら簡単に潰れる兎の闇を…
((私は…消えて…なくなる…))
ぐるりと取り巻いたボクの闇を溶かすように兎の中心に溶け込まセマス。
そして消えないようにかき混ぜて…
限界だった身体はゆっくりと中の闇に吸収されて消えて行きマス…
((ワタシ…ワ…タシ…ハ…キエ…))
そして…そのまま球状になったものを下に落として…
「狼の後を追って下さい…あの人を…守ってあげてクダサイ…」
((…ワカ…))
落ちていきながら少しだけ声が聞えマシタ。
実験…は成功するのでショウカ…
失敗すれば兎の闇は俺の闇の中に消えていくだけデスし被害は無いでショウ、きっと。
それより…そろそろ借り物の体では辛くなってきマシタね…
そう思って今の作業をずっと固まって見ているギギは、ボクと目があってびくっとおびえるように体をこうちょくさせてイマシタ。
『そろそろボクの体を帰して頂けまセンカ?ボクの中に俺の闇が目覚めてしまいマシテ…』
---何を言う!これは我が身体。貴様の物ではない---
『仕方がないデスネ…そうまで言うんでしたら…その体は貴方にいていただいてもいいかもしれまセンネ。』
---何を偉そうに、我を怒らすとどうなるか…---
左手に気を集める。
先ほどから何度も打ち込んでいた炎の球を打とうとしているのデショウ。
ボクの身体の4本の指を拡げて炎の出現を待っている様デスネ。
デモ、少しまっても炎は現れマセン。
---何!制限がかかっているダト!---
そろそろ限界デスカ…結構この闇も…主人と同じで力をだいぶ失っているんデスネ。
かなり力を消耗する逆行の鈴を使う位デスカラ、生きるか死ぬか位の行動だったのデスネ…
---何故、我の技に規制がかかる!我が身体が、何故自在に動かん!---
悲しいデスネ…ボクの罠にかかるまでもっと粘らナイト駄目だと思っていましたケド、案外早く決着がつきそうデスネ。
『貴方はボクの体を奪ってカラ、ずっと罠にかかっていたのを知らなかったようデスネ。』
---なんだと!---
『ボクの首輪についた鈴、それは、制限の鈴と言いマシテ、力を制限させる魔具ナンデス。』
---魔具?そんな力は感じなかったはずだ。なぜそんなことを---
『ボクはいつも闇の力を持つ方とご一緒させてもらってイマス。そのお方は、時よりすごい力を発揮され、貴方よりも強い力で心を乗っ取ることができてしまいマス。その時に、ボクが取り込まれてしまいマスト、被害が大きくなる恐れが大きいノデス。だから、ボクはわざと力を制限して、乗っ取られないように予防しているノデス。それがその鈴…』
それを聞いて今頃首から外そうとしているようデスガ、もう遅いデス。
あなたの力はもう枯れてイマス。
ボクの中に入ったあなたはもう抵抗する力さえも残っていないデショウ。
あとは、あなたをボクの力へと変換する闇の力を俺から借り受けて、ボクの知らないこの空間の知識を頂くだけデス。
『あなたはボクの身体に閉じ込められマシタ。これで、あなたはボクの分身…アナタはボク…』
俺の闇をボクの心を介して、出来るだけ暴れないようにギギの闇のコアに届くように声に乗せる。
ボクが俺の体を借りていなければ、ボクの心にまで影響しかねない力が本体のギギのコアに届く。
---やめろ…我がなくなれば我主が…主が…---
ボクの心を傷つけないように、丁寧にゆっくりとコアをボクのものへと変えていく。
こんな時も、消えてなくなった主の心配をしてイマス…悲しいデスネ・・・
『…仕方ないデスネ。これからボクになるのですカラ、その気持ちだけは残してあげまショウカね…』
---やめ…我、主…は…我が…探す…---
『ボクの主は、俺です。あなたはボクです。』
---主…我が…主…----
『アナタは主に捨てられたのデス、それにあなたはもう
ギギではありません。ボクなのです。ボクの主はブラウン様のみです…が、我が主ハボクを見捨てたりしまセン。だから貴方は安心して、ボクになりナサイ。』
最後の仕上げにボクが取り扱える限界だと思われる闇を放つと、本体の身体にまとわりついた黒いものがすっと名前通りの山吹色へと戻っていきマス。
---我…ボク…の…---
『ボクはやまぶきデス、アナタは?』
「ボクは…やまぶき…やまぶきデス…」
ようやく完了したようデスネ。
身体が戻ったのを確認できたので、俺から借りた闇の力をゆっくりと閉じてボクがこの体にいられる時間ももう終わりを告げようとしてイマス。
この力は…今後俺が闇に変わったときの作戦の立て方として役に立つでショウ。
心をくすぐる力…敵が使うと厄介そうデスネ。
そんな中、ボクが…ボクの身体が…ボクの意識と新しくつながった意識が遠隔操作するように関係ないところでうごいてイマス。
これはこれで便利デスガ…そうしてしまうと俺の体を返せなくなってしまいマス…
「さあ、ブラウン様に入ったボクの魂。ボクの中に帰って来てくだサイ。お疲れ様デシタ。」
ボクの身体が帰って来いとボクを呼んでいマス。
大人しく帰りましょうカ…俺の体から…
俺の中からボクが…やまぶきが抜けていく。
なんだろう…俺は、やまぶきにはかなわないのか。
俺の知らないところで、いつの間にか…闇に対抗できる知恵を手に入れたのか…
やまぶきが元に戻ったのを確認すると俺は安心したのか体が重くなって、冷たい空間の中で意識が遠くなっていった。
「申し訳ないデス…」
闇のトンネルから戻ってきて、目が覚めた瞬間、やまぶきが俺に誤ってきた。
泣きそうになって俺の目の前で、顔を地面にこすりつけながら、涙を流している。
勝手に俺の意識をやまぶきに変えたその罪は重いと言ってきかない。
確かに…俺はやまぶきに変えられたけれど…それで俺達が戻ってこれたんだからとやまぶきに言い聞かす。
正直あれには俺も驚いた…
俺が自在に闇の力を使えもしないのに、あいつはそれを簡単にやってのける力を俺に与えた。
それをちらっと思い出しながらやってみたけど闇の引き出しなんか見当たりもしないし…
やまぶきがようやく泣きやみ…獣人から犬に戻った後…
俺達は嫌な報告をしにせんせいの所に行かなければならならない…
丁度朝日が昇りはじめた頃、先生を起こして主浩さんと狼のことを話した。
せんせいの息子さんだもん、悲しむよなぁ…
せんせいと奥さんはその悲しみを押さえつつ、俺達の報告をただ聞いているだけだった。
いつもならこの後どうするべきかとかの意見交換をするはずなんだけど…そんな気力が残っているはずもなく、俺達もここでは何もできないので帰ることにした。
ただ、希望として通信機のスイッチは入れておいたと言っておいたし、もし誰かが向こうに行くことになったときの目印のペンダントは持っているから探しやすいとだけ伝えた。
そのあとの表情は怖くてその姿を見ることができないまませんせいのとこをあとにした。
俺達も狼を犠牲にしたんだ…何とか助ける方法を時間をかけてでも見つけ出してみせる。
そう誓ってやまぶきと別れて俺の家へと向かった。




