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08-6 同調と言う名の融合

 光が大きくなると狼は苦しみだし、被毛を逆立てさせ、背中を弓反らせ、尻尾をめいいっぱい上へと上げる。


 ”ボク…、主浩…、同調…、する…”


 狼の光は、俺を介して主浩くんの体に伝達する。

 それによって二人の意識がつながっていく。


 ”何これ!空間、多い、心、空っぽ?”


 驚いた瞬間、主浩くん側から狼に強い光が帰っていく。

 俺が中継地点になっているから、何が通過しているのかは嫌でもわかる。

 俺が吸い込んで変換したのはそれの一部分だったようで、実際はもっと大きな記憶が消されている。

 その大きな空っぽの心が、狼に入っていく。

 

 ”やめて!ボク、心、消さない、”


 思ってもみなかった空っぽの心が狼の同調を促進する。

 それにつられるように急激に記憶がなくなっていく狼は必死に抵抗しようとしている。


 ”やめる!ボク、消える、こわい、大きい、”


 無の記憶が狼を蝕みはじめ、呼吸が浅くなり、大きく体を揺らす。


 ”ボク、消える、約束、守れない…、イヤ!”


 身体を大きく揺らして、さらに抵抗しようとしているがそれがだんだん小さくなっていく。


 ”約束?、何の?ボクは…”


 抵抗をやめた狼の表情から苦しみが消え、きょとんとした表情で周りを見ている。


 ”ここ、どこ?”


 同調が完了したのかどうかわからないけど、さらに白く明るくなった狼は、記憶をなくしてしまったようだった。

 その中で主浩さんは俺をゆっくりと下に置いて、狼の所へゆっていく。

 狼のおでこを何かを確かめるようにしてゆっくりと撫でている。

 その主浩さんの匂いを嗅ぎながら狼は不思議そうにしていた。


 ”誰?ボク、同じ、心、持つの”

 「俺?俺は誰なんだろう?君は誰なんだい?」

 ”ボク?ボク…、誰?、君、同じ、心…”

 「そうかい、君も誰かわからないんだ?俺と一緒だな。」

 ”うん、一緒。ボク、君、一緒”


 記憶が薄れた二人の心が同化した。

 それをきっかけに狼が光に変わって解けるように主浩さんの体に巻きつこうとした。


 ---主の体に何をする!---


 いつのまにか目が覚めた黒いやまぶきが上から俺達を見ている。


 ---主の体、盗まれるわけにはいかぬ。仕方がないがお前等をまとめてこの中に閉じ込め、主の前に差し出す!---


 そう言って指をパチンと鳴らすと俺達を包んでいた黒い球が急激に収縮してきた。

 ヤバい、これはみんな飲み込まれて…捕まっちゃう。


 そう思っていたら、その球は俺をすり抜け、同調が終わった狼と主浩さんを飲み込んで収縮していく。

 しばらくは狼の光が漏れていたけれど、段々消えていく。


 ---丁度いい、無駄な犬を我主に差し出さずに済んだ---


 黒いやまぶきは俺が包まれた球を持って、俺に向かって信じられないような嫌な顔をしていた。

 人の大きさまで収縮された球は、黒く染まったままで中は見えない。

 くそ!ここまでか…と思ったとき、黒い球に変化が起こった。

 丸かったものが急に人型に変わっていく。


 ---なんだこれは!主の闇の中では動けないはずだ!---


 黒いやまぶきが騒ぐのを見ながら

 もしかして、狼の光はあの中でまだ生きているのか?


  人型のその影は、ゆっくりと横に伸びて狼の影を作る。

 どうなっているんだ?

 それの姿からまるで餅のようにぎゅーっと伸びる。そしてゴムのようにぐっと戻って…

 それが何回も繰り返されると、今度はかき混ぜるように渦を巻きながら伸びて、それが粘土のようにくっついて、違う形の塊を作っていく。

 その影は二人を混ぜてまるで一つにするように…

 そこには俺が知ってる匂いと…俺が知らないけれど知っている匂いが同じぐらいの強さで感じられた。

 俺と同じ匂い…


 これが狼たちに混ざって一つになっていく…

 目の前の変化に俺は呆然とただ黙って見ている。

 見ているだけ…俺は何もできない。

 助けなきゃと思っているけど俺を包む球のせいでただ見てるだけ。

 そう…ただ見てるだけ…

 少しづつ匂いが変わる…

 それとともに俺の意識も変わる…

 この匂い…広がったらどうなるんだろう?

 その疑問は俺の中の奥底で、答えになって帰ってくる。


 俺の…もの…


 その答えが目の前で起きていることが俺にとって大事なことに変わっていく。

 まわりが少しづつ見えてくる。

 黒いやまぶきは、動きを抑えようとして精一杯。

 奴の力ではもう止められない。

 主と言う奴は…微妙な位置でこっちに向かって来る…

 でもまだ急ぐことはない…

 その前にこれは俺の物になる…

 

 俺はこれを知っている。

 こうなることを知っている。

 俺の闇がこう仕組んだんだ…

 誰かが邪魔するのはわかっていた…

 俺の力はまだ弱いからそいつの力を利用して…

 新しい力を創作する…

 だから、知ってる。

 この後のことを…

 俺は、この二人を基礎にして、俺の新しい従者を作ろうとしている。

 予定外なのは主の力で坊主(主浩)が若返った事…

 若い方が変化も早い…

 だから…俺の一言で…この塊は俺が望む姿に…

 俺がむこう(故郷)で安らげる場所を作らせるために…

 そのために狼に…命令をしている…


 ---死んでも同調しろ---


 あの時は無意識だったけれど、その言葉は狼の意識に植え付けられている。

 それがあの中で変換されて…

 一つの塊になって…

 俺の目の前に…

 俺の新しい従者が…


 『坊主の変化には狼狽したが…俺の従者、狼主(ろうず)と変わり、目の前に現れろ!』


 俺が名前を創ってやると、声とともに俺の目の前のものがぴたりと止まる。

 すでに形成は完了しているようで、黒い狼の影が俺の目の前に立っている。

 その影が俺に引き寄せられるように流れていくと、銀色に染まった被毛を全身にまとった狼の獣人がそこに立っている。



  流れ狼の狼の特徴の首回りの長いたてがみと身体の大きさにちょっと不釣り合いの小さな三角耳に、主浩さんの小さな体つきに真っ直ぐとしっかりした瞳とが混ざりあったような狼獣人が目の前に…

 首にせんせいが作った通信機入りのペンダントがかかっているから、主浩だということは分かるのだが…

 何故か袴と体相応の長さの刀を腰にしばりつけて上半身が裸で立っていた。

 この姿は主浩の剣道の影響なんだろう。

 そして俺に向かって持っている刀で切りかかってきたと思ったら、俺をすり抜けて球をぶった切った。

 俺が閉じ込められていた球がきれいに割れて自在に動けるようになった。

 ついでに俺の体から闇が砕けていって心の奥底に戻っていくのがわかった。


 闇を切れるのか?あの刀は…

 切られたはずの俺の体を動かしてもどこも痛くない…


 それを見た黒いやまぶきは、驚いたのか闇が来る方へと逃げていった。

 たぶん報告しに行ったんだろう。

 追いかけに行かなきゃいけないけど、今はそれどころじゃない。


 狼と主浩さんの融合した狼獣人は刀を仕舞うと、俺の方を見ながらじっとしている。

 この状況は…俊夫の時によく似ている。

 この狼は俺の命令を待っている…


 『狼…主浩くん!お前は命令通り獣人界へ行け!』

 「拙者の名は狼主ろうず。我が主が付けた名をお忘れでござるか?」

 『だって…それは名前だけで、お前たちの存在が変わったわけじゃないだろ!』

 「拙者はお主の力、命を受けるべく生を受けた者。名は存在を示し、拙者の誇り。」


 目の前の獣人は、俺の闇のせいで完全に違う存在になってしまったみたい…扱いづらい…

 でも…なんとか目的は果たせた。

 これであとは向こうの世界へ渡ってもらうだけ…


 『狼主!予定どおりに獣人界に戻って…』

 「それは出来ませぬ。主は今、危うい状況にござる。それを打破するまではここから離れませぬ!」


 ござる言葉で俺の指示を拒否してきやがった。

 確かに、俺一人ではどうにもならない状況ではあるが…正直勝算はないわけでもない。俺の考えが間違っていなければ…


 『お前を主とやらに見られるのはまずいんだ。それにその刀…』

 「この刀、主を闇から御守りする物。まだ未熟にも加減が出来ぬ故、主の闇を切ってしまったが、戈を使えばこの場、勝算は十分にある。」


 確かに…勝算はあるかもしれないけれど…

 かなり無理をしているように感じる。

 元々、ベースになった狼はふらふら状態で万全じゃないハズ。

 それに俺の前に現れた時よりも、その刀を使ってから急に力が小さくなったような。

 刀を使うと何かを消耗するのか、肩で息をしている。

 黒いやまぶきだけなら簡単かもしれないけど、そのあとのことを考えると…正直厳しそうな感じだ。


 いくら別の存在になってしまったからって、いなくなってもらったか困る。

 この姿じゃ地元には帰れないからどうしてもあっちへ行ってもらって…その間に戻す方法を開発しないといけない…


 『狼主!獣人界に帰れ!そのふらふらな体じゃ、あとから来る闇には対処できないだろ!』

 「なれど…」

 『うるさい!お前は俺の従者なんだろ!大人しく命令を聞け!』


 その言葉に表情が曇ったが、自分の立場を思い出したのかすぐに俺に頭を下げてきた。


 「済まぬ…立場をわきまえぬ無礼な発言。失礼いたした…」

 『わかったら獣人界に戻ってくれ。あの闇に見つかったら他の闇にも存在が知られるかもしれない。見つからないように…逃げるように戻って…」


 向こうへ行って…元に戻れるんだろうか?

 記憶がないままそのまま獣人として生きて行くのが当たり前になって…

 かといってこっちに戻すわけにもいかないし…

 肉体はいま、獣人側にある。

 向こうで過ごす体がない…

 もしくはこのまま獣人の姿でいれたとして、街中をうろうろされると大騒ぎになるし…


 『向こうでふつうに過ごすんだ。いずれ俺達が迎えに行くから…』


 そうして狼主に行けと促す。

 俺は、狼主に近づいて、ペンダントの裏にあるスイッチを押した。

 これで電波は出っぱなしになっているだろうから、もしせんせいがこの電波を受信できたら居場所だけはわかるハズ…

 電池が何日もつかわからないけれど、もしわからなくなってもこれを持っていれば…


 そして狼主の顔に抱きついて数回なめててやる。

 永遠の別れを覚悟しながら無事を祈るつもりで…


 それが終わると狼主は黙って闇の中をゆっくり下へ降りていった。


 それがスピードを上げ、見えなくなったころ、黒いやまぶきと共に主と言われる黒い闇…ウサギ型の獣人を連れてやってきた。




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