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08-4 闇に取り憑かれたやまぶき

 ---助けて!---


 気持ちよく寝てたのに、突然聞えたその声で目が覚めた。

 なんだ今の声?

 横では大地がすやすやと気持ち良さそうに眠っている。

 夢だったのか?

 なんだかリアルっぽかったから外からかな?と思って毛布から抜け出して静かに窓に近づいてカーテンをくぐって外を見たけれど誰もいなさそうだ。


 ---誰か、ボク、追いかけてくる、何かに、狙われる、あぶない!---


 また聞こえた。狼の声だ!

 これは何かあったんだと確信したんで夜中だけれど、やまぶきの元へ駆け寄ることにした。

 とりあえず玄関出るまでは急ぐ心を押さえて静かに、静かに…見つからないように階段と廊下を忍び足で移動して…

 玄関をくぐったら一気に全速力で森へ向かった。

 暗闇でもまわりが見えるようにせんせいに作ってもらった首輪に仕込んだLEDをつけていつもの半分の時間で森にたどり着いた。


 『やまぶき!どこにいる』


 いつもは結界の所にいれば勝手にやってくるのだけど、寝床にしているところまでは知らない。

 探すのも大変なので周りには迷惑だけど、大声で叫んでしまった。

 すると獣人化したやまぶきが腕環をもって上のほうから現れた。

 あの腕輪は…たしか青い狐がここにあらわれたときに使っていた物と同じ模様が描かれている。

 と言うことは…狼を追っかける準備ができてるってことか。

 あれ?そう言えば、俊夫くんがクロになったときにあれを持っていたよな?あれどこ行ったんだろう。あれって回収したっけ?

 この腕環はやまぶきのだし…もしかして


 「やっぱりブラウンさんにも聞えたのデスネ。準備はできてイマスが行きマスカ?」

 『当たり前だ!変なことが起こるから行かないなんて言ってられないからな!』

 「今から、狼がいると思われる空間へ向かいマス。この空間は真っ暗で何も見えなくなるノデ、目印の鈴をつけてもらいマス。」


 そう言って俺の首に白い色の鈴のついた首輪を巻いてくれた。

 いつもしている首輪の上にまた首輪ってなんかうっとうしい…って言ってられない。 

 でも首を振るとネームプレートと鈴が当たってうるさい。


 「その鈴は確認の鈴と言って双方で付けていればボクとブラウンさんは真っ暗な中でも認識できるようにナリマス。ダカラ絶対に外さないでクダサイ!外すと見えなくなるだけではなくて、言葉も匂いも感じなくなりますカラ。」

 「ああ、わかった」


 俺がそう言うとやまぶきは腕環を外して人差し指でぐるぐるとまわし始めると添えが大きく広がって…俺達を飲み込んで暗い闇の中に落としていった。


 ゆっくりと下に落ちる感覚がなんだか気持悪い。

 やまぶきが言っていたとおり、あたりは真っ暗で何にも見えない。

 こんなとこで狼たちが見つけられるのかと思ったら俺の尻尾が何かにぐいっと引っ張られて…そこにやまぶきがいた。


 「そんなに早く落ちていったら、狼たちを探す前に向こうについてしまいマスヨ。」

 『そんなこと言ったって、俺こんなとこ初めてなんだからわからないって!』

 「そうデシタネ。とりあえずブラウンさんはボクがだっこしますカラ離れないで下サイネ。」

 『だっこって…恥ずかしい…』

 「恥ずかしいって、誰も見てマセンヨ。それにこの空間で逸れたら大変デス。我慢して下サイ。」


 仕方がないのでここはやまぶきに任せて、俺は…何したらいいんだ?

 勢いよく探しに来たのはいいけれど俺は何か役に立つんだろうか?

 もしかして足手まといになるんじゃ…


 ん?なんだ?なんか匂いがする。二つ…三つ!

 これ、狼のじゃあないか?

 もうひとつは主浩さんの…


 『やまぶき?匂い、狼の匂い感じないか?』

 「え?全然…と言うかここは普通は自分以外の者は感じとることは出来ないハズデスよ。」


 確かに…今目の前にやまぶきの姿は鈴のおかげで見えて喋れるけど、匂いはしない。


 『でも…あっちの方から匂いがする。やまぶき、あっちに向かってくれないか?』

 「分りマシタ。でもボクでは感じることが出来マセン。微妙な位置がわかりましたら誘導お願いシマス。」


 やまぶきは俺に従い匂いのする方向へ落ちていった。


 やまぶきが下に落ちるたびに匂いが強くなっていく。

 一番近いのは…主浩さん、その近くに狼のを感じる。狼は主浩さんより濃くなったり薄くなったりしているということは動いてるのか?この調子だとまだ憑依は完成してないみたいだ。

 そして2人と対照的に知らないうすい匂いがする。距離を取ってるのかどうか知らないけど時々匂いが無くなる…

 違う?狼と匂いが重なってる?

 と言うことは今まさに戦闘中なのか。


 『やまぶき、もう少し後ろ側に回れないか?どうも狼が主浩さんの前で何かと接触中みたいだ。後ろの主浩さんは動けないみたいだからそっちに回った方がいいかもしれない。』

 「わかりマシタ。この空間で自在に動ける生物は限られマス。何かに襲われているのでしタラ、動ける狼よりも動けない主浩さんの方に行くのが正解だと思イマス。ある程度近づけば鈴の効果で見えるようになるハズデスからそこまで誘導お願いシマス。」

 『わかった。』


 鼻に集中して、匂いを確認しながらやまぶきを誘導していく。

 そう言えば何でだろう。この空間ではやけに鼻が効くんだが。

 いつもはほかの犬たちよりも鈍感だし、嗅ぎ分けるのだって必死にやってなんとかできるぐらいのレベルなのに、今は何となく居場所や距離感まで分かる。

 他に邪魔する匂いがないからなのか?

 目の前が真っ暗だから目が見えない分鼻に神経が集中してるのか?

 ちなみに俺はやまぶきの方を見ていない。目の前は闇で何にもみえてない。

 そんなこと気にしてる場合じゃないと思いながらゆっくりと強くなる匂いを感じていると、そっちのほうから何かぼんやりとしたものが見えたような気がした。


 「下を見てくだサイ。狼が何かと争っているようデス。」

 『え?俺には何にも見えないぜ。』


 やまぶきには見えているようだが俺にはまだ何も見えない。

 だけど違う方向に何かぼんやりしたものが…人型のようなものが見えた!


 『やまぶき!お前、狼が見えるんだな。』

 「ハイ、でも…主浩さんが見当たらりマセン。」

 『俺は狼たちは見えないけど、主浩さんらしい影を見つけた。俺はそっちへ行くからやまぶきは狼の手助けをしてくれないか?』

 「わかりマシタ。では主浩さんの方をお願いします。移動の方は…水の中にいるような感じで動いてもらったら大丈夫だと思いマス。動かすのも同じで、たぶん簡単に動かせるハズデス。」


 ここから俺はやまぶきの腕の中から出て泳ぐように下へ降りていった。


 まだぼんやりとしか見えないけれど匂いからして主浩さんだと思って近寄ってみるとなんだかおかしい。

 やまぶきが言ってたのはこの中では自由に動けないはずなのに、段々と姿が見えてきたとき主浩さんは横にゆっくりとまわっていた。

 目をつむって、口を半開きにして…意識がないのかなんとなく首がふらついているような感じ…

 ゆっくり…本当にゆっくりと横回転が少しづつ縦回転へ、膝を抱えながら回っている。

 それを止めようと思って近づいてみると、何かに当たって近寄れない。


 なんだ?これは?


 何か膜のようなものが邪魔をする。その中に主浩さんが閉じ込められた形になっている。

 あれ?中にいる主浩さんの姿がなんかおかしい。なんだか少し小さくなったような…。

 その間にもくるりと中を回転するが俺にはどうしても止められない。

 せめてこの膜の中に入れたら…

 くるくると段々速度が速くなっていく?!

 縦横時自在に回り始めてしばらくするとまた縮んだ?!

 徐々に目に分かる速さで小さくなっていく。

 たしか35歳だったと思ったおじさんの体は、段々としわが無くなって、肌が徐々につやが現れて、白っぽい肌が少しづつ黒く日焼けしたようになっていく。


 『主浩さん!主浩さん!』


 異変に気がついて膜を体全体を使って体当たりしてみるがびくともしない。

 服がサイズに合わなくなって、上着が回転とともに体から離れていく。

 その間にも体が小さくなって、逆に髪の毛がゆっくりと伸びていく。

 ごつごつしてた体が、脂肪に隠れて少しふっくらとしてきた。

 あご周りも同じく少しとがっていたのが丸くなっていく。

 段々と奏太に似た姿に変化していく。


 なんなんだこれは。中で時間が巻き戻ってるって言うのか?

 これが流れ狼の力なのか?

 違う…なんかわかる。変な力がここだけ空間を曲げている…

 なんでわかる?

 俺に似た力を感じる…俺が覚醒させられた時のような力が…

 中で何かの…影の力のようなものが周りの膜からな中の空間に少しづつ溶け込んでいる?

 それを吸収していくと段々と体が若返っているっていうのか?

 それを証明するかのように主浩さんの周りにうすい黒い影が綿あめのようにまとわりついて、それを体が吸収している。

 なんでこんなことになってるんだ?



 主浩さんの変化を気にしている間に、俺の方に何かが飛んできたらしく、狼の方へ行っていたはずのやまぶきに抱きかかえられるように助けられた。


 「大丈夫デスカ?」

 『あ、ああ…。それより主浩さんが、主浩さんが!』

 「あ…そう言えば主浩さんはどこなんですか?まわりには誰も居ないようですけど。」


 え…俺達の目の前に膜の中で子供の姿になっているのに。

 もしかして見えてないのか?


 『そこにいるんだ。見えてないのか?』

 「ボクには…わからないデス。それより気を付けてください。相手は幽霊みたいに実体がないようなんデス。狼が今抵抗をしていますケド、ボクはそれに触ることすらできない状態デス。この状態は危険なので狼と主浩さんを連れて森に帰ろうと思うのですが…」


 話の最中、突然やまぶきが俺の前から消えた。

 違う!なにか黒いものに飲み込まれた!

 あっという間の出来事で、俺もやまぶきも対応できなかった。

 これがやまぶきが言ってた奴なのか?

 狼のとこにいたんじゃないのか?


 「なんですか…これは…体に…まとわりついて…」


 やまぶきは黒いものの中でもがいている。

 俺もそれを引きちぎろうと噛もうとするが…まるで幻のようにすり抜けてしまう。


 「なんデスカ…あなたは…ボクを…どうするんデスカ!」


 黒いものは段々と中でもがくやまぶきの体にくっつくように形を作っていく。


 「ボクを…操るのデスカ…やめて下サイ…ヤメテ…」


 やまぶきの体にひっついた黒いものの中から黒い被毛が生え、体のラインがはっきりと分るように形どられていく。


 「ボクを…心を…操る…やめる…ボクは…ボ…ク…」


 やまぶきの匂いが急激に取り込まれたものの匂いと混ざっていく。

 そして…黒いものがすべて吸収されるとそこには真っ黒に染まったやまぶきが異様な雰囲気で立っていた。


 「ボ…ク…は…」


 その言葉を最後にやまぶきの体から黒い影が湧き出てくる。そして何かを確かめるかのように右手を握りしめた。

 ゆっくりと目を開くと普段のやまぶきとは違う黄色い瞳が光っている。


 ---なかなか、いい、体だ。---


 黒いやまぶきは体をこっちに向け上から俺を見下す。

 匂いが完全に混ざり合い、新しい匂い…これは魂の匂いなのか?


 ---お前もその肉体を奪いに来たのか---


 俺の頭の中に直接声が聞こえる。取り憑いた幽霊が喋っているのか?


 『お前か!主浩さんをこんな風にしたのは!』


 ---いいや、これは我が主の力、この人間を適した体に戻しているだけだ---


 『我が主?ふざけるな!やまぶきを返せ!』


 ---お前も闇ならわかるだろう。こいつは既に我の肉体、闇は取り憑いて肉体を獲るもの、何を騒ぐことがある?---


 『俺は闇じゃない!俺のやまぶきを返せ!そして主浩さんを元にもどせ!』


 ---何度も言うな。これは我が身体。そしてあの人間は我主に授けるもの---


 『やかましい!奪っておいて何を…』


 ---お前も闇、いずれ他から新たな肉体を奪う、それは自然なこと---


 『俺は闇じゃないって言ってんだろ!返さないなら…』


 ---邪魔するというなら…お前は我では消せぬ…ではお前の仲間を無にする---


 いつの間にかボロボロになった狼が流れ狼の姿で目の前で倒れている。

 息はしているようだから死んではいないようだ。


 『おまえ、狼を…何をした!』


 ---こいつが我主の身体を連れていた。取り返すために邪魔なので襲った---


 『主浩さんはお前たちのものじゃないって言ってるだろ!』


 ---違う、主はあの人間を異世界から授かった。それをこいつは邪魔した。同調し奪わんとしていた。だから奪い返すためにこいつと戦った。そしてこいつは我体を傷つけた。その罰、使い物にならなくなった前の体を犠牲にして最後の力でこうした。だがまだ生きている、抵抗するならとどめを刺す。---


 くそ…狼もここまでやられていたのか…

 助けたくても俺じゃ、俺だけじゃ何もできない…

 逃げたくてもそれじゃやまぶきも狼も主浩さんも…全部見捨てなきゃならないなんて出来ない…

 どうしたら…どうしたらいいんだ…


―――


 「ブラウンさん。アナタもうすうす気づいているのデハないデスカ?」

 『何を…だよ?』

 「この森の犬達をある程度自在に操れるということをデス。」


―――


 だいぶ前のやまぶきの言葉…

 …出来ないのか?

 俺は意識してそんなことやったことない…けど、俺を一番知っているはずのやまぶきが言うってことは…


 ここで…やまぶきの言葉どおりにすることができたら…狼と主浩さんを再同調させることが出来ないのか?

 途中までは同調できてたんだよな…

 今は切り離されているけど、なんとか狼に同調の続きをしてもらったら2人は助かるかもしれない…

 そのためには狼に起きてもらわなきゃいけない…

 うまくいくのか?出来るのか?

 ええい!ほかに策はないんだ。

 やってだめならそれまでよ!


 「狼!起きろ!今から主浩さんと同調するんだ!死んでもするんだ!」


 狼はぴくりとも動かない。


 ---何を言う。無理。こいつはもう動けない---


 うるさい!そんなこと、そんなこと…分かってんだよ!

 最後のあがきってのやってんだから…

 駄目だったって…それじゃ、駄目なんだよ!


 「狼!俺の闇を吸ったんだろ!だったら俺の言うことは耳で聞こえてなくても意識では聞こえてるはずだ!起きろ、狼!命令だ!」


 その言葉に、狼の耳がぴくっと動いたような気がした。

 


 

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