表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/49

02 注射キライ!

12/1 2話の3部分を統合しました。


11/20 ブラウンの名前と種類がわからなかったので付け足しました。

12/12 一部修正しました

 多賀家に来てから2週間。


 散歩デビューは体力が回復した3日後から家と公園との間を毎日してもらっている。それと俺に名前がなかったから体の毛色から取ってブラウンという名前をママさんにつけてもらった。単純だけど気に入ってる。


 俺は芝犬って種族らしく散歩の間も似たような犬によく出会う。

 最初はすれ違うたび吠えられたり、吠えられたり、吠えられたり…

 人間の言葉よりも犬の言葉のほうが解らないからどうしたらいいかわからなかった。

 体が小さいから威嚇されているのか?とか思ったりしたけれど、それが違う意味を持っていることが分かるまでに1週間程かかった。

 挨拶だったり、かまってって言ってきたり、威嚇してたり、威嚇してたり…

 新参もんだからやっぱり威嚇が多かった…


「普通の犬は喋らないから人前で喋っちゃだめよ。」


 散歩する前にママさんは必ず俺に言う。

 飼い主同士どうしても長話になってしまうからだ。最初は犬の言葉が解らなかったから、ママさん達の会話に入りたくてうずうずしていた。

 けれど、何度も何度も目を見つめられて頭を気持ちよく撫でられながら優しく囁かれるように言われると、なんだか言うことをきかなきゃと思うようになってた。


 ママさんは俺の主人。


いつの間にか俺の中での行動の中心になっていた。

 でも…たまにはわがまま言ったりするんだけれど…。それでも他の犬たちには聞き分けよすぎるよと言われるぐらいらしい。


 ママさんに会って俺が犬ということを知るまでは俺が何者だかさっぱり解らなかった。というかここに来る前、確かに何か俺が俺じゃないものだったといういうわけのわからない感覚があったような気がするけど…

 でも、この家がなんだか懐かしい気がしたのは…俺が生まれて間もなくそこの飼い主に捨てられたのかなと勝手に思っている。

 

 そして、ママさんが言うように俺は犬だって自覚し始めたら不思議と犬の言動が急に分かるようになってきた。

 さっきみたいに言葉…吠え方に意味があることが理解できたり、縄張りを作ってみたり…



 そして今日は初めて散歩以外でのお出かけで、動物病院に健康診断。

 ママさんには出かける前に絶対に喋らないでねって命令されたけどなにかあるのかぁ?


 家から歩いて30分ぐらい、町はずれの駅前にある動物病院にママさんに連れられてやってきました。

 俺の住んでる家とそんなに変わらない建物の中に入ると、犬と飼い主が3組診察を待っていた。

 知らない犬とは威嚇し合うことが多いから視線を合わさないようにママさんに迷惑をかけないように膝元でゴロゴロと甘えるふり…をして順番を待っていた。


 そして俺の名前が呼ばれたので診察室に入ると、ママさんより年上の看護師さんと獣医師の竜王せんせいが俺の頭や体を軽く撫でて来る。


---噛みついたり暴れたりしたらだめよ---


 知らない人に触られたら最初は必ず吠えていた俺はママさんの命令に従っておとなしいいい子を演じていた。


 診察が始まるとせんせいは俺にいろいろ話しかけてくる。ほとんどが質問の会話は俺に向かっての言葉なのに応えるのはママさんがしてくれる。

 普通、犬は喋れないから会話のできる人間が答えるのは当たり前なんだけど、何回も俺の目を見ながら喋ってくるのでつい喋りそうになってしまう。

 ママさんが命令口調で喋るなって言ってた意味がよくわかった。


「じゃあ、次に採血をするからちょっときつく体をおさえるからね。」


 看護士さんに体をギュッと抑えられ前足の血管がある所から細い針が付いている筒をぷすっと射し込まれた。


『イ…』


 危ない危ない。痛いと喋りそうになった。

 痛くて何か気持ち悪い感覚を数秒我慢して採血というものが終わった。

 あー痛かった。あんなことされるのもうヤダ。まあもう終わったからいいけど。

 そう思っていたらまだ看護士さんは俺を押さえている。

 何でと思ったらせんせいは今度は違った筒を出してきて…


「さあ、最後は狂犬病の注射しますからね。ちょっと痛いけど犬は毎年しなきゃいけないから我慢してくださいね。」


 い…まだ打つの。

 逃げ出したいけどママさんの命令で大人しくしなきゃいけない。

 今度は首のあたりにぷすっと刺されてちくっとした痛みが走った。

 でもなんともないや。この後気持ち悪いの我慢してたら大丈夫と思っていたら…

 なんか中から押し出されて俺の中に入ってくる。

 それが痛い。

 たまらなく…いて…イテテ…


『イタイイタイイタイイタイ!』


 思わず叫んでいた。

 看護士さんも先生も一瞬何か起こったかわからなかったのか呆然として二人で顔を合わせている。

 叫ぶほど痛かったんで声に出ちゃった、まずい。


「いま痛いって叫んだよね?」


『わ・・ん?』


 ちょっと噛んじゃったけどとりあえずごまかそう。一回だけなら気のせいだよね…なんて思ってたら


「じゃあ、もう一回注射打ってみようか?」


 と棚から注射器がちらっと見えた瞬間、さっきの注入した痛みを思い出して


『やだ!痛いのヤダ!』


 あ、完全に喋っちゃった。


「多賀さん…この子、喋るんですか…」


 ああ、ばれちゃった。

 どうなるんだろう?ちょっと不安。



 ママさんの命令だから我慢してたのに、破っちゃった、どうしよう。

ゆっくりと後ろを振り返って見たくないママさんの顔を見るために下から上に顔を上げながら視線を上げる。

 あれ?顔が怒ってない。どっちかっていったら呆れたような…それでいて少し困ったようで何か楽しそうなよくわからない顔で俺を見ている。

 でも俺の体はだんだんと命令違反をした恐怖で体が震えていく。

 まともに顔が見れなくなって、瞬きするたびに目から涙がたまっていく。


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


 謝りたくても声も出ない。

 涙で見えなくなった視界にママさんの手が近づいてくる影が見えた。


 殴られる!


 そう思っていたら…


「何をそんなに怖がってるの?喋るなって言ったけど痛かったんならしょうがないじゃない。」


 そう言われて俺を抱き上げて頭を下から上に毛並みに逆らって撫でてくれる。いつも俺をあやしてくれる優しくて気持ちいい気分にしてくれる撫で方。

 怒ってないって気がついた時には体中の緊張が一気に解けて目から涙が滝のように流れ出てきた。


『だって、ママさんの命令を破ったから、とっても怒ってると思ったから・・・』


「ばかね、そんなんで怒ったってしょうがないでしょ?それに命令って何よ。犬だからってそんなとこまで犬らしくしなくてもいいでしょ?」


 ママさんは俺を優しくだっこしてくれた。

 俺はママさんとパパさんの子供なんだからよそよそしくしなくていいの、と何回も声をかけてくれるうちにご主人さまだったママさんが俺の存在を優しく包んでくれる、俺の絶対的に信頼しあえるお母さん・・・ママへと変わっていった。

 それからしばらく獣医さんの裏庭でママによしよしされながら声をなるべく出さないように泣かせてもらった。


 せんせいの診察が終わった後、待合室に呼ばれた俺は今日の注射が痛かったから、お詫びとか言って試供品のドックフードをもらって食べている。

 ママはせんせいと今後のことについて相談している。

 ママも俺が喋るのをどう打ち明けようか困っていたみたいなので結果オーライだけど、切り出せてすごく助かったみたいなことを言っていた。


 せんせいも含蓄?の秘密は守りますとか何とか言っているので大丈夫なんだ、きっと。

 最後に何もなくても無料でいいから月一で診断させてほしいとお願いされ、俺の大好きなマグロの味がするのカリカリキャットフードをもらって家に帰った。


 そういえば…ここで最初に食べたキャットフードがいつの間にか俺の大好物になっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ