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07-1 大地との散歩デビュー

 あれから1年半

 俺は5歳になった。

 大地は2歳になって歩くことができるようになった。毎日一生懸命どこかへ行こうとうろうろしている。


 俺は最近山の仕事を減らして、大地を歩かせる練習の手伝いをしている。

 ママは家事で忙しいから、俺が大地を引き受けることによって負担軽減をしよう思って大地を連れまわしている。


 まずは近くの公園との行き来から。

 比較的車は少なくて、人が集まるところとして設定した。

 何度かは俺が引っ張って道を覚えさせて、一人でも俺を誘導しながらいけるように訓練する。

 だいたいの道を覚えたかな?と思ったら今度は第二段階、わざと違う道に行くように仕向ける俺にどう対応するかへと移行する。

 それがなかなかうまくいかない。俺が行く方についてくる。

 その時は俺は吠えて注意する。たまに俺を引っ張ろうとしてくるんだけど…それが犬だったら褒めてあげたらいいんだけど、まさか犬の俺が人間の大地に犬のしつけのようなやり方で覚えさせるのは何かが違う…


 大地がまだ小さいから俺に引っ張られるとどうしてもついてくるのは仕方ないのだけど、それがネックになって結局しばらくは俺が大地を散歩させているそんな感じで外出させる。そして疲れたら…大地を俺の背中に乗って家に帰っていく。

 山にはいく時間が少なくなるし、思いどおりに歩けないしだんだんストレスがたまってくるのだが、何故だか大地に頭をなでられるとイライラが解消される。


 どうも最近俺の中でママより大地のほうが大事なような気がしてならない。手のかかる弟ができて、最近ギン達動物たちよりも大地と過ごすことになったからかもしれない。

 動物よりも物覚えは遅いけど、覚えたら俺をあっと言う間に追い越していく。そんな些細な出来事が嬉しさに変わって、この感覚が積み重なって行くたびに大地の存在が俺の中で大きくなっていく。

 そう思ったらギンは物覚えが早かったな…


 毎日、きまった時間に公園に行くと、いつもお決まりのところでママさん達の井戸端会議が行われ、その子供たちが公園のあちこちで思い思いに遊んでいる。

 大地はまだ2歳なので、動きまわって遊ぶのは難しい。だから大体俺の腰に巻かれたカバンの中にしまってある樹脂製のスコップを使って砂場で何かを作っている。

 たまに俺を生き埋めにしようとするので一緒に遊ぶときは注意が必要だ。


 大地が公園で遊んでいるときは俺もセットでいるので、いろいろな年齢の子供たちが俺めあてに寄ってくる。

 だいたいはじめは恐る恐る近寄って来るけど、大人しい(ふりをしている)と分かると触ってくる。背中に始まり頭、耳、尻尾といろんなとこを触られながら、相手とじゃれるふりをしてあげると喜んでくれる。

 

 そんな俺の集客効果もあって、大地はいろんな子と遊ぶようになった。子供達のお母さんたちにおやつをもらったり出来るような仲にもなった。

 ん、ちょっと待ってよ…ひょっとしてこれはまずいんじゃないか?ママがいなくて一人でさびしく犬と公園に来ている子供という認識なんじゃないのか?


 家に帰ってママと相談して、週に2・3回はついてきてもらわなければならなくなった…


 そんな中大地と同じ年の子供が何人かいて、大地と同じく遊びに制限があるから似たような所でいつも遊んでいた子供といつの間にか仲良くなった。


 ちょっとやんちゃな虎姫徹くんは俺の背中がお気に入りで、乗り物と勘違いして公園内を走らされている。

 双子の姉の木之本遥ちゃんは年の割にしっかりとしていてちゃんとママとの会話も成立する。それと一度俺がけがをさせてから俺が頭が上がらない。

 それと双子の弟奏太(かなた)くんはおっとりしていて大地と砂場で遊ぶのが好きらしい。

 あわてんぼうの愛知(えち)多加美ちゃんは誰にでもちょっかいをだしてよく喧嘩をしている。最近は俺を生き埋めにするのに命をかけている…


 虎姫くんは3歳であとは2歳の子といつも一緒にいるようになった。

 俺もその中の輪にいつも入れられるので当然…喋るのがばれるのに時間はかからなかった。


 それは4人と1匹だけの秘密ということにしておいた。

 おいらが知ってるだけで身内含めて両手では足りないほどいるはずだけどこういうのって子供は好きだからね…

 抑止力としては十分だった。

 まあ、犬が喋るって言ってもこの年の子なら信じてもらえないんだけど…



 そう言えばやまぶきも大地と同じで5歳になった。


  竜王せんせいのところでの事件以来、やまぶきは素直になった。俺が必要と思えば獣人にもなってくれるし、竜王せんせいにもいろいろな知識を喜んで教えてくれる。

 獣人のクロとも連絡を取り合い、状況もある程度分かってもらって、俺の目付役としてここに常駐する許可が出たらしい。

 相変わらず普段はギンの下で群れをまとめて、俺が来ると群れを抜け、尻尾を振ってじゃれてくるのは変わらなかった。


 今の群れ…というか協力して生活している犬たちは俺が暴れていた時と同じ16匹。赤ん坊が年に数匹生まれるけれどここ数年の異常気象で命の入れ替わりが激しくなった。

 群れもほとんど入れ替わって、クロが最年長になってしまった。上位が生き残るのは群れが安定していいんだけど、いなくなったときに一気に群れが衰退する可能性があるので先行きは不安定だ。


 今日は、機械の入れ替えということで大地との散歩は休んで山に来ている。いつもの業者さんが手際よく機械を入れ替えて操作が比較的簡単になった説明を、せんせいに伝えて昼の3時頃には帰って行った。

 今回のはだいぶ小型化された。電池が小型化されてさらに寿命が延びた。

 基盤も薄くなって鉱石を入れる容積も増えて、さらにそれを圧縮できる工場を見つけて、電池のように直列につないで計算上は充填が今までの6倍に増やすことに成功したらしい。


 ためしに吸収率を中にしてアオに向けて見ると…なんか風が吹いたような感覚の後、見る見るうちに体を支えられなくなるほどに力が抜けてべったんと腹をつけて舌を出しながら脱力感満載の姿になっていったのでスイッチを切った。

 近くにいた俺ややまぶき、クロも少し力を吸われた時の心地よい脱力感を感じた。

 どうも圧縮したのと直列で鉱石をつなげたせいで吸収率と伝導率が今までの数十倍に増えたようだとやまぶきは言っていたけど何のことだかさっぱりだった。

 なんだか電池みたいだとせんせいは笑っていたけれど、力を吸い取られたギンはたまったもんじゃないと尻尾を力なく縦に振るってそのまま体力を回復するために寝てしまった。


 せんせいが機械を調整するのに手間取って、結局家に帰ったのは夜の7時を回っていた。夏だから似が沈む前に帰ってこれたので約束は守ったことになったけれど、今日はパパが早く帰れる日だったのでご飯を食べるのを俺が帰るまで待っていた。

 あわててシャワーを浴びて、みんなで夕食を食べられた。


 俺は犬だから、椅子が使えないので床に皿を置いて今日は大好物のマグロ味のキャットフードを食べている。

 大地はまだ箸を使えないからスプーンとフォークで一生懸命食べている。

 相変わらずにぎやかだけど机の前も大地のところだけ食べ散らかすので見た目もにぎやかだ。


 そんな中、俺が仕事で公園に行けなかったので、言葉の練習ついでに今日あったことを喋ろうとしていた。


 「きょうね、こうえんでね、おやまをつくったの、それでね、つぶしてね、ままにおこられたの。」


 いろいろ言葉が飛んでいるけど一生懸命伝えようとしてくれている。行動パターンはそんなに多くないからなんで砂場で怒られたのかも想像はつく。


「それとね、きょうね、かぜがびゅっとふいてね、はるかちゃんがね、しんどくなってね、とおるきんとね、かなたくんも、かえっちゃったの。」


 ん?風がびゅっと…

 なんか引っかかるなぁ。


 『ママ?遥ちゃんなんで帰っちゃったの?』

 「よくわからないんだけど、みんなとちょうどおやつを食べているときに遥ちゃんが急に力が抜けたみたいに倒れちゃったのよ。あの時突然だったから驚いたけどさっき電話したら大丈夫だって言ってたから大したことなかったみたい。」


 『徹くんたちも帰ったって言ってるけど、二人もしんどくなったの?』

 「あ…ブラウン知らないんだね。あの三人兄弟なのよ。事情があって苗字が違うけど…だから一緒に帰ったのよ。」


 「でも、とおるくんも、かぜがふいたって、いってたよ。」

 「わかったわかった、大地と徹くんは近くにいたから一緒に感じたんだね。」

 ママは大地が喋った後、口のまわりのよだれを拭きながらなくなったお茶を樹脂製のコップに注ぐと、喋って口が乾いたのが気持ち悪かったのか、コップのお茶を一気に飲み干した。


 大地が言うには風が吹いたと言ってたけど、ママはそんなことなかったとあとで聞いたら否定をした。でもあの時、虎姫くんも同じことを言ったってそのあと言っていたし…

 公園と機械を設置した場所との距離は直線距離で1Kmはあるし偶然とも考えられる。


 おやつの時間…いつもなら3時半頃か…

 機械を稼働させた時間にかぶってるよ。もしかして…

 俺の中で嫌な予感が久々に走った。また何かあるかもしれない…

 俺は明日も昼の散歩をお休みして、やまぶきに相談するために山に向かうことにした。



 朝、ママとの散歩中もすっきりしなかった。ずっと嫌な予感が頭の中から離れないからだ。

 散歩中、仲間の犬たちにも聞いてみたけれど、その時間そんな強い風はなかったと言っているので、気のせいかもと思い始めてきた。


 そのあと山に戻るとギンはまだ脱力感たっぷりの顔で動いていた。


 ”あれ、ひどい、全部、持っていく、おかげで、体、動かない”


 顔を合わせて早々に文句を言われた。あれだけ吸われたのにゲージはそんなに溜まっていない。

 一応吸引速度は最弱にセットしてあるし…やまぶきと相談したら今日は俺が担当しよう。嫌だけど…

 でも今日は、ギンがこんな状態なのでやまぶきが俺に寄ってくる時間が取れないらしくて相談できなかった。


 一日山でじっとしていたはずなのに家に帰ったらふらふらだった。

 最弱でこの吸引力はひどい。家に着くちょっと前に力尽きるかと思ったよ…

 家に帰ってちょっと行儀が悪いけれどご飯を食べてからシャワーを浴びた。

 そのあとじっとしてる俺を大地は不思議そうに見ている。なんだかニタッと笑ってる。これは何かいたずらする合図と決まっている。


 「どうしたの?かぜ?マスクする?」


 そう言って後ろに隠し持っていた人間用のマスクを俺にかぶせようとする。俺を抑え込むために体重を乗せて上に乗っかって…口にマスクをかぶせたけど、耳に紐が届かないから一生懸命マスクを引っ張る。

 やれやれと思いながら、大地が吹っ飛ばないように体を動かして体をずらすと、大地は傾きながら床に倒れていった。

 着地地点にはスリッパがあったはずだから頭から倒れても大丈夫のはず。


 ごてん


 そんな音がして大地は背中から倒れていた。そしてすぐに起きあがって笑ってごまかす。


 『そんなんじゃない、体が疲れただけだけだから大丈夫。』

 「きょうもはるかちゃん、しんどいから、こうえんに、こなかったよ。ほかのこも、なんにんか、きのうから、しんどいって、いっててて・・・、きょうは、こうえん、あそんでるこは、すくなかったの。」

 『いっててて・・・じゃなくて言ってて・・だろう?それじゃ喋るんじゃなくて痛いになっちゃうぜ。』


 大地に言葉の間違いを指摘しつつ、昨日とまた状況が変わったことに不安度が少し増した。

 本当に風邪が流行ってるのか?それともやっぱり昨日のことが原因なのか…


 こっちは真剣に考えてるのに大地はまた俺にマスクをはめるのに夢中になってドタバタしている。

 もうダメ…今日はもう考えられない。


 大地が飽きて寝床に入ったころには、俺は既に台所で寝ていた。


 次の日の朝、ギンが言ってた通り 体力が回復しないまま目が覚めた。

 体がだるくて風邪をひいたあとみたいな感覚で少しふらふらする。

 でも散歩をしないと、リズムがくるって余計体がおかしくなるのでいつもどおり、ママに引き連れられ町へと出かけた。


 ”どうした?元気、ない?”


 すれ違う犬たちが次々に俺に向かって声をかける。中には元気がないからって、いつもの仕返しとばかりに体当たりをしてくる奴もいるし…

 なんか俺って体力バカって思われてるんじゃないんか?

 くそ!元気になったら仕返ししてやる。


 散歩から帰ったら、大地の様子がおかしい。

 なんだか体がだるいらしい。

 体に力が入らなくて足がふらついていて…熱はないけど風邪のあとみたいな感じだとか言っている。

 俺となんとなく状態が似てる…俺、風邪だったのか?

 ママはあわてて大地を病院へ連れていくことになった。


 俺の方は朝の散歩で気分も体力も回復しなかったので、午前中の山の仕事は中止して一人で竜王せんせいのところへ出かけた。

 まだ一般診療中だったけど、少しだけ時間を取ってもらって機械の件を話した。

 強力すぎるのを調整するのは難しいから、今解体中の機械を直して入れ替えようと計画を変更してくれた。

 前の機械は溜まった力の解析中だったため、それが終わる3日後ぐらいまで待っててほしいと。それに今の機械に溜まっている力はどう考えても今までのモノより多いはずなので、動かさないようにと忠告されて俺は動物病院を出た。


 せんせいのところで高栄養の缶詰を食べさせてもらったからなのか大分体は軽くなった。

 機械の方は昨日の俺の状態をみんな見てるから使うことはないだろう、というか怖くて扱えないと誰も近づかなかったし。

 今日はもう少し体力を回復させたいから山の仕事は休んで、家で大地の様子を見ながら散歩までゴロゴロすることにした。


 基本、俺は一日二食なので昼は食べない。

 だからいつもは山に出かけても問題はないんだけど今日はまだ調子が悪いので、ママ達の昼に合わせてカリカリを用意してもらった。

 うぁあ、いいとも見ながら家にいるって久しぶりで新鮮だなぁ…

 パパが祝日の休みにたまに言う言葉の意味が分かった気がする。


 大地を寝かせて、ママにハーネスを取りつけてもらって今日は多加美ちゃんとこの家族が迎えに来てくれで家を出た。

 珍しく大地が風邪でダウンしている。こういうことがあるとなにか良くない事がありそうな…なんて冗談で思っていたら、公園に行くと虎姫くんしかいない。遥ちゃんと奏太かなたくんは?


 「遥が熱出してん。母さんが付きっきりになってるから奏太も来れんて。」


 虎姫くんと木之本兄弟は一緒に住んでて、パパ違いの兄弟。虎姫くんは1人で公園に来れるけど、小さい奏太くんはママと一緒じゃないと来れないらしい。

 高熱を出して家で寝てるらしい。

 昨日の倒れたのと関係あるんだろうか?なんか気になって…


---今日は、こちらには来ないんデスカ?---


 俺の頭に直接やまぶきの声が聞こえた。なんだ?

 やまぶきってこんなこと出来たのか?と驚いて油断していたら…砂が、砂が!

 徹が砂をかけてきた。


 『こら!徹!いい加減にしないと噛むぞ!』

 「ボーっとしてるもんが悪い!」


 くそ!あの悪ガキが!少しは遥ちゃんの心配でもしやがれてんだ、もう。またママに砂だらけって怒られるんだから…


---ちょっと問題があるんで来てほしいのデスガ…すごい砂デスネ…---

 ”突然俺の知らない力で話しかけるのが悪い!”

 「おーおー犬の真似して!やろうってのか?」


 あ…違うって、徹を威嚇したんじゃなくて、やまぶきに文句言ったつもりだったんだけど…って、追っかけてくんなって。

 なんで3歳でそんなに走れるんだよ。成長が速いよ…

 まあ、追いつかれることはないけどね。


 急な呼び出しで、多加美ちゃんには家に帰ると言って山へと急いだ。




次回は12/22 1時更新予定です。

よろしくお願いします。

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