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清村伝説  作者: 夜那
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謎の女性

溝端先生が、おれの顔を覗き込んでいた。


「あっ、すみません。今、トド松に若い女性がいたので」


おれがそう言うと、溝端先生が勢いよく、


「なに!若い女性か」


と窓のほうへ視線を向ける。この人は、三十五に


もなってみっともないと呆れた。


「おーい。秋口君……、いませんけど」


溝端先生は、疑うような目で言ってきた。


「いますよ。ほらっ」


おれは、女性がいるほうへと指差したのだが、


「あれっ、いない」


とその周辺を見渡したのだが、その女性の姿はも


うなかった。もう、行ってしまったようだ。溝端


先生は、ちぇ―と言い明らかに不満そうな顔をし


て村長との話を再開し始めようとした。


おれは、村長の拳が震え始めていることに気付い


た。村長の顔を見ると顔が翳り、唇をかみ締め、


「こけぇ若い者はおらん。あんてゃぁい加減 なことゆうてわし達、村を馬鹿にしょうるんか!(ここに若い者 はいない。あんたいい加 減なこと言ってわし達、むらを馬鹿にしてい るのか)」


村長は、顔をゆがませ、怒鳴り声を上げた。


おれは、突然のことに声も出ない。外から風にあ


おられた葉が妙に大きく聞こえる。


おれ達の間に、ただならぬ空気が広がった。 村長


はおれ達が言葉を失っているのに、ハッ として、


「あっ、いや、大声出してすまない。だが、 ここは見ての通り、限界集落だ。若いものが、こけえ来て欲しい願いでお前さんの言葉 がえーどかされた(からかっている)と聞こ えてしもうてね。業がわいてしまったんじゃ (腹が立った)」


と深いため息をつくと、すまない、あとは好きに


取材していいと言うと部屋から出ていっ た。


おれは、ふいと溝端先生に顔を向けると、その顔


には思い惑うよな表情をうかばせていた。


「あ……の。すみませんでした」


おれは、ときかく謝ると溝端先生は、


「あんなキレることはないだろ」


としかめっ面をして言った。


ああっ、確かにあそこまで怒ることはないの ではと思う。


「まぁ、気を取り直して仕事始めるかと仕事モー


ドの溝端先生に入れ替わる。


溝端先生は、自分は村人にインタビューするか


ら、お前は、村外れの場所で撮影をするように頼


まれ、帰りは五時にと、おれの肩をぽんと叩いて言った。


その時、溝端先生の口元はにやけていたので 相


当、村長の態度が気にくわなかったのがよく分か


る。


何かやらかさないか内心祈るようにおれは仕事


モードに入れ替えた。




シャッターを切る度にシャッター音が森に響き渡


る。カメラレンズを覗きこんでいたら小道に桔梗


が可憐な姿をして咲き誇っているのを見つけたの


で、シャッターを切った。


なかなか良いのではと自画自賛していたら、 頭上


で葉と葉の間から日差しが差し込んでいるのに気


付き、見上げるとやわらかい風が頬 をなでながら


吹き抜けていく。また、シャッ ターを切っている


と桔梗が咲いている脇に小道がレンズ超しから見


えた。その小道は、森 の奥へとつながっているよ


うだ。


地図にこんな道はあったっけ?と思い、ポ ケット


から地図を取りだし、確認してみたが、そんな道


は記されていない。


「……………」


考えた挙げ句、少しだけ行って帰ればいいと思


い、おれは暗い土の道を進んだ。そこは昼間にも


かかわらず、辺りは薄暗い。


両側の草むらから湧き起こる虫の音がすさまじ


い。おれは、山林の内部に据え時折、足をとめて


は後ろを振り返った。三十分くらいしても道は続


き、後ろを振り返ると道が闇に包まれていた。


心臓の鼓動が大きくなっているのが分かる。



やがて、道は傾斜となり、足場も悪くなってい


く。さらに三十分ほど歩いているとおれの額に


うっすらと汗が出てきた頃、目の前に朱い鳥居が


見えた。朱凡塗料がところどころ剥げており、ず


いぶん古い鳥居のようだ。


葉のあおられる音が波立つように響き渡ってい


る。異様な雰囲気が鳥居のまわりに漂う。 正直な


ところ、この鳥居の先に進みたいとは思わなかっ


た。それに、ここは何か気味が悪い。


帰ろうと思い、また来た道を戻ろうとしたが、


「……………」


ここまで来たのだから行ってみようと変な好奇心


が芽生えた。


「行くか」


おれは鼻から息を吐いて、鳥居の先に足を踏み入


れた。


この時は、好奇心でいったのだが、今思えば何か


に引き寄せられるように行ったのかもしれない。

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