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フルカネルリだ。今年は学校ではなく家族旅行としてスキーに行くこととなった。大丈夫だろうか?
《キミのご両親の話かナー?》
ああ。滑ることができるのか?
《できるヨー。というか結構うまいヨー》
そうか。なら安心だ。
「はっ!」
おお、なかなかやる。
《結構うまいって言ったでショー?》
ああ、その通りだったな。
……しかしこれはただ上手いと言うレベルではなくなっているような気がするのだが……。
《……ヒントをあげるヨー。そのいチー、キミのご両親は結構古い付き合いがあルー》
…………ふむ。何となく読めたが、第二のヒントをもらおうか。
《良いヨー。そのニー、昔からこの近くに小学校はクトちゃんの学校しか無かっター》
ああもう構わん。理解した。
《あ、そウー? まあ、そんな感じであの二人はスキーが上手なのサー》
なるほどな。
………つまり、母が作る創作料理の数々は元々の才と言うわけだな?
《………あー、そうなるネー》
……そうか。
………さて。氷雨に挨拶でもしに行くとするかな。この辺り一帯は氷雨のテリトリーだと聞いたし。
《迷子にならないように気を付けるんだヨー》
なに、アザギもいるのだから平気さ。
『……うふふふ……嬉しいことを、言ってくれるわねぇ……♪』
『これはこれは、お久しぶりにございます古鐘様、アザギ様、ナイアルラトホテップ様』
何故か敬語だった。使いなれていないためかどこかおかしいような気がするのだが、私はそういったことはあまり気にしないようにしているので放っておく。
「なに、ここまで来たついでに挨拶でもしようと思ってな。こちらの都合で態々呼びつけることもないだろうし、こちらから来た、と言うだけだ」
『……ふふふ……そうねぇ……それだけよぉ……?』
《そうだネー。たいした意味もなく来たネー》
……実際のところ、意味が無いわけではないのだが、その辺りは黙っておく。態々言ってやることでもないし。
さて、アザギ達が仲良く話をしているうちに、こちらの用も済ませておくとしようか。
じっ、と氷雨を見つめる。
久し振りに全力で解析を行い、最後に見た氷雨と今の氷雨の違いを理解する。
……ほんの僅か、人間にしてみれば超回復中の数十秒程度の違いでしかないが、力が全体的に増加している。
アザギに聞いた話では、こう言った妖怪などは基本的に時間経過と知名度で力の強弱がつくらしい。
……無論、誰にも知られずに最強の座に手をかけ、そしてその座を捨てた猛者も居ることは居るようだが、そういった存在は極々稀なんだとか。
……確かに私達はナイアの存在を知らなかったが、事実としてナイアは私達には想像もつかないほどの力を有し、存在している。しかしそんな存在が多く存在するわけもない。そういうことだろう。
……まあ、実際にそうかは知らないが。今度本人に聞いてみるとしよう。いつになるかはわからないが。
雪の上をフルカネルリが滑っていく。なんか異様に上手い。
最初はぎこちなかったのに、あっという間に慣れちゃったのかジャンプとか急旋回とか縦回転とか……って、縦は無いでしょ縦はサー。
………フルカネルリのお母さんたちはフツーにやってたけドー。
……やっぱり神の加護ってすごいよネー。邪神だろうと善神だろうと関係なくサー。
……フルカネルリに頭が上がらないボクが言うのもあれだけどネー。
《何の話だ?》
「いやいやいや、何でもないヨー。ちょっとクトゥグア達にどんなお土産を買っていこうか考えてただけだかラー」
フルカネルリは滑りながらボクに意識を向ける。余所見は危ないヨー?
《………はぁ。まあ、いい》
「ありがとネー」
嘘だとわかってもさらりと流してくれるフルカネルリ。多分、隠そうとすれば無理矢理わからなくすることで隠すこともできると思うけど、隠すことでもないし開けっぱなしにしている。
……そこに触れないのは、優しいのか意地悪なのか。
…………いや、天然だナー。絶対。
フルカネルリは確かに優しいけドー、知りたいこととかがあればそっちを優先するだろうシー、ほんとに興味がないんだろうナー。
……信用されてるって思っておコー。
『……ふふふ……実際、信用されてるわよぉ……?』
「そうなんだろうネー」
……あ、そうだ。写真撮っとこ。綺麗だし。
ナイア、フルカネルリ、アザギ。雪山にて。