2-52
フルカネルリだ。文化祭では中々にノリの良い奴等が集まってアップテンポの曲に合わせて歌って踊って大変なことになっていた。
どうも今流行りのアニメの曲らしいのだが、私はアニメは見ないのでよくわからない。
《フルカネルリは暇があったら頭の中で研究タイムだもんネー?》
そうだな。
今年の私のクラスは有志でダンスを練習している。私はもちろん入っていない。
「瑠璃はやらないの?」
「やらないぞ」
「えー、やりなよー」
「嫌だ。絶対に」
などということもあったが参加はしていない。
私は踊るよりも歌い奏でる方が好きだ。
それに、体を動かすことならば朝の体操(と言う名の太極拳モドキ)で十分だ。むしろ最近ではこの体で行うにはキツすぎるようなものになってきているため、十分すら通り越して十二分ですらある。
《フルカネルリは非常識な体をしてるから大丈夫なんだけどネー》
『……もしも非常識な体じゃなかったらぁ………とっくに全身ズタボロよぉ……?』
私はそんな恐ろしいことをしていたのか。
………まあ、非常識ゆえに問題は無いし、構わないだろう。
《構ってヨー!もっとボクを構ってヨー!!》
聞き分けのない子供かお前は。第一今でもかなり構っているだろうが。
私にしては破格だぞ?
昔の私ならば集中している時は生返事、考え事をしている時は空返事、大抵研究の事を考えていて上の空が当然だったのだ。今の態度ならば満点を越えて点をくれてやっても良いところだ。
……まあ、私にとって満点など在って無いようなものだが。
《無いんダー?》
満点の上があるからな。
《それって満点じゃないよネー!?》
だからそう言っているではないか。
クラスの連中はノリノリで歌って踊って満足したようだ。白兎はなぜか不満そうだがな。
まあ、私に害はない。
《そうかナー》
作るなよ?
《
そんなことはしないサー》
今の間は何だ。
《あ、キミのご両親が来たヨー。キミを見つけてすごく嬉しそうダー》
なあ、ナイア。私の質問に答えてくれ。
今の、間は、何だ?
《…………。お、怒らないイー?》
物による。
……が、あまり外には出さないように善処しよう。
《…………………。
ごめん、いつか少しの間だけ記憶喪失になってもらって女の子が好きそうなゴスロリとかヒラヒラフリフリな服とか着てもらおうとしてましター》
…………そうか。
………………………………ふう。落ち着け、私。いいか? 怒るなよ? いくらナイアがふざけた頭が涌いたようなことを抜かしたとしても、怒らない努力をすると言ったんだ。落ち着け、落ち着け、落ち着け。落ち着いて深呼吸をしろ。この秋空の下で冷たい空気を肺一杯に吸い込んで、すぐさまこの怒りを押さえ込め。さあ、大きく吸い、そして吐き、意思の力で怒りを思考の奥底まで押し込めろ。……ああ、間に合わないか。ならば今すぐに落ち着くように術式を組め。まずは思考を根幹から冷やし、怒りと言う感情を凍らせろ。話はそれからだ。
…………ふう。
《……落ち着いター?》
五月蝿い、ヤンデレ化した校長と友人に焼かれ刻まれ食されて死ね。
《久々に聞いター!? そしてそれはいくらボクでもさすがにきついヨー!?》
だからこそ焼かれて死ね。
《酷いよフルカネルリー!》
お前がやろうとしたことも十分酷い。故に刻まれて死ね。
そして激痛の中で悶え苦しみながら死ね。
《……ごめんなさい、ほんとにキツいです、許してください(泣)》
いつかな。
《フルカネルリーー!(泣)》
泣きながら瑠璃に赦しを乞い願っているナイアを見ながら、わたしはクスリと笑いを漏らす。
いつもは飄々としていて掴み所がないナイアでも、惚れた相手には勝てないことがわかると、ナイアにはわるいが何故か笑みが湧いてしまう。
……流石に万年も一緒に過ごしていればそのくらいの事はわかる。ナイアは自分の事を隠すのが上手いからわかりづらかったし、瑠璃はそういった感情をナイアに向けていないようだから気付くのはかなり遅くなったが、一度わかってしまえば凄く簡単だ。
……けれど、やはりナイアは邪神らしく、およそ普通とは言えない感情の作りをしているようで、その思いは男が女に向けるような愛情でも無ければ娘に向けるものでもない。それどころか男が持つには少々珍しい思いだ。
……まあ、だからと言って困るわけでも無いけれど。
ついに実体化して土下座までしている奇妙な邪神と、その邪神に妙に気に入られている瑠璃を見ながら、わたしはのんびりと浮いている。
少しキレたフルカネルリと横から見ているアザギ達の日常(?)