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フルカネルリだ。今年の体育祭は雨で中止になった。邪神の力ならばこの程度の雲などすぐさま晴らすことができるだろうから、恐らくなにか非常事態でも起きているのだろう。
《大正解だヨー。クトちゃんがお見合いするからぶち壊しにいくんだってサー》
……それは……いいのか?
『……ふふふ……良いんじゃないかしらぁ……?……あの娘……好きな相手が、居るみたいだしぃ……ねぇ……♪』
そうか。……まあ、本人が良いと言うならばそれで構わないだろう。
体育祭を楽しみにしていたらしい白兎はクテッと机に突っ伏している。そこまで落ち込むことは無いと思うのだが、私も他人にはわかるはずもないことで一喜一憂することがあるので何も言わないでおく。
「瑠璃ー、慰めてよぉー」
向こうから来た。私としては放っておくのが良いと判断したばかりだと言うのに。
「まあ、どうせあの校長の事だ、別の日にやり直すのではないか?」
「だよね!」
いきなり元気になったな。
「うんうん、考えてみれば当然だよね。あの校長先生だったら自分が見れなかったっていう理由で体育祭をやっててももう一回やるとかしそうだもんね。雨が降ってたなら絶対やるよそうだよそうに決まってる!」
そう言って白兎が私に抱きついてきた。とりあえず頭を撫でておく。
「まあ、落ち着け」
「はーい」
私の腹にぐりぐりと頭を擦り付けている白兎だが、へにゃりと緩んだ顔をしているのは想像に難くない。
……やれやれ。もう一人子供ができたような気分だよ。
《前世も含めれば二児の親だもんネー?》
そうだな。
ここで大切なのは二児の‘親’であることだ。けして‘母’ではない。少なくとも前世では男だった訳だし。
《気にしないで良くないかナー?》
『……瑠璃にもぉ……譲れないことがあるんでしょぅ………?』
まあ、アザギの言う通りだな。私は私が女だとは考えていない。
《意識してないだけで男とも考えてないでショー?》
………やれやれ。やはり煙には巻けないか。
《一応、結構高位の神様だからネー》
『……邪神だけど、ねぇ……♪』
そうだな。
フォーマルハウト、クトゥグアの実家。
…………の、近くのどこか。
「てめぇは燃えろクソ親父!」
「その程度で父を越えたつもりか!? 片腹痛いわァ!!」
ぎちぎちと炎を圧縮して作られた剣がクトゥグアとクティウム(クトゥグア父)の間で火花を散らす。
それらの剣は恐らく太陽すら凌ぐであろう熱量と光量を秘めており、鍔迫り合いをするだけで干渉しあったエネルギーが辺りに撒き散らされていてとてもではないが人間が直視できるような闘いではなかった。
「ハ!無駄に歳食ったおっさんが言いやがる!」
「クソガキはいつまでもクソガキだなぁ!」
「「っだとゴルァ!!」」
剣の熱量が更に増し、辺りが異様なまでに暑くなる。
「決着つけるぞバカ親父!」
「いいだろう、来るが良い!」
「「おおぉおぉぉぁぁあああっ!!!」」
「……お兄ちゃんもお父さんも、元気だなぁ……」
「そうねぇ……」
一方、クトとクトネリシカ(クトゥグア母)は離れたところでのんびりとお茶を飲んでいた。
「……で、今回はお父さんが寂しくなってお見合いをさせるって名目で私達に会うつもりだったのね?」
「そうよ。まったくあの人も素直じゃないんだから……」
「しょうがないよ、お父さんだもん」
「……それもそうね」
くすくすと笑いあって、じゃれあっている二人を見る。
今では剣は無くなり、拳と拳のぶつかり合いになっている。
「……あ、お茶がなくなっちゃった」
「お代わり、いる?」
「ううん。いらない」
ぷるぷると首を横に振ってお代わりを断り、今回のお見合いの相手の顔を見る。
「……クトちゃんも、あんなのが兄貴で大変だな」
「いえいえ。良いお兄ちゃんですよ? ノーデンスさん」
「ノーデンス!てめえクトに色目使ってんじゃ」
「余所見とは余裕だなクトゥグアァァッ!!」
「うるっせえ! 余裕過ぎてあくびが出るわボケ爺い!」
「……あれでもかい?」
「…………あ、あはははは……」
ノーデンスの呆れたような問いかけに、クトは答えることができずにただ曖昧に笑った。
「……あ、そろそろ止めてきてくれないかしら? 今日は久し振りにご飯を作ろうと思ってね?」
「止めますよ」
「委細承知、止めようか」
クトとノーデンスは久々の美味しいご飯のために、いまだに暴れ続けている二人へと近付いていった。
嘘の見合い話とクトゥグアが素直じゃないのは父親からの遺伝という事。
「……ああ、クトネリシカの飯はいつ食べても旨いな」
「生きてくのにゃ必要ないのに、何でこんな旨いのかねぇ……?」
「……(お兄ちゃんの胃袋を押さえるのは大変だろうけど……頑張ってくださいね、アブホースさん!)」
そしてクトネリシカの作る食事は異様に旨いという話。