2-46
フルカネルリだ。一夜明けて、林間学校の二日目だ。
《あレー? なんかいつもより時間が過ぎるのが遅いようn》
黙れ。
『黙りなさいなぁ』
「黙っとけよ」
「黙りなさい」
《……フルカネルリはともかクー、アザギにクトゥグアにアブホースまデー……ちょっとひどすぎないかナー?》
「な、ナイアさん、落ち込まないで!」
《……ボクの味方はクトちゃんだけだヨー!》
ナイアはどう見ても十代前半にしか見えない校長に、実体化して抱きついた。
「てめぇこの野郎何クトに抱きついてんだゴルぅぼほぅ!?」
「生徒の前で殺気なんて出すんじゃないっ!」
それから始まる大喧嘩。とは言ってもしっかり周りのことを考えているらしく、物を壊さない程度まで加減をしている。
……やれやれだ。
いつも通りにさっさと太極拳もどきを終わらせる。異世界の時とは違って体はあまり動かないが、それでも限界に挑戦する勢いで体を動かす。
……お陰でいつの間にやら自分の体の動かし方ならまるで精密機械のように動かすことが出来るようになってしまった。
これにより、人間の体の構造的に無理な動きでなければその通りに動かせるようになった。
………ああ、勿論物理法則的に無理な動きも無理だ。
『……霊術、使ったらぁ……どうなるかしらぁ……?』
ある程度ならば出来るようになるな。物理法則無視。
……やれやれ。私も相当に人間離れしてきたな。
《今さら今さラー》
『……今さらすぎよぉ……あはははっ……♪』
朝から白兎はにこにこしている。
「あーん♪」
「……飽きないのか?」
「飽きないよ? だから、はい、あーん」
「……やれやれ。……ぁむ」
「えへへ~♪」
《知ってるかナー? キミと白兎ちゃんが恋人だって噂が流れてるんダー》
……まあ、似たようなものだろうな。些か一方的すぎる気がしないでもないが。
白兎がそれでいいのならばいいのではないか? 私としては相手が白兎ならば構わないし。
《白兎ちゃんはまんざらでも無さそうだヨー》
そうか。ならばいい。
楽しいことはすぐに終わる。
知識だけならばこの世界に存在している人間の全てよりも持っていると確信しているが、実際にやるとなるとやはり勝手が違う。
……まあ、知識の通りに体を動かすだけなので、すぐに慣れたがな。
簡単な手作りらしい舟にクラスメイト達と乗り、小さな湖を軽く一周。途中で白兎が魚を見つけてはしゃぎ、全員が片側に寄ったお陰で転覆しそうになるというハプニングがあったが概ね事件は無い。
副校長が舟に乗りたくないと騒いで教頭に正座で怒られるという光景はここで毎年見られる物らしく、案内人も‘またか……’と苦笑いしていたが。
《あ、やっぱりまだ水は苦手なんだネー》
「……うるせえ。クトが異常なんだよ。なんだよ水浴びしても平気な炎の神性って………」
《気合いでなんとかなるもんサー》
「ならねえよ」
「なってるよ?」
《ほらクトちゃんもこう言ってるじゃないカー》
「……畜生……ここには敵ばっかかよ………」
……まあ、強く生きてくれ。死なないだろうがな。
《まあそうだネー。ボク達くらいになると死にたくても死ねないヨー。そんなボク達が仲良くしてるのはネー、殺しても死なないから争うなんて馬鹿馬鹿しいと思ってるからサー》
やれやれ。また無駄な知識が増えたな。
……もしかしたらいつか使うことになるかもしれんが。
夜になり、二泊三日の林間学校の最後の夜。キャンプファイアーに火が灯り、その周りを私達が踊りながら回る。
ただ、調子にのって高速回転しすぎると、
「きゅう」
こうなる。
「クトおぉぉっ!」
そしてこう続き、
「おとなしく寝かしときなさいよこのバカっ!」
「ぼべぅっ!?」
最後にこうなる。
……実に痛そうだな。
《痛いヨー超痛いヨー? 何てったってアブホースの鉄拳だからネー》
それを何度も食らっているのに副校長は叫ぶのだな。
《クトゥグアはシスコンだからネー》
……そうらしいな。
「瑠璃っ!踊ろ?」
「……やれやれ。白兎は元気だな」
そう呟きながら、私は白兎の手を取った。
……未来の知識の中には、一応こういったダンスについての知識もある。
それを脳の奥底から引っ張り出して、覚えていただけのことをすぐに理解するレベルまで持っていった。
「それでは一曲、踊りませんか?」
白兎は私の問いに少しだけ考えて、すぐに笑顔になった。
「うん。お願いね、瑠璃」
私と白兎は手を取り合って、炎に照らされた地面の上でくるりくるりと踊り始めた。
フルカネルリと白兎ちゃんの二人につられて色んな子達が同じように踊り始める。
それは女の子同士だったり男の子同士だったりしたけれど、女の子と男の子の組み合わせは少なかった。
『……恥ずかしがってるだけよぉ……』
……そうかもネー。
……………ボクも久々に踊ってみようかナー?
「お相手しますよ?」
「あレー? クトちゃん、体は大丈夫なノー?」
「はい、もう平気です」
……たしかに顔色も悪くないシー、体内の力の流れ方もおかしい所はないみたいだネー。
「じゃあ、お願いできるかナー?」
「はい!」
影響力のあるフルカネルリと流されやすいナイア。
『……うふふふ……楽しそうねぇ……♪』
そして観客のようにそれを見ているアザギ。