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フルカネルリだ。ナイアに能力について聞いてからというものいきなりできる範囲が広くなった。なぜだろうか?
《説明するまで能力は封印してたからネー。開放されて成長速度が上がったせいじゃないかナー?》
なるほど、そういうことか。
…ん? と、言うことは……先に開放してくれればもっと早く自力で用を足せるようになったのではないか?
《体に魂が馴染む前にそんなことをやったら‘ぱんっ!’って弾けちゃうヨー?》
それは困るな。
《普通は困るで済むことじゃないけどネー》
能力については今わかっているものが全て常に発動しているようなので、出来る事といえば体をちゃんと動かせるよう慣れることぐらいだ。
……どうも前世の体のつもりで動かしてしまう。するとバランスが崩れてうまく歩けないのだ。
《それはもう慣れるしかないヨー》
まあ、そうだろうな。
……っと、危ない。
ふらふらとする足で立ち上がり、トイレに向かう。
最近新聞紙を踏んで思い切り転んだのはいい思い出だ。足元に気を付けろ、という教訓にもなったことだし。
《かなり痛そうだったけどネー》
‘痛そう’ではない痛いのだ。それも今の私にとっては凄まじく!
《あーうんごめん、ボクの失言だったヨー》
ああ、もう構わん。別に死んだわけでもなし、ただひたすらに痛かっただけだ。
《具体的にハー?》
足の骨を折っても気付かずに実験をしていた経験のある私が痛みのあまり泣いてしまうほどだ。
《そういう経験があるっていう所に驚いたんだけドー?》
気にするな。つまりこの体は痛みに弱く泣いてしまいやすいと言うことだ。表情は昔と同じように変えようと思わなければ変わらないようだが、なぜこんな所だけが変わってしまったのだろうか?
《それについては知らないヨー。ボクなにもしてないヨー》
そうか。まあ、それならそれでいいのだが。
ボクの見ている前でフルカネルリがすてんと転ぶ。
しかしすぐによろよろと立ち上がり、ふらふらとするおぼつかない足取りでフルカネルリは家の中を歩き回る。
ボクは「あとでもいいんじゃないかナー?」と言ったのだが、フルカネルリは頑として首を縦に振ろうとはしなかった。
「……まったく、キミも頑固だネー」
ボクがポツリと呟いたその言葉は、ゆらゆらと色と姿を変え続ける見慣れた空に吸い込まれて消えていった。
……まあ、そんなキミだからボクはこうして興味を持ったんだけどネー。
ぺしゃりと転ぶフルカネルリを見ながら、ボクはフルカネルリが言った言葉を思い出す。
「出来て困ることよりも出来なくて困ることの方が多いのだから、出来ないことを出来るようにすることが出来るうちに出来る限りの事はやっておくべきだろう? そうじゃないか?」
……フルカネルリはそう言ったけど、それは人間の考えだからネー。ボクにはちょっとわかんないかナー。
これでも一応邪神だからネー。寿命なんて無いようなものだシー、死んじゃってもいつの間にか生き返ってるからやりたくないことは後回しでもなんとかなっちゃうんだよナー。
……だからクトゥグアのやつとも安心してケンカできるし、クトゥグアのやつも加減なんて考えないでケンカに応じてくれるんだよネー。
まあ前にボクの家に火をつけられたときは流石にちょっとキれちゃったけドー。
まあ、それはどうでもいいヤー。邪神らしく考えるのはあとにしテー。
これから色々あるけど、頑張ってネー、フルカネルリ?
邪神なナイアの今の心境。