帰還編 1-1
はい、フルカネルリのご帰還です。
フルカネルリだ。この世界に来てから早二万五千年。ハヴィラックは五十代目が最近壊れ、プロトと共に記憶を小さなメモリーカードの中に保存された状態だ。
そして私もそろそろ研究対象が無くなってきたのでハヴィラックの素体の元とプロト達の記憶媒体、そしてこの世界で私が作り、手に入れた全てのものを持って元の世界に帰ろうとしている。
《ずいぶん長居したネー》
そうだな。
来たときは意識がどこかに飛んで行くような気分だったが、帰るときは自分の体に吸い込まれるような感覚だった。
《イメージとしてハー、掃除機のコードをきゅるるっ!って巻き取る感じだヨー。ただしコードレスだけどネー》
ふむ。どうやっているのか興味があるな。
『……そこはぁ……コードを巻き取る感じなのに、コードレスってどういうことぉ……? ……って、ツッコミを入れるところよぉ……?』
そうか。それでは……
《いやいやいやいや、他の人に言われてからツッコミ入れられても悲しくなるだけだからネー!?》
……そうなのか?
《そうなのサー》
そうか。
………ところで話は変わるのだが、私はなぜこのような狭い箱の中に居るのだ?
《ああうん、それ棺だヨー》
………………ああ、そう言うことか。
《説明役としての出番は無いんだよネー。フルカネルリってば理解力ありすぎだと思うヨー》
まあ、気にしないことだな。もしくは、諦めろ。
《……そうしとくヨー》
棺から出て周囲を見渡すと、辺りは真っ暗だった。どうやら夜であるらしい。
……だが、そんなことよりも大切なことがある。
………何故私はウェディングドレスを着ているのだ?
《未婚の女性にウェディングドレスを着せて葬るところは結構あるヨー》
……ああ、成程。
そう思いながら私は立ち上がる。香の匂いが鼻につくが、まあ、いたしかたないか。
ドレスが足に引っ掛かって邪魔なことこの上ないが、恐らく母と父が用意してくれたものであろうドレスを破るのは少々気が引けるため、仕方無くずるずると裾を引きずりながら歩く。
……やれやれ、スカートと言うものは実に扱いづらいな。これだから嫌いなのだ。……多分に私の精神的な物も入ってはいるがな。
《仕方ないサー、人間だもノー》
『……神様でもぉ……おんなじだと思うのだけどねぇ……?』
着替えを探したのだがどこにも見当たらなかったため、そこらに生えていた草を取り、分解して再構築して服を作った。
《帰ってきて初めて使う理由がそれって言うのはどうなんだろうネー?》
私らしい。
『……ふふふふ……完璧な返答ねぇ……♪』
《……確かにネー》
だろう?
さっさと着替えてドレスを畳む。いつもに近いスラックスにいつも通りのシャツと薄い上着。こちらの世界でのいつもの服だ。
……なんだ、かなり離れていたのだが、意外と覚えているではないか。これならば日記など必要なかったかもしれんな。
……だが、何か嫌な予感がする。昔にこの目に慣れようとして、出来る限り理解しようと深いところまで調べたときと同じような…………。
《……がんばレー、フルカネルリー》
……何かあるのだな。しかも相当痛いことが。
………早めに終わらせてくれ。
『……ちょっとだけ、助けてあげるわぁ……』
……ありがたい。
《んじゃ、いくヨー》
瞬間、私の全身に激痛が走った。
ボクの目の前で、フルカネルリが全身をぎゅうっと縮めて痛みに耐えている。
数万年分の成長を一気にさせているわけだから痛いのは当然。アザギがちょっと抑えていてくれていたとしても、普通ならあっという間にぶっ壊れちゃうほどに痛いはずだ。
………なんでフルカネルリは耐えられるんだろうネー? しかも、悲鳴もあげないで。
たしかに腕に食い込んだ爪は皮膚を傷つけて血を流させているし、思いっきり食い縛った歯は割れてしまいそうな程にギシギシと音をたてている。
それでもフルカネルリの口から漏れるのは歯軋りの音と、小さな呻き声だけ。
…………ほんっとに、フルカネルリは丈夫だネー。
二時間ぐらいで体の痛みは止まり、そろそろ冷静な思考を取り戻せる頃だと踏んで話しかける。
「気分はどうかナー?」
フルカネルリはボクの声に反応して、ちらりと横目でボクを見た。
《…………まあ………悪くない》
そして、指先についた自分の血を、ぺろり、と舐め取った。
『……ふふふ……お疲れさまぁ………わたしもぉ……ちょっとだけ、疲れたわぁ……』
《……私もさ》
そう言ってフルカネルリは目を閉じる。上がり続けた回復力で、傷はもうどこにも残っていない。
それに、今の高速成長で体の成長も頭の中身の成長も一気に加速しただろう。
そんな中で眠るように目を閉じたフルカネルリに、体の封印を再開する。これでもっと成長するのは早くなる。
……早くボク達のところに来てくれないかナー?
満面の笑顔を浮かべるナイア。端から見てるとただのドS。
《ボクは別にSって訳じゃないヨー。ただ相手がボクにからかわれている所を見るのが大好きなだけサー》
そして本神のコメント。