異世界編 1-16
いきなりですが、異世界編はこれで終わりです。
フルカネルリだ。私は全く変わらないが、プロトは肉体的には二十歳を迎えた。
成人式がこの時代まで残っていたかどうかは知らないが、関係無く祝う。
《ちなみにやる人が絶滅しちゃってるだけで成人式は残ってるヨー》
そうか。ならば遠慮はいらない、祝おう。
『……結局はぁ……そうなるのよねぇ………ふふふ……♪』
プロトの二十歳のお祝いにケーキを作ってみた。この時代までのあらゆる手法は私の頭の中に詰まっている。
それは薬の事であったり、農業知識であったり、科学知識であったりするが、その中には料理や菓子作りという元の世界でそれなりに役に立ちそうな物から知っていたところでなんの役にも立たない無駄な知識まで様々だ。
プロトの好き嫌いやハヴィラックの体の構成も把握している。無論ハヴィラックが次に体を替えるときには顎を丈夫にしようとしていることも知っている。
人間が地球を離れる頃にはすでに食事は娯楽以外の何物でもなかったようで、いくら食べても太らない薬の方が食品よりも圧倒的に安かったようだ。
《人間ってわかんないネー》
嘘をつくな。予想はしていたくせに何を言っているのだか。
『……ふふふ……様式美、ってやつじゃないかしらぁ………?』
なるほど、それは大切だな。
数年前からプロトには実験台以外に役に立ってもらっている。
実際になにかを作る時もそうだし、私以外の視点から見ればまた新しいアイディアが出てくることもあるだろうから研究資料を読ませたりもしている。
……実際のところ、アザギとナイアにも見せているからあまり必要ではないのだが、かわいい最高傑作(息子)のためだと割り切って今でも続けている。
一応それが役に立ったことも無いこともないしな。
『あんまり期待はしていないけドー、害はないしやらせてるって事かナー?』
まあ、その通りだな。
……たまに中々良いものを見つけてくれるから、宝くじのようなものでもある。ハヴィラックにはできないことだ。
『……頭がぁ……固すぎるものねぇ……♪』
長く存在していれば、すべからくそうなっていくものだ。
例えそれが人間であろうと亡霊であろうと……神であろうと、な。
《アブホースは昔っから頭ガチガチだけどネー。酒を飲ませて一つの部屋に放り込んでやっても全然進展しないしサー》
それは個人差だろう。
……訂正、個神差だろう。
《読みはおんなじ‘こじんさ’なのに、細かいことだネー》
お前が邪神仲間を‘友神’と言うのとたいして変わりはしないさ。
瑠璃が眠っている間に、わたしはゆらゆらと夜の地球を彷徨う。
この世界には霊気も妖気も存在しないため、あまり瑠璃から離れすぎると少々辛いのだけど、月ぐらいまでだったらなんとかなる。
それだけわたしは強くなっている、ということだ。
……あの邪神の近くにいる、ということも原因のひとつではあるだろうけど。
そんなわたしがどうしてこんなことをしているかといえば、ただの好奇心だったりする。
瑠璃を見ているのもいいけれど、たまにこうして散歩をしたいときだってあるのだ。
色々なものを見て、瑠璃に見てきたものを話してあげるのも楽しいし、まだわたしがただの人間だった頃から散歩をするのは好きだった。
人間の頃はこんな夜遅くに外には出なかったけれど、この世界に今のわたしを害せるものは存在しないから普通に外に出ている。
………さて、今日はどこまでいこうかしらぁ?
まだ文明が残っているところもいいけれど、機械からも見捨てられた旧文明というのも……中々面白いわねぇ……。
……ふふふ……ど・う・し・よ・う・か・し・らぁ……♪
散歩に出てみたアザギの話。