異世界編 1-15
お母さんの細胞を使い、ハヴィラックのそれと混ぜ合わせて作られた人造人間試作型0号機。通称プロトです。頭にはハヴィラックと同じように脳の情報のバックアップを常時私のマザーコンピューターに送るための機械が取り付けられ、さらにそれを利用することによりハヴィラックや他の機械郡と無線で連絡がとれるようになっています。
お母さんの言うことの真似ではないですが、とても便利です。
お母さんは毎日朝早くに起きます。私も早く起きようとするのですが、どうしても布団から離れられないのです。
お母さんに早く起きるコツを聞いてみましたが、前日に早く寝ることと、後は慣れと言われてしまいました。
早く眠るのはもうやっていますし、これから少しずつ慣れさせていくしかないようです。
……ハヴィラックに起こしてもらったり、薬を使ったりすれば簡単に起きれるとは思いますが、それでは自分の力でやったという達成感が無いので却下します。
目標は、お母さんの寝顔を見ることです。
お母さんはいつも私より早く起き、遅くまで起きています。そのため、私はまだ一度もお母さんの寝顔というものを見たことがありません。
いつか私もお母さんのお手伝いをする日が来るのでしょうか。とても楽しみです。
朝食の後は時間がたっぷり。その時間を潰すために文章のデータをハヴィラックにお願いして持ってきてもらう。
頭の中で臨場感たっぷりに流れる映画も良いですが、こういったものも私は嫌いではありません。
おそらくこれはお母さんの影響でしょう。お母さんも映像で見るより文章の方が好きみたいですから。
お昼になって、いつものように食卓に移動する。
本来ならこんなところに来ないでもこの施設内ならばいつでもどこでも食事はとれるのですが、お母さんの趣向でこうして集まるようになっています。
しかも、経口で食事をとっています。
この地球から人間がいなくなったころ、およそ八千年前の話ですが、その頃にはすでに一般家庭ですら経口ではなく栄養剤を直接血管内に入れることが主流になっていて、形があるものを食べることはほぼ無かったと聞いています。
しかしお母さんはそんなことは関係無いと当然のように食事をしています。
お母さんの血を引く私とお母さん以外は食べることはできません。そう、ハヴィラックですら少し辛いのです。
何故なら、あまりにも使われていなかったために顎が脆くなりすぎたからで、ある程度ならばなんとかなりますが、根本的な解決にはなりません。次のハヴィラックは初めから顎を強くしてくることでしょう。今回のハヴィラックはお母さんが来てすぐに用意された体であるため、食べることを考えていなかったようです。
夜になれば体を洗い、歯を磨いて布団に入ります。
これらは全てそれ専用の機械がやってくれますが、お母さんはいつも自力で機械と同程度まで磨いています。
……どうやっているんでしょうか? 不思議です。
それが終わればお母さんは私が眠るまで傍に居てくれます。少し前までは子守唄を歌ってくれたりもしました。
今でも私が歌ってほしいと強請れば歌ってくれるでしょうが、強請りません。私はもう精神だけならば十分大人です。
このようにして私の一日は終わります。たまに薬の実験台に使われる時もありますが、概ね楽しい毎日です。
フルカネルリ作・人造人間0号、プロトの一日。