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まだまだ日常が続きます。
フルカネルリだ。ナイアに言われて軽く能力を使ってみることにしたんだが、どうすればうまく使えるだろうか?
《それはネー》
いや、まだ細かい説明はいらない。簡単に、どうすれば発動するかを教えてほしいだけなんだ。
…あまりに簡単に全てを知ってしまうのは私にとって損にしか見えないからな。
《おーけーおーけー、簡単に何ができるかだけ教えるヨー》
ありがとうナイア。苦労をかけるな。
《別にいいヨー》
そう言ってくれるとありがたい。
《これでもボクはアフターサービスまでちゃんとやる珍しく職務に真面目な邪神だって評判なんだヨー?》
誰の評判だ誰の。邪神仲間か?
《えっとネー、まずクトゥグアだロー、ハスターだロー、アトラク・ナクアにツァトゥグアでショー、それニー》
いや、もういい。有名なんだな、他の神に。
《そうだヨー》
ナイアがニコニコと笑っている顔が目に浮かんだ。
「まずボクがキミにあげた能力の説明からするネー」
「よろしく頼む」
私がそう言うとナイアはニコニコと笑いながら頷いた。
ちなみにここは私の夢の中であるらしい。そのため私はいまとなっては懐かしい前世の体になって黒板の前でなぜか眼鏡をかけているナイアの前で椅子に座っている訳だ。
「最初に『成長速度上昇』の能力だネー。文字通りあらゆる成長速度が上がるヨー」
「……年齢もか?」
私がそう聞くとナイアは嬉しそうに首を横に振った。
「聞いてくれて嬉しいヨー。ボクが頑張って改造したこの能力では年齢だけは普通なのサー」
……反則だな。
「これでも邪神だからネー」
ナイアはエッヘンと胸をはった。
「まあ、フルカネルリがフルカネルリだった頃を1とすると、大体20億くらいの速さかナー?」
「正直、申し訳なくなるほどの早さだなそれは」
心底思ったそれを口に出すと、何故かナイアは吹き出した。
「……何がおかしい?」
ケラケラと笑い続けているナイアに聞くと、驚くべき答えが帰ってきた。
「…くふっ……だ、だって……元々普通の人間よりずっと……っく、成長早いのに……ひひひっ……」
「具体的には何倍だ?」
「一部は……2000倍くら…いひひひひ………」
……どうやら私は元々人よりなにかの成長が早かったらしい。それも2000倍という相当な倍率で。
「……けほっ……それじゃ次ネー」
ようやく笑いの渦から帰ってきたナイアは頬を半分ひきつらせながら説明を再開した。
「二つ目は『上限突破』。簡単に言っちゃうと人間のまま人間じゃありえないぐらいの能力値になるヨー。……まあ、頑張ればだけどネー」
成長速度上昇と合わせて凄いことになる気がするんだが?
「なるネー」
やはりか。
「……ツッコミどころだったんだけどナー」
なぜかナイアが落ち込んだ。
「……気を取り直して次だヨー。『下限値固定』って言ってネー、一度上げた能力値が下がらないようになるんダー」
…………それこそ物凄いことにならないか?
「なると思うヨー」
やはりなるよな。
「……ボク泣いちゃうヨー? ボケをスルーされるのって結構きついものがあるんだヨー?」
「そうなのか?」
「そうだヨー!」
なるほど、そうなのか。それはすまないことをしたな。
「……うん、もう大丈夫だヨー」
うむ、元気になったな。よかったよかった。
「じゃあ次ネー。……といってもこれは呪いの類いなんだけど……『健康の呪い』だヨー」
「健康の呪い? なんだそれは?」
健康で悪いことはあっただろうか?
「健康の呪いなんだけどネー、フルカネルリは嫌だろうけど……体が女の子としてすっごく魅力的になっちゃうんダー」
「具体的には?」
「髪の毛はさらさらのツヤツヤで枝毛なんて考えることすらバカらしい髪になり肌はつるつるのすべすべ、なにもしないでもいつもすべすべもちもちぷにぷにの赤ちゃん肌。さらにプロポーションも凄いことになっていくら食べても全然平気で変わらない。睡眠不足だろうが運動不足だろうが変わらないどころかきれいになる一方という世の女性が聞いたら殺したくなるような呪いだヨー」
「…………そうか」
それは……困るな。
私がそう思っているとナイアが親指をたてて言うのだった。
「まあ、なんとかなるヨー」
そう信じたいところだな。
こうして簡単な説明は終わった。発動については常に発動しているらしいので心配はいらないそうだ。
「実は他にもあるけど、それは小学生になってからネー」
そのときになったらまた呼ぶヨー、とナイアは私に手を振った。どうやらもう朝になるらしい。
遠くなって行くナイアの顔を最後に、私は夢の中からの帰還を果たした。
「瑠璃ちゃん、おはよう」
目を覚ました私の娘に笑いかける。瑠璃はいつものようにぼんやりとした目で私を見たあと、体を起こす。
そして私に体を向けて、
「……ぉはょ……おかぁしゃん……」
かくん、と頭を下げて言った。
ああぁぁぁぁああかぁああわぁああいぃぃいぃぃっっっ!!!
私はそんな可愛らしい瑠璃を抱き締めて頬擦りをする。むにゅむにゅと瑠璃が何かを言っているがいまの私には聞こえない。
……五分後に瑠璃を放した時には瑠璃の目もしっかりと覚めていた。
「……それじゃ、着替えてからご飯にしようか?」
私の言葉に瑠璃はコクンと頷いて私の手を握ってくる。
そのまま私たちは二人でご飯を食べる。
……ああ、し・あ・わ・せ♪
とある家の日常の朝より抜粋。