異世界編 1-11
フルカネルリだ。最近、やっとプロトが歩けるようになったのだが、なにかがおかしいと感じるようになった。
……そう、例えるならばプロトの中にプロトではない誰かがいるような感覚だ。
……なぜだろうな?
《あ、それたぶんハヴィラックがやってた睡眠学習の効果だと思うヨー。プロトが寝ている間に情報を無理なく頭のなかに詰め込んでいってるからそんな風に感じたんじゃないかナー?》
……ハヴィラックはそのようなことをやっていたのか。私は自然に育ったプロトを見てみたかったのだがな…………。
『……残念ねぇ……』
……まあ、過ぎたことは仕方がない。いつか普通の子を育てる機会があれば、その時は普通に育ててやろう。
《ポジティブシンキングだネー》
そうだな。
ハヴィラックのお陰かどうかは知らないが、プロトはとても大人しい。
体はまだまだ私よりずっと小さいが、すでにかなりの知識を手に入れているらしく、あまり我儘を言ったり騒いだりということがない。
しかし子供らしいところもあるようで、自分で歩けるようになってからもよく私の傍にいるし、好きなことは私に抱かれて心音を聞きながらゆるゆると眠りに落ちることだと言う。
《……なんと言うか………老成しちゃってるネー》
そうだな。
ちなみにまだ人間が絶滅していなかった頃でもこの年代の子供にここまでの知識を埋め込むことは多くは無かったようで、人間が滅ぶ前の映像を見てみれば子供たちは普通に子供らしく無邪気そうに笑っていることが多かった。
……まったく、ハヴィラックはやはり過保護だな。
《過保護ですむ話じゃないと思うんだけどナー?》
それはお前の気のせいだ。
《なーんだそっカー。安心したヨー》
『……安心することじゃぁ……ないと思うのだけどねぇ………?』
そうか?
プロトを寝かせてから久々に研究をすることにした。
今までは研究になるとのめり込んでいってしまい、プロトの世話ができなくなってしまうので止めていたが、今ならば違う。
意識の一部を人型の機械に乗り移らせ、それを操ることで研究とプロトの世話を両立させることができる。
ちなみに、その方法の根幹はアザギから教えてもらった。アザギはこれを‘憑依’と呼んでいるようだ。
『……ふふふ……憑依だものぉ……♪』
《憑依だもんネー》
そうか。
私が乗り移る機械には‘ネルリ’という名をつけた。安直だが私が凝った名を付けようとすると妙な名前になってしまうのだ。
……フュルルカネール等という名は嫌だろう。
《……ネーミングセンスはどーしても残念なんだよネー》
言うな。自覚はしている。
それに実際は付けていないだろう。自分でも駄目だと思ってはいる。
《でもハヴィラックって悪い名前じゃないと思うんだけドー?》
それは名前がないまま設計図を作っていたら弟子が分かりにくいと勝手に名前をつけたのだ。
《そうなノー?》
ああ。
……ちなみに、その名前をつけたのはスプリングコートだ。
《……ああ、あの‘簡単な人造人間の作り方’シリーズの人カー》
そう、あの馬鹿弟子だ。
……なつかしい話だな。
《そうなノー?》
まあな。
昔を懐かしむフルカネルリの話。
「――フルカネルリ様。プロトが泣き喚いています」
……どうやら機械の私ではお気に召さないようだな。一応あれも私本人だし、機械と言っても生体部品を使っているから温もりもあるはずなのだがな……?
《匂いじゃないノー》
ああ、それか。
そしてしばらくはプロトの世話をし続けるらしい。