異世界編 1-10
異世界に行ったらバトルがあるなんて一言もいってはおりませぬ。
簡単に言いますと、そんなものは無い。
少なくとも、この世界では。
それでは。
フルカネルリだ。プロトが産まれて早二ヶ月。私は一旦研究を止めて育児に精を出している。
……普通の子と同じようにゆっくりと成長していくようにしたのだが、ここまで育児が大変だったとは…………。
《おかーさんたちに感謝だネー》
そうだな。ありがとう、もうこの世にはいない母よ。そして産まれることもなかった父よ。
『……この世界では外れてはいないけどぉ……それはどうなのかしらぁ………?』
さてな。
わんわんと泣いているプロトをあやしつつ、ハヴィラックに集めてもらった情報の中であまり触れてこなかった所を整理する。
それは例えば農業に関するものだったり、料理に関するものだったり、掃除の豆知識や家事であると便利な小道具の知識だったりもした。
………この時代では機械がそういったものを使って掃除をしていたのだろうか? そう考えると少しばかり笑いがこみあげてくる。
手元を見てみると、私が笑っているのにあわせてか、プロトも笑っていた。
まだまだ右も左もわからない赤子だが、中々に愛着が湧く。
《フルカネルリー。なんかすっごくお母さんしてなイー?》
……さて? どうだろうな?
『……ふふふふ……別にいいじゃなぃ……悪いことじゃぁ、ないわよぉ……?』
ふふふふふふ……とアザギが笑うと、プロトがぐずりはじめた。……やれやれ。赤子はこういったことに敏感すぎるな。
私は半泣きになっているプロトを抱え直し、心音を聞かせる。私の体は大きくないので少々大変だが、赤子というものは親の心音を聞いていると落ち着くものらしいからな。
《やっぱりお母さんしてるヨー》
五月蝿い、偶然降り注いだ流星群のうちの三発に頭、喉、鳩尾の三点を撃ち抜かれて死ね。
《隕石で三点バースト!? 何て無茶苦茶なことを言ってるノー!?》
『……ふふふふ……いつも通りじゃないのぉ……♪』
《……そーいやそうだネー》
そうだろう?
朝は早くに起きて太極拳もどき。そのあとに起きてぐずりだしたプロトをあやしつつ朝食を作り、おむつを取り替える。本来ならば私がやることはないらしいのだが、私はあえて自分の手でこういったことをやっている。
……戻った後に使えるものとして覚えるためにも、これは必要なことだ。
私に子ができた時の健康管理のやり方も覚えられることだし、体にいい料理も作れるようになれる。
………まあ、相手がいればの話だが。
《白兎ちゃんハー?》
お前は馬鹿か? 白兎は女で私も女だ。子が作れるはずも…………いや待てよ? 確か記憶の中に同姓同士で子を成す技術があったような気が……………ああ、これだ。
…………ふむ、白兎さえ良ければできるようだな。私としても相手が白兎ならば文句は無いことだし。
《白兎ちゃんなら普通に喜んで受けそうだよネー》
『……ふふふふ………面白そうねぇ……♪』
そうだな。だが今は、プロトの世話で精一杯だ。
ハヴィラックに押し付けてもいいのだが、それでは学ぶものがなくなってしまう。
子育てを始めてみることにしたフルカネルリと、その息子の話。