異世界編 1-8
フルカネルリだ。どうやらこの世界に来てから既に五百年以上は過ぎているようだ。
《よくわかったネー? 正直言ってフルカネルリがそんなことを気にするなんて思ってなかったんだけドー?》
ああ、私も気にしていなかったが、あることが起きてな。
『……あぁ……あれ、ねぇ………?』
……アザギが何を考えているかは知らないが、恐らくはな。
事は簡単に説明できる。本当に口にするなら五秒も要らないほどに簡単だ。
ハヴィラックが寿命で死んだ。壊れた、でもいい。
それだけだ。
《なにか思うことハー?》
無い。どうせもう代わりは作ってあるし、それにはハヴィラックに蓄積されていたデータも入っているのだから。
『……それでも……もぅ、ハヴィラックには会えないわよぉ……?』
その言い方ではフルカネルリという男の記憶と行動原理を持っているだけの私はフルカネルリではないと言っているように聞こえるぞ?
誰がなんと言おうが、私はフルカネルリであり、私だ。それ以外の何者でもない。
たとえ体が少女のものであってもそれは変わらない。
『……そぅ………なら、それでいいわぁ……』
《アザギが拗ねちゃっター》
『……拗ねてなんてないわよぉ……?』
……仲の良いことだ。
二代目ハヴィラックはそのままハヴィラックとして動いている。私もその方がありがたい。
この時代の科学力で作られたハヴィラックは、二十歳を少々過ぎた程度の体であるときが一番長く、それだけで生まれてからの四百年の内の九割八分以上を占める。
……つまり、今はまだ幼いと言うことだ。
「ハヴィラック」
「はい、フルカネルリさま」
《ちょっとだけ舌ったらずな所がかーわいいネー》
……すまない。私にはそのような趣味は無いため同意しかねる。
《ちょっと待っテー!? フルカネルリなんか勘違いしてるヨー!?》
………ナイアは、幼児性愛者ではないのか?
《違うヨー!邪神の名にかけて違うヨー!》
そうか。ならばいい。
『……さっぱりしてるわねぇ……』
《……ボクはものすっごく疲れたけどネー》
ハヴィラックは小さくなってもハヴィラック。つまり、
「フルカネルリさま。やくそくの三か月です。お休みください」
私のことを子供扱いするのは変わらない。
……今となってはハヴィラックの方が肉体的には年下なのだがな。
「きいているのですか、フルカネルリさま?」
「わかったわかった。休憩にするよ」
……やれやれ。もう長い付き合いになるからか、私の操縦の仕方を覚えたらしいな。
それを私より小さな体でやるのだから、どこか微笑ましいものを感じる。
《キミも似たり寄ったりだって気づいてるかナー?》
ああ、微笑ましい。
《……え、久々に完璧スルーされちゃったヨー。なんか懐かしいような気がするナー》
よしよし……おっと、ついハヴィラックの頭を撫でてしまっていた。もとの世界に帰った後に撫で癖がついてしまったらどうしようか?
《………おーいフルカネルリー。ツッコミ所だヨー?》
……まあ、その場合は白兎を撫でてやればいいか。
『……あらあらぁ……形無し、ねぇ………♪』
《……確かにその通りだけどサー。何でキミはそんなに嬉しそうなのかナー?》
『……うふふふ………嬉しそう、じゃなくってねぇ………た・の・し・い・の・よぉ………♪』
《……あ、ソー》
『……えぇ……♪』
やれやれ。元気なことだ。
それなりに長い時間を異世界で過ごしてきたフルカネルリと愉快な仲間たちのある日。