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フルカネルリだ。よくよく考えてみれば、もしも今の時代から数千年前のような世界に行った場合、時間の計り方がおかしくなってしまいそうな気がしたので時計をもって行くことにした。
……自作のな。
《時計を自作しちゃったノー!?》
ああ、した。
中々に苦労したが、アザギの協力によって相当正確な時計を作ることができた。
ゼンマイ式だが、十年に一秒もずれないようにしてある。それにしても霊術や妖術は使い方をうまくすればかなり便利だな。
《べ……便利とかそんなレベルの話じゃないような気がするヨー……》
『……ふふふ……気のせいよぉ……♪』
その通り、気のせいだとも。
……ただ、ネジを巻くのを忘れないようにしなければいけないのだが…………自動で巻き上げてくれる術式か機構でも組み込むとするか。
「……おーい、瑠璃ー?」
「……ん、なんだ、白兎か。どうした?」
「どうした、じゃなくてさ……瑠璃の方こそどうしたの? もう七回も呼んだんだよ?」
……ああ、なるほど。集中しすぎて気付かなかったな。
「そうか。それはすまないな。……なんだ?」
むぅ、とむくれている白兎に用件を聞くと、なぜか溜め息をつかれた。
「……わかってないんだろうなぁ……」
「……なにがだ?」
「気にしないで。それより、その時計はどうしたの?」
白兎が指差したのは、今も術式を組み込むために手に持っていた鎖付きの時計だった。
「これか? なに、母に買ってもらったのだよ」
「……そっか。そうだよね、いくら瑠璃でも自分で作れるわけが無いよね……」
私もただの小学生が時計を作れるとは思えないため、さすがに今回は嘘をつかせてもらった。悪いな、白兎。
《賢明だと思うヨー》
……ありがとう、ナイア。
「まあ、外側の意匠は私がつけたのだが」
「十分すぎるほど凄いよそれ!? でもなんだか瑠璃なら納得!」
納得するのか。
『……今まで……色々、作ってきたじゃないのぉ………』
ああ、確かにな。それでか。
《そうなんじゃないかナー?》
いくつも術式を組み立て、いくつも術式を破棄し、いくつもの結果を作り上げた。
……初めは自動の巻き上げ術式を作っていたはずなのに、なぜか途中で自動反射術式が組み上がるという結果になったりもしたが、自動巻き上げ術式は完成した。
動かなくなる前に一瞬で巻き上げ、それ以降は適当なタイミングまで発動しない。ただそれだけの術式を組むのに五時間もかけてしまった。
……まあ、運動系の術式を組むのは初めてだったということだし、今回はこれで納得しておこう。
「あ、悩み事は解決したみたいだね?」
「ああ」
《……白兎ちゃん、よくわかったネー》
『……ふふふ……それだけ、瑠璃をよく見てる……そういうことでしょぅ………?』
《そうだネー》
そうか。ありがたいことだな。
カシャカシャと術式を組み立て、それの効果を確認しながら次の術式を組み続ける。そんなフルカネルリを見ながらボクは思う。
……やっぱりフルカネルリはこういうことに才能がある。
具体的には、感覚でおよその形を理解でき、さらに理論でそれを補強し、それらが無駄になっても腐ることなく前に進むことができる、いわゆる‘努力する天才’だ。
……しかも、‘成長速度上昇’もあるから手がつけられない。
……あー、こわいこわい。
フルカネルリは人間の範疇を越えて成長を続ける。
いつかそれはボクに届くかも知れない。
……まあ、フルカネルリならそうなってもなーんにも変わらない気がするけどネー。
『……ふふふふ……そうねぇ……♪』
《だよネー》
……まあ、そんなわけで。
もし、フルカネルリが人間を辞めたくなったらいつでも言ってくれていいヨー。
ボクたち……少なくともボクは、歓迎するからネー。
………フルカネルリが人間を辞めたくなるなんて、想像もできないけどサー。
昔とちょっと考え方が変わったナイアの話。