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フルカネルリだ。四年生になりはしたが、特に何も代わり映えがしない。
《学校なんてそんなものだヨー。みんな平和な日常を享受することをここで覚えるのサー》
そうか。先達の言うことは違うな。
白兎の居る女子バスケ部で時間を潰す。白兎は四年の身で堂々とエースと呼ばれている。
……ちなみに私は裏エース等と呼ばれているが、この部に籍は無いしわざわざ入る義理も無い。
白兎は私に入ってほしいと思いつつ、私の自由にさせてくれている。得難い友だ。
まあ、今のところ入る気は全く無いが。
まとわりつこうとしてくるバスケ部員をすり抜けて、ひょいとリングにボールを入れる。
入ったことを確認して、自分の守備範囲に戻る。
………だが、なぜ私に三人もついているのだ? ここまでやっては他ががら空きになるだろうに。
そう思いながら見ていると……ほら、白兎がゴールを決めた。
私に向かって笑いかけてくるが、それはすぐに私をマークしている部員に隠された。
……やれやれ。
私は再びその囲いをすり抜けて、リングにボールを投げ込んだ。
最終スコアは6対58。この紅白戦は私達のチームの勝ちだ。
「勝ったー!やったね瑠璃!」
白兎が片手を上げる。
……確か、こう返すんだったな。
「ああ。そうだな」
私も同じように片手を上げ、手のひらを打ち合わせる。
……ぱしん、と良い音が鳴った。
「……それにしても、やっぱり瑠璃ってすごいね」
「……そうか?」
「うん!」
なぜ白兎はこれほど嬉しそうなのだろうか?
その嬉しそうな顔を引っ込めないまま白兎は続ける。
「だって、今の試合の点って半分は瑠璃が取ったし、いつもよりマークも多かったのにいつもと変わらないように動いてくれたし……」
……ああ、なるほど。
だが、私にとっては大したことではない。まあ確かに今の体でそこまでできたのは私も少しばかり驚きはしたが、この程度なら方向と加減をうまくやれば誰でも出来る。
……私もまだ完全ではないが、外さないようにすることくらいは出来る。それに今の試合では、何度かボールがリングに当たってしまった。
《十分だと思うヨー》
私は不満だ。
……だが、今はこれで満足しておこう。
私は白兎の頭を撫でながら、のんびりと考え事を続けた。
ぱすっ、と、静かな音を立てながら、瑠璃の投げたボールがゴールネットだけを揺らす。
するとその姿に周りで見ていた観客たちが歓声を上げる。
……うん、瑠璃って綺麗だもんね。仕方ないよ。
……でも、ちょっとやだ。
瑠璃の綺麗なとこは私だけが知ってたはずなのに、いつの間にかみんなが知ってるようになっちゃった。
……でも、瑠璃はこうやって体を動かすのはともかく目立つのはあんまり好きじゃないみたいだから、まあいいや。それに瑠璃の可愛いところはまだ私と瑠璃のお母さん達しか知らないし。
でも先輩たちは瑠璃を他の部に行かせたくないみたいで、何回も入部して欲しいって瑠璃に言いに行ってる。
…………まったくもう。自由にしてあげればいいのにさ。
言いに行くたび瑠璃の機嫌は悪くなってるし、毎回私が落ち着かせてるんだからそのことも考えてほしい。
……怒った瑠璃ってすっごい怖いんだよ? 表情とか態度とかは変わってないけど、雰囲気が……なんだろ……こう、獲物を前にしたお腹をすかした狼と言うか……子供を拐われた象と言うか………そんな感じ…………かな?
とにかく怖い。いつも怒らない分とっても怖い。
……だから……やめて? ね?
怖がり白兎と何も知らない先輩の話。